39話 落ちた屋敷
アキは飛び起きた。目の前でギュルヴィが驚きの表情で目を見開いている。
「え?アキさん?大丈夫なんですか?」
自分の腹の傷を見てみる。血が出ているが、表皮が切れただけだ。
「え?どうして…?」
詩人は開いた口が閉じずに間抜けな顔をしている。アキはクスリと笑った。横にいたスノリが泣き声を上げながら抱きつく。
「だから言っただろう。アキは大丈夫だって」
部屋の奥でジロウの前で何かをしているアルトがこちらを見ずに言った。
「しかし…どうして?刀身が横腹に食い込むのを見ました。かなりの一撃だったはずです…なぜ…?」
「なんだ、俺が死んだほうがよかったか?」
アキは詩人に肩をすくめてみせる。
「ロキの【不品行】の力の顕現だ。『目の前にないものを幻影で呼び出し、目の前のものに肩代わりさせる能力』俺のは劣化しているから『目の前のものに肩代わりさせる能力』だけになってるけどな、それに一日一回限定みたいだ」
アキは一息に言った。夢の中での会話の前から、能力のことは知っていたはずなのだ。無意識に使っていたらしい。
「それより、状況を説明してくれ」
「ほんと良かったです…。
ええ、わかりました。まず、リサさんですが、不意打ちの直前に防御態勢をとったみたいで、軽傷です。今は屋敷の捜索に出ています。スノリさんも無事、特に怪我や薬の後遺症もありません。『原初の火』のジロウですが、情報を聞き出すためにアルトさんが蘇生しているところです」
アキは周りをもう一度見渡した。スノリはまだ、わんわんと泣きながらアキにしがみついている。ジロウに対し、アルトが魔法をかけながら治癒を試みているようだ。ソプラノはその側に立って見守っている。
ジロウの指がピクリと動いた。
「よし、これで大丈夫だろう。『血封じの種』を植えておいた。能力ももう使えない」
ソプラノは呻き声をあげるジロウを椅子に座らせた。腕を魔法で拘束する。
「起きなさい」
拷問官が容疑者の顔を叩いて起こす。ジロウは覚醒し、憎々しげな目を向けた。
「貴方は負けたわ。この屋敷は落ちた。『原初の火』のことはわかってる。知ってるをことを話しなさい」
「某が話すと思うか?」
答えが返ってこないのを確認して、ソプラノは顔面を殴りつけた。椅子がひっくり返り、大きな音を立てる。
「貴方は負けたの。惨めな敗北者よ」
首を掴んで無理やり立ち上がらせ、そのまま締め上げた。ジロウの顔が苦痛に大きく歪む。
「く…あ…く…」
ソプラノは手を離した。無様に地面に倒れこみ、ゴホゴホと大きく息を吸い込んでいる。
「ソプラノ」
「ええ、アルト、やはり簡単には口を割らないわ。時間が必要ね」
戦いは終わったが、双子の仕事はここからだった。




