32話 二人目
巨人の館を出発してしばらく経ったのち、アキ達は再び、別の巨人と遭遇していた。巨人の名はビルーニスル。北に少し行ったところで釣りをするらしい。トールは機嫌を直したようで、一緒に行って釣りをすることに決めた。
「私釣りなんて興味ないなぁー」
海辺でリサはぼやいている。アキはこっそりスノリに耳打ちした。
「フェンリルに襲われた時に使った『無秩序な跳躍』をするかもしれない。スノリの魔法で、ギュルヴィやリサも一緒に運べるか?」
「え?…うん、アキさんが私に触れてれば、他の人も一緒に連れて行けると思う」
「分かった。合図するから準備しといてくれ、トールは置いて行っていい」
スノリが不安げにコクリと頷いた。ここからが正念場だ。アキは気合いを入れ直した。
「トール殿はあまり釣れとらんようですな」
「ビルーニスル殿は小魚ばかりではないか、わしは大物を狙うよ」
陸でも舌戦をくりひろげている。巨人と神は基本的に相容れない存在のようだ。
数時間経っただろうか、リサは完全に興味をなくし、海辺に腰掛けて蜂蜜酒をあおっている。ギュルヴィは一応ニコニコしながら釣りの様子を見ているようだ。アキもトールのそばにスノリを連れて控えていた。
「ん?これは…?かかったぞ大物だ!!」
トールの竿がしなり、狂喜して振り上げる。海が膨れ上がるように動く、波が逃げるようにさざめく。海の中から現れたのは巨大な大蛇、『世界蛇』ヨルムンガンドだ。
世界蛇はジロリとトールを見た。トールはやや怯んだが、睨み返している。緊張の中、アキは進み出た。
「私はロキの眷属のアキだ!世界蛇ヨルムンガンドよ!少し話をしないか?」
アキの行動に、地にいるものは目を疑った。いくら同じロキの眷属でも自殺行為だ。
「人間よ、我はお前ごときのために海から出てきたのではない。目の前の神を一目見たくて来たのだ。お前のような矮小な存在が、我々の間にしゃしゃり出るな!」
世界蛇は首を動かした。海が泡立ち、波が大口を開けて大地を飲み込もうとする。
「スノリ!跳ぶぞ!」
アキは叫んで、少女を抱き寄せた。海が目の前に迫っている。波が飲み込む前に体をなんとか捻り、姿を消した。




