37話 第二段階
「奴隷館のどこにもスノリがいない!」
「アキ、何回言わせるんだい?落ち着きなよ。すでに作戦は次の段階に入ってる」
アキは九つの館を隅々まで探し回ったが、少女を見つけることはできなかった。アルトはうんざりしたように答える。
「僕らの能力『奴隷解放による休息』はマーカーの役目もある。館に接触したものを追跡するんだ。奴隷館に来るやつは、買うやつか売るやつだ。スノリはまだ売られてないんだろう」
アキはじっとしていられなかった。実際にはやることはある。囚られていた奴隷たちに服を与え、食事を与え安心させるのだ。アルト達はその作業をこなしていた。
「ソプラノが既に動いてるよ。やることは館の襲撃と同じ、襲って、捕らえて、吐かせるだけさ」
「一人で大丈夫なのか?」
アキの質問をアルトは笑い飛ばして言った。
「ソプラノは情報を引き出す達人だ。昨日は速度を重視したから殺してしまったけど、彼女は人を死なせない術を心得ている。もちろんその逆もね」
二人が話していると、部屋にソプラノが入ってきた。
「おや、噂をすればだな。どうだった?」
「大方潰したわ。最後に一つ大きいのが残ってるだけ。情報からスノリもそこにいると思う」
「ほんとか!よかった…」
アキは喜びを隠しきれなかった。しかしアルトの反応は逆だ。
「ソプラノ、何故そこを潰してこなかったんだい?」
「裏で大きいのが関わってるみたいなの。多分『名前付き《ネームド》』がいる。だから一度戻ってきたわ」
「『原初の火』の奴らかもしれないね。よし、ギュルヴィとリサも連れて行こう」
双子の動きは速かった。アキはそれについていきながら、解説係に聞く。
「『原初の火』は巨人の血を受けた人間が作った組織のことです。兵舎で『四重精霊』に会ったのを覚えていますか?彼らは人類側に属していますが、『原初の火』のメンバーは巨人の側、人間の敵です」
五人は合流し、目的の建物まで来ていた。かなり大きな屋敷だ。門には見張り番がうろついている。
「今回は二手に分かれましょう。あなた達三人はひとかたまりになって屋敷の敵を掃討して頂戴。無力化できなければ、殺害も仕方ないわ。指揮官クラスがいた場合のみ、確実に捕縛して。あなた達は正面から陽動、私たちは裏から回る。30秒後から自由に行動して、じゃあ、幸運を祈るわ」
双子はそう言って姿を消した。アキは緊張が高まるのを感じていた。
「行くぞ」
アキの掛け声に合わせて、ギュルヴィが矢を放った。見張りが倒れる。さらに扉に刺さった矢が爆発し、入り口を吹き飛ばした。
屋敷に突入すると、爆発音を聞き、わらわらと兵が集まって来ていた。皆、手に武器を持っている。
最初に切り込んだのはやはりリサだ。片眼の眼鏡の奥に青い光を灯し、次々と傭兵を斬り伏せている。背後から迫る敵は、ギュルヴィが剣と魔法を駆使して迎撃している。アキは横の階段から現れる傭兵を短剣で切り殺した。
館の一階、そして二階を屍を増やしながら進む。相手の反撃が明らかに少なくなって来ていた。その時、先頭を走るリサが、通路の壁ごと吹き飛ばされた。空いた壁から中の部屋が見える。長髪の男が長い刀を持ちこちらを睨みつけている。アキの目は男の姿を捉えていなかった。部屋の奥に見えるのは、探し求めていた少女だ。
「スノリ!」
アキは飛び出したが、後ろからギュルヴィに掴まれ、動きを止められた。目の前に剣線が走る。そのまま動いていたら首が落ちていただろう。
「アキさん!」
「大丈夫だ!すまない!」
詩人の声にアキは目の前の男から目を離さず答えた。
「其方は星の『魔術詩人』とお見受けする」
「…『堕ちた聖騎士』ジロウ…!」
リサは瓦礫の下で動く気配はない。一瞬の膠着を壊したのはギュルヴィだった。魔法を紡いだ矢を放つ。ジロウは難なく切り落としたが、その破片から植物が伸び、拘束しようと襲いかかる。ジロウは軽くステップを踏み、その場所から離れた。そこにアキが走りこむ、得物の長さは不利、接近戦に持ち込めば有利だ。
アキが短剣を振りかざす、長い刀と何度か交叉し、弾く。このままだと寄り切れば…アキは敵を見据えた。ジロウの持つ長い刀の先が…消えていた。その直後、横腹に鋭い痛みが走る。下を見ると、消えた剣先が食い込んでいる。瞬間的に刀身を移動させる能力か…アキはそんなことを思いながら倒れた。
「いや…いやぁぁぁあああ!」
叫んだのはスノリだった。呪文を紡ぐ、大きな質量をもった光の矢が目の前に出現し、殺人者に向かって飛びかかる。ジロウは刀で受けるが、刀身は砕け、光の矢が突き刺さる。男は血を吹き上げて倒れた。
「アキさん!アキさん!!!!」
屋敷には少女の悲痛な叫びがこだましていた。




