表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
20/89

18話 調べ物

『なに?わしの大鎚が盗まれただと?返して欲しいならフレイヤを妻として差し出せだと?

いい考えがあるぞ、わしがフレイヤの変装をして近づく、そして盗人の頭を叩き割ってやる!』


-古のエッダ トールの女装-



螺旋の階段を上った先の部屋はアキが今まで見た中で最も豪華な部屋だった。置いてある調度品はどれも細やかな装飾が施されており、一目で高級品なことがわかる。


「どうぞお寛ぎください。さぁ、そちらにお掛けください」


学長に勧められた椅子に二人は腰掛けた。柔らかい、弾むような感触だ。ギュルヴィは窓際の書棚に興味を持ったように、立ったままそちらを眺めている。先ほど学長を魔法戦でボコボコにし、気まずさを持っていることをアキは察した。


「すいませんが、それでオーディン様にはどのような神託を受けたのか聞かせてもらえますか?」


アキは目の前に腰を下ろした学長に向けて言った。さすがに丁寧な口調になっている。


「わかりました。我が主からは、この街に『魔法ルーン』開発の最大の功労者の少女、『祝福の子』スノリ様が訪れていると、その方を見つけ出しもてなせ。その後学院の総力を持って協力せよ。と申し使っております。もちろん、合わせてスノリ様の外見的特徴と、同行しているであろう従者あなたの存在も聞いておりますよ」


具体的な自分たち(アキかスノリ)への指示はないようだ。となると、勝手に行動していればオーディン(向こう側)から接触があるだろう。アキはそんな風に捉えた。


「差し支えなければですが…是非スノリ様に魔法《ルーン文字》をどのように開発したか聞いてもよろしいですか?私も魔術師として、あれほどの理論がどう生み出されたのか非常に気になるのです」


学長は満面の笑みで頭を下げた。スノリはどうしようという顔でアキをチラチラ見ている。仕方なくアキは自分が説明することにした。


「その話は俺…私からしましょう。

ルーン文字自体の考案者は主神オーディン様です。オーディン様は大樹ユグドラシルの木に自ら首を吊り、九日の間、自分を自分に捧げました。その奇跡がルーン文字を掴み取ったと言われています」

「自分に自分を捧げる…?それはなんと…人間の私には高尚な話ですな」

「…そうだったんだ…」


アキはあっちの世界での神話をでっち上げた。学長は感心するように頷き、隣の少女までもなるほどと首を振っている。


「それでスノリ様はその後、何かされたのですかな?」

「あ…私はおじ様…オーディン様に基本文字を教えてもらった後、ルーン文字の配列や、文字列の順番、長さなんかを一緒に考えました」

「あの完成された文法を?それはなんと素晴らしい。流石はルーン文字の母ですな」


アキが口を挟む間も無く、二人は話し始めた。アキは開発のきっかけを作ったとはいえ、ルーンがよく分かっていない。


「ちょっと待ってください。あの一節の長さや詠唱時の基本概念を作ったのがスノリさんなんですか?長さが長ければ安定性を失い、短ければ効果が十分に現れないところです。伝えられた基本理論はそこが完璧だ」


ギュルヴィも会話を聞いて飛びつくように参加する。本格的な魔術師談義が始まろうとする中、扉からノックの音が聞こえ、三角帽子を被った男性が入ってくる。


「学長、申し訳ありませんが少しよろしいですか?」


学長は悲痛な顔をしながら、男の方に歩いて行った。少し会話をした後、悔しそうな顔をしながら三人を見る。


「申し訳ありません、宴会の準備の調整でいかなければならないようです。もっともっとお話ししたかったのですが、この続きは食事の席で、ということにさせてもらってもよろしいですか?」


悔しそうなのは魔術師談義の続きができないからのようだ。


「あ、はい大丈夫ですよ」

「申し訳ありません、絶対にこの続きはさせてもらいますので」


少女の返事にいくばくか元気を取り戻した学長は、深々と礼をすると男と共に部屋を出て行った。

少女と詩人は魔法ルーンの話の続きをしている。アキはやることがない。どうするか悩んでいると、いい考えが浮かんだ。


「俺はちょっと図書館に行ってくる」

「おや、調べ物ですか?あそこは資料が豊富ですからなんでもあると思いますよ」

「あ、それなら私も行きたいです」


結局三人で向かうことになった。ギュルヴィが羊皮紙に書き置きを残し、部屋から出る。

図書館はやはり大きい、塔を丸ごと一つ使っているようで、円形の部屋の壁は全て本棚で埋まっている。上を見上げると天井がわからないほどだ。空中に浮かぶ椅子に人が座って本を探しているのが見える。

スノリはフラフラと本棚の森に歩いて行った。その様子を見ながらギュルヴィが声をかける。


「アキさんは何をお探しですか?ここは蔵書が多いので、司書に聞くのが一番ですよ」


詩人の提案に従い、中央のカウンターに座る女性のもとに歩いていく。黒縁の丸眼鏡をかけた女性だ。熱心に本のページをめくっている。


「ハンナ、久しぶりだね」


ハンナは本から目を離し、眼鏡を指でなおした後、声をかけた男に顔を向けた。分厚いレンズのせいで目が大きく見える。


「ギュルヴィ君、久しぶりだね。本を探しにきたんでしょ?どんなもの?」

氷の国(ニブルヘイム)死者の国(ヘルヘイム)に関するものを探してる。あと、出来たら炎の巨人スルトに関するものも」


アキは代わりに答えた。将来的に見て、ロキの三人の子供のうちの一人、冥府の女王ヘルのことを知っておこうと思ったのだ。ハンナは眼鏡の奥からじっとアキを見つめた。


「なんのために調べるの?

あ、ごめんね。好奇心とかじゃなくて、目的を知ってた方が、それにあった本を渡せるから」

死者の国(ヘルヘイム)に行かなきゃいけないかも知れなくて、それで情報を集めてるんだ。スルトの方はどんなものでもいい」

「そうなの、じゃあ『旅人バンデットの冥府への旅立ち』と『氷の国での寒中水泳 奇人モールモルドの奇行』がおすすめね。ヘルの玉座までの道のりが詳しく書いてあるわ。巨人スルトに関しては書かれた資料がとても少ないの。その中でもましなのは『業火と灼熱の海で見たもの 王の写本』くらいかしら」


ハンナが話しながら杖を動かすと、どこからか本が集まってくる。カウンターに積まれた三冊の本を取り、アキはお礼を言った。


死者の国(ヘルヘイム)に行くんですか?」

「まぁな」


カウンターから離れながら横から詩人が口出しする。アキは適当にあしらうように答えた。


「正気ですか?死の国に行こうとするなんて、よほどの馬鹿だけです。奇人モールモルドのようなね。それにあそこは普通の人間は入れませんよ。最低でも魔術師か、神の血を持つものだけです。あぁそれと、死んだ人だけですね」


詩人が皮肉っぽく付け加えるのをアキは無視した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ