25話 移動手段
野盗の襲撃から数時間がたち、休憩のために馬車が止まる。長い間黙っていたアキはようやく口を開いた。
「ギュルヴィ、俺は人殺しなんてしたくないし、できたらお前達にもして欲しくない。だけど、責任があるのはわかった。命をやり取りすることに関してもっと考えてみるよ」
アキの言葉に詩人はゆっくり頷き微笑んだ。
「難しい問題です。人それぞれの考え方があるでしょう。差し出がましいことを言ってすいませんでした」
アキは詩人の肩に手をおいた。馬車からはぞろぞろとスノリ達が出てくる。
「あー腰が痛い!やっぱり馬車は窮屈だなー。トールんが場所とるし」
リサが伸びをしながらぼやく。トールは目が覚めたのか、酒びんを傾けながら欠伸をしていた。
「なんじゃ、まだこの辺か、全然進んどらんのう」
「しょーがないよトールん、馬車で移動してるんだから」
トールが呆れるように言ったのに対し、リサが文句を言った。
「馬車?じゃあわしの戦車をだすとするか、このままじゃ何日かかるかわかるまいて」
アキはなんだか不穏な予感がした。トールが懐をゴソゴソと探り、取り出したものを放り投げる。現れたのは巨大な戦車だった。馬の代わりに筋肉を盛り上がらせた大きな山羊が引いている。
「なんですかこれ…」
詩人が目を見開いて言った。トールは自慢するように大声を出して答える。
「フレイルのもつ伸縮自在の魔法の船を参考にして作らせた戦車じゃ、こいつは頑丈な上速いぞ」
何故これを最初に出さなかったのか、ということだが答えは簡単である。出発の時には酔い潰れてトールが寝ていたからだ。
「馬車の方の籠をこっちにくっつけるか、少々魔法をかければなんとかなるじゃろう。おい、『祝福の子』!こっちに来て手伝え」
スノリがひょこひょことトールのもとに走っていく、何やら魔法について教えてもらっているようだ。リサはいつの間にか携帯食料をつまみ出している。詩人も驚くことを諦め、食事の準備を始めた。
一通りの休憩を終えだ後、戦車を見上げる。でかい、何やら扉のようなものもあるので、中に入れそうだ。リサは躊躇なく戦車の中に入っていった。アキ達もそれに続くと、外から見ただけでは信じられないほど広い空間に出た。
「すごい…空間彎曲の魔法で拡張してあるの?」
スノリは興味津々に中を探っている。リサは既に酒びんを手に寛いでいた。ギュルヴィはアキの方を見て肩をすくめると適当に腰をかける。アキも大きなソファに座ることにした。
戦車が動く気配を見せ、アキは窓の外を覗いた。景色が飛ぶような速さで流れていく、信じられないスピードが出ているようだが、中はそんなことを感じさせないほど静かだ。きっと魔法がかけられているのだろう。
トールも移動中にどうやったかわからないが、中に入って来た。
「トール様、行者台には誰も座らなくてもいいのですか?」
「あの山羊どもは優秀だからな」
詩人がおそるおそる聞くが、トールはそっけなく返事をする。手には馬車に積んであった酒瓶を抱え込んでいた。今から一盛りやるようだ。
「まぁ三日くらいあれば巨人の国につくだろう」
トールは瓶を飲み干して言った。詩人は驚きの連続で表情がなくなっている。
「三日ですか、馬なら一ヶ月かかって王国の首都に到着する予定でしたが」
「しまった!そうか!」
トールが突然叫んだ。皆なにごとかと注目している。
「王都の蜂蜜酒は絶品じゃ、寄らない訳にはいくまい」
酔っ払いの神はどすどすと歩き、凄まじいスピードで動いているはずの戦車の外に出た。山羊に目的地の変更を伝えるためだった。




