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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
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45話 襲撃


その日の夜、ソプラノは戦えるものを集めて作戦会議を開いた。アキ達の旅隊パーティに加え、街道の封鎖をしていた兵舎の指揮官が参加している。名前は『天震』ビール、『名前付き(ネームド)』だ。


「私の【奴隷達の避難所(スレイブ・セーブ)】の効果が切れるまで後一日と少し、敵は『二つ名殺し(ネームキラー)』やジークフリートを擁し、かなりの戦力を保持してるわ。こちらはアルトが戦闘不能、奴隷の子供達も残ってる。『名前付き(ネームド)』は五人と数ではやや多いけど、はっきり言って不利な状況よ」


皆黙っていた。アキは知らなかったが、『二対の雫』は人間の国(ミッドガルド)でもトップクラス、ジークフリートや『二つ名殺し(ネームキラー)』は同格かそれ以上だ。


「この屋敷にいることは多分知られてる。襲撃があるわ。その時、ジークフリートと『二つ名殺し(ネームキラー)』には二人以上で対応して時間を稼ぐ、その間に他の人が襲撃チームを片付ける。そうしてから援護に向かって倒す。それしかない」

「わかりました。それでは奴隷達を含む非戦闘員を地下に退避させましょう。そして屋敷全体に罠をできるだけ仕掛けます」


『天震』は長く双子と組んでいるようだ、淀みなく言った。


「早速行動を開始して頂戴」


アキ達はソプラノの指示に従い動いた。通路や窓、階段に爆弾やハネ戸、隠し通路を設置する。作業量は膨大だが、時間は限られている。翌日の夜まで休む間も無く動き続けた。


「やれることはやった。明日の朝には守りが破られるわ。少し休みましょう」


全員が休息をとった。アキは緊張と不安でなかなか寝付けなかったが、疲れがたまっているらしく、気づかず眠りについた。


「アキさん…外を見てください…」


目が覚めると、少女の声がする。青白い顔だ。窓の外を眺めてみると、あぁ、なんということだ。白骨の軍が屋敷を取り巻いている。ガシャガシャという音が、こちらまで聞こえる。


「なんだよ…これは…」

「『墓場起こし(デッドコール)』の仕業でしょう。死者を動かしているんです」


腰につけたクロボが返事をする。


「これで逃げることもできないってわけか…。それにしてもなんて数だ。攻め込まれたら押し潰されるぞ」

「アイリーンを倒せば動かなくなります。狙うのは幹部のみ、雑魚に手間取ればそれこそおしまいです」


アキは苦い顔をした。困難な戦いになることはわかっていたが、ここまで彼我の戦力差があるとは。


「アキさん、来てください。皆さん集まってます」


戸口に現れたギュルヴィの後について、アキとスノリは作戦室へ向かった。最上階の部屋だ。


「外は見たはね?状況は見ての通りよ。作戦通り、二人組以上で行動する。私のチームがジークフリートか『二つ名殺し(ネームキラー)』を担当できるようにするけど、少なくとも片方は他の人が当たる。その時は時間を稼いで」


皆静かに頷いた。決戦の時は近い、アキは生唾を飲み込んだ。


「あと12分で効力が切れるわ」


短い、だが待つだけの時間はとても長く感じられた。アキの相棒バディは『月明かり』のリサ、そしてスノリと『吟遊詩人』ギュルヴィのチームと合わせて四人で行動する。その後、状況によって別れるのだ。


「あと1分よ」


いよいよだ。戦いに参加するのはこの作戦室にいるたった十八人だけ、アキ達の旅隊パーティと双子が連れて来た兵舎のメンバーだ。外には少なく見ても300体を超える骸骨が蠢いている。


「10秒………5.4.3.2.1守りがなくなったわ」


下の階から爆発音が聞こえたのは同時だった。続けて音が連続して響き、建物が揺れる。いくつかの罠が、何体かの侵入者を吹き飛ばしたのだろう。

相手はこれだけ戦力を持ってるのだ。こちらを削ってからしか、幹部は姿を現さないのでは?アキがそう思った時、その心配は杞憂に終わる。

作戦室の壁が吹き飛んだ。近くにいた何人かが巻き込まれて倒れる。穴から姿を現したのは、黒フード『二つ名殺し(ネームキラー)』だ。


「部屋から出て!早く!」


ソプラノが叫ぶ。すでに扉には兵士達が向かっていた。アキも無我夢中で扉から飛び出す。後ろを振り返ると、『二対の雫』の片割れと『天震』が侵入者に対峙しているのが見えた。


「アキ!私達はこっちよ!」


リサの声が聞こえて腕が引っ張られる。目の前では既にスノリとギュルヴィが通路を走るのが見えた。慌てて追いかける。

爆発音が近くなっている。ガシャガシャという音が近づいて来ている。突如、階段の下から骸骨の群れが姿を現した。

リサが剣を抜き、呪文を呟く。剣に眩い光がともり、その光を浴びた骸骨は灰になって崩れ落ちた。


「バルドル様の【光】の顕現!浄化の光です!」


クロボが叫ぶが、アキはどうでもよかった。敵を倒す、今はそれだけで十分だ。

光は凄まじい効果だった。剣を振るう必要もなく、目の前に現れる白骨どもが塵となっていく。四人が階段を降り広間にたどり着いた時、目の前に大きな骨の塊が迫ってきた。リサは剣を振り抜く。塊は真っ二つになり、灰となった。


「あらら、流石『月明かり』ね。私の白骨ちゃん達を簡単に消してくれるなんて」

「アイリーン…!」


蠢く骸骨の間から姿を見せたのは紫の髪、屋敷でソプラノと組み合った『墓場起こし(デッドコール)』だ。奴を倒せば骸骨達は消える。一番早く処理したい相手があちらから出てきた。


「一気に落とすぞ!」


リサが剣を携えて突撃するが、目の前に白骨達の壁が現れた。同時に左右から骸骨の群れが襲いかかる。


「ギュルヴィ!お前は左だ!」


アキは右側の群れに短剣を持って切り込む、逆側では詩人も同じ行動を取っているようだ。リサは正面の壁を灰にしてアイリーンに迫る。


「おっとっと!これはマズイね!」


リサに骨の波が襲いかかるが、全て灰にしていく。肉薄する『墓場起こし(デッドコール)』は仕込み杖を取り出して剣を受けた。

跳びのいて骨の波に乗りリサから離れる。あとを追う『月明かり』の前に男が立ちはだかった。


「ここで出てきますか…!」


ギュルヴィが呟いた。返り血のような真っ赤な赤髪、燃える上がるような瞳、腰には巨大な大剣。『竜殺し』『真の英雄』ジークフリートだ。


「私とアキさんでジークフリートの相手をしましょう。スノリさんはリサさんの援護を、できるだけ早く『墓場起こし(デッドコール)』を倒してください!」


詩人はそう言って英雄に弓を射かけた。ジークフリートは躱すそぶりさえ見せない。矢は突き刺さる寸前に体の前で止まった。


「やはりダメですか…」


憎々しげに詩人が呟くのが聞こえたが、アキは突進した。短剣を全力で突き立てる。感触がない、首筋に当たっているはずの刃はギリギリで止まっている。


「無駄だ」


アキは跳びのいた。ジークフリートは反撃する気配すら出さない。舐められている。

幾らかの時間が過ぎた。アキとギュルヴィがどんな攻撃を仕掛けても、意に介しようともしない。攻撃もせずにただ受けているだけだ。


「ジーク!やっぱ『月明かり』とは相性悪すぎ!何とかしてよー!」


アイリーンがスノリの魔法を躱して飛び出してきた。傷を負って血を逃しているが、気にしている様子はない。

ジークフリートがリサを見て初めて剣を抜いた。不味い、アキは直感した。直後、恐ろしい殺意が全身を襲う。このままだと死ぬ。

『月明かり』に向けて剣を振りかぶっている。大丈夫だ、リサは未来を読むようにして動く、実際にそう言った能力ギフトがあるんだろう。大丈夫だ----


ジークフリートが剣を投げた瞬間、リサの胸から大剣が生えていた。速すぎて軌跡が見えなかった。


「ジークフリートォォォオオ!!!!」

「アキさん!ダメです!」


詩人の声が聞こえたような気がしたが、アキは走り出していた。手刀が振り下ろされる。【不品行な身代わり】を発動させる。床が弾け飛んだ。短剣を顔に突き立てたが、傷一つつけることはできない。ジークフリートの腕が伸びる。


「「アキさん!!!」」


二人の声が聞こえる。ジークフリートの顔に血がついてるのが見える。彼の血ではない。アキはゆっくり下を向いた。自分の体にジークフリートの腕が刺さっているのが見えた。痛みはもはやなかった。膝が勝手に崩れ落ちる。

倒れる視界に最後に映ったのは、表情を一切かえない『真の英雄』の顔だった。

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