41話 九曜の大司祭
ユトランド聖国にある月の教会総本山の通路を男が歩いていた。黒い軍服にコートを羽織っている。胸には『劔による十字架』のマーク、教会の闇を請け負う『処刑者』の証だ。
処刑者の男は呼び出しを受けていた。秘密の通路、秘密の階段、秘密の扉を開ける。ここは教会でも極一部のものしか知らない場所。
「機密統制局、局長アルファスです。
失礼します。九曜の大司祭の方々」
目の前の礼拝堂には九つの影。教会の頂点に座する『九曜の大司祭』が集まっている。
「よく来たな、アルファス。早速本題に入らせてもらおう。残念だが、我々は機密統制局が『月明かり』の件に全力を挙げて取り組んでいないのではないか。との懸念を抱いている」
「そんなことは、目下、全力で対応中です」
アルファスは短く答えた。今から始まるのは吊るし上げだ。教会の機密を知り逃走した『月明かり』のリサ。あの女を未だ捕らえられぬことに対し、大司祭の怒りの矛先が自分に向かっていのだ。
無論、統制局も行動している。実力のある『名前付き』を複数送り出しているが、捕まらない。逃げる時もそうだ、通常の方法では考えられぬ速度で国外に出ている。
「報告書は読んだが、これはどういうことだ?」
「と、言いますと?」
「目撃証言がてんでバラバラ、帝国の学術都市にいたかと思うと、次は王都だと?しかも今は、都市国家連邦のバル自治区にいることになっているではないか」
アルファスは感情を抑えた。私だってこの一月の間で人間の国を飛び回っているなど考えたくはない。しかしこれが事実だ。『月明かり』は名高く、そして目立つ。複数の信頼できる目撃者がいる。
「何らかの能力によるものだと推測されます」
「教会で確認されている能力にそのようなものはないがね」
「学院はあれから何と言ってきている?」
別の大司祭が口を開いた。そう、さらに問題を複雑にしているのが、同じ三大派閥の星の学院だ。奴らは『月明かり』を含む旅隊に対し、全面支援する声明を出している。『魔術詩人』もいるようで、当然教会への協力はない。
「基本的に変わっていません。件の旅隊に対し、敵対行動を行うのならば、学院は全勢力を挙げて守る。とのことです」
「やれやれ、マシな報告はないのかね?」
大司祭達が納得するような情報があれば、自分がここに召喚されることはないだろう。アルファスは表情を消したまま頭を下げた。
「全く、王国では『聖なる柵』の崩壊と魔物の軍の集結と謎の消滅」
「南では『原初の火』の活動が活発になっていると聞く、新たな薬物が出回っているようだ。」
「神の眷属達には頻繁に神託が降ろされている」
「三つの冬の予言が近づいているのでは?」
「帝国と王国の全面戦争までもが始まろうとしている」
『九曜の大司祭』それぞれ口を開く。教会が掴んでいるあらゆる情報が、彼らの元に集まるのだ。
「さよう、よいかな局長。今世界はかつてないほどに不安定となっている。その中で人々を導き、救いを与えるのが我々、月の教会だ。『月明かり』は我々の存在意義を危険に晒す機密を知っておる。必ず探し出し、処理せよ」
「わかりました」
アルファスは一礼し、踵を返して礼拝堂から出た。大司祭の吊し上げも次はないだろう。
しかし、既に手は打ってある。都市国家連邦での任務を終えた、奴に指令を出しておいた。何人もの英雄を抹殺した凄腕、『二つ名殺し』なら、『月明かり』を難なく処理できるだろう。




