24話 責任
旅隊に新たな二人を加えた一行は、霜の街を出発していた。トールもリサも荷物を持っておらず、その身のまま馬車に乗り込んだ。学院に用意してもらった馬車は大きかったが、トールが入ることでギリギリだった。それを見てリサは喜んでスノリを自分の膝の上に乗せている。
「野盗のようですね」
旅に出た日の夕暮れ前に、街道に飛び出して来た十数人の男たちを見て、ギュルヴィは冷静に言った。アキは『月明り』には出てこないように伝え、外に出た。トールは二日酔いで爆睡している。
「持ち物を全部置いていってもらう。さもなければ死ぬことになるぞ」
野盗はアキを見て脅し文句をはいた。アキは野盗の手にある剣に少し身じろぎをしたが、怯んでばかりはいられない。前に進み出た。
野盗がそのまま一行を襲えば、間違いなく撃退できる。こちらの戦力は『名前付き』が二人に闘争の神トールがいる。結果が見えているならば、少しでも犠牲を減らしたいと思い、なんとか交渉で帰ってもらおうと考えたのだ。
「出来たら争うのはやめて平和にお話ししませんか?お金なら少しならお渡しできます」
「金を持っているならなおさらだな、全て置いていくか、死ね」
野盗の男が合図して、他の何人かが馬車を取り囲む。
「まぁまぁ、落ち着いて下さいよ。馬車には凄腕の騎士がいます。開けない方がいいですよ」
「はったりだな。そんな奴がいるならなぜ出てこない。やれ」
野盗の一人が扉に手をかけて開いた。中を覗き込む男が満面の笑みを浮かべる。
「女がいるぞ!しかも二人共上物だ。これはいい-----」
男の言葉の先が続くことはなかった。馬車の中に手を伸ばした腕は、肘から先が切断されている。
男は叫び声をあげながら尻餅をついた。中からゆっくり出て来たのは『月明り』だ。抜き身の剣を左手に持っている。
「逃げた方がいいですよ。彼女は教会の『名前付きです」
目の前の野盗にアキは警告した。本気で野盗の身を案じての言葉だった。このままだと血の海になる。
「ふざけるな!殺せ!」
野盗は剣を振りかざした。アキは素早く短剣を抜き、剣を弾く、動きは補正されている。そのまま首に一直線に突き立てようとしたところで、左手で短剣を持つ手を抑えた。急所を狙った一撃は外れ、男の鼻先をかすめる。血が吹き出し、野盗は転がるようにして逃走する。アキは一息おいて馬車の方を見ると、既に戦意を喪失した野盗達が逃げていくところだった。
幸い相手にも死者はいないようだ。アキはホッとして馬車に戻った。行者台に座ったギュルヴィが、騒動の時のまま冷たい目でこちらを見ている。アキは中に入るのをやめ、詩人の隣に座った。
「なんだよ」
アキの問いに詩人は黙ったまま馬に鞭をいれる。馬車が動き出す。そして詩人は言葉を慎重に選びながら答えた。
「アキさんの考えは理解できます。死人を出したくなかったんでしょう。しかししながら、生き延びた野盗は次の獲物を狙います。標的になったのが、善良で無力な人間でも、彼らは殺しますよ」
「…………」
ギュルヴィにこんなことを言われるとは思ってもみなかった。どちらかというと賛成してくれる立場だと思っていた。アキは詩人が自分を信頼してくれるからこそ、こんな話をしているのだとわかり、黙ったまま聞いた。
「逃げるものを執拗に追撃しろとはいいませんが、こちらを殺そうとしたものに慈悲をかけて逃すのは間違っています。私達には力があり、その力に対する責任があると私は思います。悪を挫き、弱きものを守るための責任が」
詩人の言葉にアキは何も言い返せなかった。二人は次の休憩まで、お互いに一言も発することはなかった。




