40話 収束
事件は収束を迎えていた。囚らえられていた全ての奴隷達は、最も大きな建物、人攫いの屋敷に集められた。そこで、『二対の雫』が連れてきたスタッフ達が様々な世話を行なっている。
「この子達はこの後どうなるんだ?」
「僕たちが経営してる孤児院に移すんだよ。そこで治療や教育をして人間に戻すのさ。数が多いし、バル自治区は危険地帯だから時間はかかるけどね」
スノリを取り戻してから三日の時が過ぎていた。双子は約束通り、アキ達に馬車を一台貸し与えたが、アキは『原初の火』が気になり、まだ留まっていた。
二人は今、『堕ちた聖騎士』が監禁されている部屋の前で待っている。中では拷問官がしごき上げているはずだ。
かちゃりと扉が開いた。
「…ダメね、やはりもっと長い時間が必要になりそうだわ」
「わかった。仕方ないな」
ソプラノの表情は暗かった。アキはアルトについて扉に入った。
暗い部屋だ。窓はなく、時間がわからない。
狭い部屋だ。石造りの床に壁、気を紛らわすものは何もない。部屋の中央にはジロウが鎖に吊り下げられている。あちこちから血を流し、痣だらけだ。
「やぁ、ジロウ、彼女から聞いたよ。君は水責めも火炙りもものともしない。相当な精神力だ。感嘆に値するよ」
アルトの明るい声に、わずかに顔を動かして反応している。
「それで僕たちは方針を変えることにした。今すぐ君から話を聞くのは難しいみたいだから、長い時間をかけて君をいたぶることにする」
アルトはクスクス笑いながら話を続ける。ジロウの反応を楽しむように。
「誰もがいつかは折れる。長く激しい拷問の中で、絶望から逃れたくて名前を言うんだ。本人は言ったことを覚えていない。君もそうなる。それは一ヶ月後かもしれないし、一年後かも、十年後かもしれない。安心してくれ、僕らも君も血を受けた不老の身だ。時間はたっぷりある」
「お前などに誰が言うか。あの女にもな」
男は血が混じった唾を吐いた。アルトは冷たい声で続ける。恐ろしい、底冷えするような声だ。
「強情なのはいい。楽しめそうだ。
君は次に『箱』に入れられる。知ってるだろう?関節を一つも動かすことができない、狭く、暗く、冷たい箱だ。そこで何日か過ごしてもらおう。僕が次に会うのは出た時だね」
二人は部屋の外に出た。ソプラノが腕組みをしながら待っている。アルトが残念そうに言った。
「アキ、彼が何か情報を吐くには後一ヶ月は少なくかかるだろう。奴隷達を移送するのもそれくらいだ。君はどうする?」
「…俺も付き合うよ。少なくとも奴隷の子供達が安全な場所に移動するまでは」
アキは言った。胸糞が悪かった。正義のためとはいえ、無抵抗の男を痛めつける姿を見るのは。




