43話 交渉
ロキの神殿に行ってから一週間の時が過ぎた。アキ達は奴隷の子供達の世話や移送の手伝いをして、そこそこ忙しくしていた。そんなある日のことだ。
「アキ、今日この後ちょっと付き合ってくれないか?なに、大したことじゃないよ、ただの交渉さ」
「ああ、構わないよ」
アキはアルトと一緒に屋敷を出た。歩きながら何をするか気になり聞いてみる。
「もちろん、この前の作戦の続きだよ。奴隷を売るやつらは消したから、次は買う奴らだ。僕らの動きをみて、慌てて逃げ出そうとした者は街への街道を押さえた部隊が捉えてる。でもそいつらは二流さ、今から行くのは街の有力者、戦力を持つ者、多分『原初の火』が関わってる」
そんな部隊が動いていることをアキは初めて知った。双子はよく姿を消していたので、そう行った仕事をしていたのだろう。
「ソプラノも行くんだ」
道行く途中で双子の片割れが姿を見せ、アキが言った。
「ええ、今回は二人の方が良さそうよ」
それは危険ということじゃないのか?アキはそんな場所に着いて行くことに不安を感じた。自分じゃなく、『月明かり』とかの方が適任ではないだろうか。
アキがそんな思いを抱きながらたどり着いたのは、大きな屋敷だった。人攫いの屋敷と同じくらいの大きさだが、こちらはずっと豪華であり、住んでいる人間の財力を感じさせた。
「どちら様で?」
屋敷の門番が威圧的にこちらに声をかける。屈強な黒服の男だ。アルトはアキの背中を軽く押した。え?なに?俺が話すのか?ソプラノもそっぽを向いている。
「えーっと、ここの屋敷の主人に用がありまして、取り次いでもらえますか?」
「ご用件は?」
「貴方にいう必要はありません。この街で最近起きていることについてです」
アキは適当に言った。黒服の睨め回すような視線を感じる。
「どうぞ、お入りを」
「ありがとう」
今のでなぜ納得したのかわからなかったが、黒服は門を開け三人を通した。
屋敷の中に入ると、そこで黒服から別の男、執事のようだ、に案内が変わる。そのまま屋敷の奥の扉まで案内される。
「失礼します。旦那様、客人をお連れしました」
「なんだと?まぁいい、通せ」
部屋に入ると、そこは広く、豪華な部屋だった。絵画やタペストリーが壁に掛けられている。机に座る男、旦那様と呼ばれた男は、葉巻をくわえ、高級な服に身を包んでいる。表情は傲慢に不遜な感情が読み取れた。
「ほぅ、中々上物を持ってきたな。双子かね?いいだろう、買ってやる」
「は?」
「買ってやると言ってるんだ。お前の主人も喜ぶだろう」
屋敷の主人は下衆な目つきで双子を見ている。アキはなんとなく理解した。この男、奴隷館の取り締まりを受けて、手元から奴隷を離したい買い手達から、奴隷を引き受ける商売をしているようだ。
そして、この双子を奴隷だと思っており、アキのことを買い手の使い走りだと思っている。状況は理解したが、このまま取引を続けて良いのだろうか。詳しい計画を何も知らない。
「そうだな…二人で金貨1枚だそう」
「金1枚ですか?」
「不満か?あまり欲を出すと後悔するぞ?」
「いえ、そういうことでは…」
奴隷の値段など知らない。スノリを買った時、オーディンはいくら出してただろうか、思い出せない。というより、この双子はどうする気なのか。アキはだんだんと腹が立ってきた。大したことない交渉じゃなかったのかよ、しかも全部俺がやるなんて聞いてないぞ。
その時、扉が開いてある女が入ってきた。髪を紫色に染めた女騎士だ。双子を見た瞬間、腕が腰に伸び、剣を抜こうとする。ソプラノが素早く動き、抜こうとした腕に膝を叩き込んだ。
「な、なにをする!誰か----」
屋敷の主人が叫ぼうとしたが、遅かった。アルトが机を乗り越え、主人の腹に一撃を入れてそのまま拘束する。アキは目の前の攻防についていけず、口を開けたまま突っ立っていた。
「『二対の雫』が来てるのは本当だったみたいね」
女騎士はソプラノを睨みつけながら言った。
「『原初の火』ね?一緒に来てもらうわ。アキ、扉を塞いで頂戴。窓から出るわ」
アキが本棚を倒して扉を塞ぐと、窓ガラスが割れる音がした。振り返ると新しい侵入者だ。黒いフードをかぶり、顔が見えない。
「君は…まさか…!」
黒フードは目の前のアルトに蹴りを入れ吹き飛ばした。同時に、女騎士がソプラノに頭突きをいれ拘束を解く。剣を抜いて切かかろうとしている。ソプラノも一瞬怯むがすぐに応戦している。
アキは吹き飛ばされたアルトの方に向かった。横目で見ると黒フードは屋敷の主人を持ち上げて、窓から脱出しようとしている。最後に、部屋をちらりと見ると何かを放り投げた。
「ソプラノ!アキ!毒だ!」
アルトの叫び声が響く。衝撃、爆発音とともに、目の前が真っ暗になった。




