36話 解放
38部 解放
「目的の建物の出入り口は三つ、いつもなら一つを塞いで、あとの二つから入るけど、今回は三方向から侵入するわ。残った二人は建物から逃げ出す人を捕らえてちょうだい」
ソプラノが走りながら説明する。
「俺が入る」
アキは当然のように言った。
「アキ、君の意気込みは買うけど、これは冷静さが求められる。中の人間は誰一人殺さず、無力化するんだ。僕は何度か一緒に働いたことのある『月明かり』に任せたいんだけど」
アルトは落ち着いて諭すように言った。
「私がフォローする。外はギュルヴィがいれば十分でしょ?アキ君なら大丈夫だよ」
リサの言葉に、全員が頷いた。
「あれが目標だ。アキとリサはあの裏口から入ってくれ、ソプラノは正門、僕は向こう側から入る。突入の合図は、僕が陽動を兼ねて騒ぎを起こす。爆発音がしたら突入してくれ。『素早く静かに』だ」
アキはリサと配置についた。心臓が高鳴る。スノリを攫ったやつらを見つけ出してやる。
爆発音が建物の向こう側から聞こえた。中が騒がしく動く気配がする。リサは扉を蹴破って突入した。アキもそれに続く。
右手の扉から現れた男に、短剣を繰り出す、急所を狙った一撃に意図的に力を加え、肩を切り裂いた。これなら死んでないだろう。倒れた男の顎に蹴りを入れて意識を奪う。リサも室内を素早く制圧していた。
奥に進むと、ソプラノが走ってくるのが見える。手信号で階段を指す。リサは短く頷き、階段を駆け上がった。
二回は長い廊下で両側に扉が並んでいる。リサはアキを見て右を蹴破るように指示した。
扉を破壊して開ける。中にいるのは少女達だ。服もなく虚ろな顔をして、焦点の合わない目をアキに向けている。体はアザだらけだ。
「アキ君!」
リサの声がしてアキは意識を取り戻した。少し呆けていたようだ。次の扉を蹴破る。少女、少年、また少女。怒りがさらに増大するのを感じる。
奥の両開きの扉を開けると、アルトが男を拘束しているが見えた。リサは素早く他の部屋に入って行く、アキも逆側の部屋を探った。誰もいない。
アルトの場所に戻ると、ソプラノも合流していた。この男が責任者のようだ。アキは憎しみの視線を向けた。
「アキ君、ここからは『二対の雫』に任せましょう。彼らはこの道のプロよ」
リサはアキの腕をとって言った。
「さて、あなたがこの奴隷館の責任者のようね。貴方には選択肢があるわ。話すか、死ぬかよ。他の奴隷館はどこ?」
「…くたばれ」
男の言葉が聞こえると同時に、ソプラノが指をへし折った。絶叫が部屋に響き渡る。
「状況が理解できていないようね。貴方は殆ど死んでいるのよ。ただ、唯一の道を示しているつもりなのだけど…なかなかわかってもらえないようね。他の奴隷館の場所を話しなさい」
男の返事がないことを悟ると、ソプラノがもう一本の指をへし折った。絶叫がまた、部屋に響く。
「やぁ、痛いかい?彼女は少し過激でね。君、名前はなんて言うんだい?」
「…ハァハァ…アンバー…」
「アンバーか!僕はアルトだ。出来たら僕は君を生きて返してあげたい。だけどね、アンバー、指が全部無くなってしまったら、生きて外に出た時にどんな仕事ができる?彼女は残酷でね。手の指の次は足の指だ。その次は歯。それでも話さない者は目をくり抜く。まぁ、ここまでして黙秘する奴はもう何も喋らないだろうけどね。だけど彼女はそれだけじゃ終わらない。舌を切り取って、耳を潰す。関節を破壊して動けなくする。アンバー、君にはそうなってほしくないなぁ、おっともう彼女の時間だ」
アルトに変わった後にまたソプラノだ。よくある良い刑事と悪い刑事のようだ。最悪の状況での。
「待ってくれ!いやだ!彼女は嫌だ!」
「あら、私のことがそんなに嫌い?まだ腕の指は八本も残ってるわ。せっかくだし、まとめてみましょうか」
ソプラノは片手に残った三本の指を一気にへし折った。叫び声は掠れている。
「話す、話すからもうやめてくれ…もうやめてくれ…」
「早く言いなさい。まだ指は残ってるわ」
「…13番通り、4階建ての青の建物…」
「他にもあるでしょ?一つだけしか知らないとは言わせないわよ」
ソプラノの拷問は続き、四つのポイントを聞き出した。男は拷問の途中に死んだ。
「まず全ての奴隷館を解放するわ」
「ここは放って置くのか?誰か入られることは?」
「安心してくれ、僕らの能力に『奴隷解放による休息』と言うものがある。安全なエリアを48時間限定で作り出すものだ。これでここは安全だよ」
五人は次の奴隷館でも同じことを繰り返し、その次でも同じことをした。情報は増え、合計九つの館を解放した。
残念ながら、奴隷館の責任者は全員、拷問から生きて戻ることはできなかった。




