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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
19/89

17話 思惑

『主神オーディンは多くの二つ名を持っている

全知の神、魔術の神、戦争の神、死の神

他にも軍勢の父、高きもの、語るもの、灰色髭の男、目深帽子の男、知の欲求者、舟人、促進者、盲目

いくつもの名はあらゆる場所に現れたことの証明になるだろう』


-ギュルヴィのたぶらかし 二つ名-



詩人が語り終わった後、焼き焦げた広間は奇妙な静寂に包まれていた。


「さて、そろそろ本題に入りましょうか」


詩人はゆっくりと歩きながら話し出す。アキは本題の意味がわからなかったが、ギュルヴィを注視した。


「学院の魔術師は皆、ある契約がかけられています。学院の秘密を外に漏らさないようにする情報プロテクトのようなものです。その契約は、退学処分になったものや、学院を追放されたものにも当然かけられています。わかりませんか?『ルーン』は最大の機密扱いです。よく知っているもの、もしくはルーンを使えるものにしかルーンの話はできないのです。本院で数日前に伝えられた『ルーン文字』のことをあなた方は知っている。さぁ、貴方達は何者ですか?」


気づけば扉を塞ぐようにギュルヴィが立っている。学院の素性をベラベラと話し、軽率な人間だと思っていたが、それは間違いのようだ。こいつ、頭が切れる。アキは焦りを感じた。このまま【無秩序な跳躍】で逃げるか?しかし、また人間の国(ミッドガルド)に跳べるとは限らない。相手はフェンリルと違い人間だ。こちらを今すぐ殺そうという意思は見えない。納得するかわからないが事実を話すか?


「俺たちは-----」


アキが口を開いた時、扉が大きな音を立てて開いた。広間に入ってきたのは禿げた頭の刈りそろえられた短い髭をもつ壮年の男だ。男は中の様子を見てニヤリと笑みを浮かべる。


「やはりここにいたか、ギュルヴィ。お前は何か特別なことをするときはいつも、この『戒めの広間』を使っていたな」

「…学長殿、こんなところにいらっしゃるとは、どうしましたか?」

「黙れ、ギュルヴィ。お前は覚えたてのルーンを使いわしの部屋を爆破した。それを忘れたか?また本院に戻ってくるとは、よほどわしに殺されたいとみえる」


学長は凄まじい剣幕で、ギュルヴィを睨みつけながら怒鳴った。詩人は冷静に壮年の男を見据えている。


「学長落ち着いてください。私は荷物を取りに来ただけですよ。すぐに出て行きます」

「ふん!荷物を取りにこんなところまでくるか?ミス・ペシアに幻惑魔法をかけたのはわかっておる。残念だがお前はここまでだ」


学長は杖を取り出し呪文を唱え始めた。詩人は咄嗟に背負った弦楽器リュートを手に持ち何やら呟く、すると弦楽器は弓に変化した。

学長の杖から青白く光る鎖が飛び出し迫る。詩人は弓にどこからか取り出した矢をつがえて放った。鎖と矢がぶつかる寸前に、鎖は灰となって燃えおちた。矢はそのまま男に向かっている。

学長は憎々しげな顔で、さらに呪文を唱えた。矢は標的にたどり着く前に、金属音を鳴らせ光の壁に阻まれ空中で刺さる。詩人は第二射を放った。二本目の矢は光の壁をすり抜け、男の肩に刺さった。仰け反り、血が飛び散るものの致命傷ではない。学長は杖をかかげて、次の攻撃を行おうとするが、失敗に終わった。

肩に刺さった矢が変化し、植物の蔓が腕と背中、口を締め上げた。四肢の動きを封じられ、猿ぐつわをされた男は倒れ、ドタバタとのたうっている。


「そろそろここから離れた方が良さそうですね」


ギュルヴィは落ち着き払って言った。先ほど魔法戦を繰り広げたとは思えない。しかし、アキには学長に聞かなければならないことがある。


「聞きたいことがある。今から猿ぐつわを外すけど、魔法を使おうとしたり、質問と異なる答えが返って来た場合は容赦はしない。いいね?」


アキは倒れた男の前まで歩いて行きそう告げた。学長は目を見開いて睨みつけている。しかし、諦めたように頷いた。


「外してくれ、何か抵抗した場合は拘束しろ」

「…まぁ貴方がそういうならそうしますよ」


詩人は少し不満げな表情をしながら指を鳴らした。男の口を拘束していた蔓が取り払われる。


「…なんだ?何が聞きたい」

「昨日はオーディンから神託はなかったか?俺か、そこの少女のことで」


アキはスノリに目をやりながら問いかける。


「…神託はあったがお前のことなど…ん?まさか…あの少女は、いや、そんな…馬鹿な…。本当に『祝福の子』か!?」


学長は突然大声をあげた。戸惑うアキの前で、男は手足を拘束されたままミノムシのように少女の元へ這って向かう。


「間違いない…。純白に海の色が入った短い髪、空気が透き通るような美しい肌、天使のような笑顔。魔法《ルーン文字》の母であるスノリ様ですね!?」


どこに笑顔があるんだ。少女は得体の知れない男が狂喜しているのを見て、ただただ怯えている。だが、学長がオーディンから何かしらの啓示を受けていることは明らかなようだ。


「ギュルヴィ、学長を離してくれ」


この本院の最高責任者の異様な姿を見て、詩人は何も言わずに拘束を解いた。男は自由になると、頭を地面につけ最大の礼の形をとる。


「『祝福の子』スノリ様、ようこそステラの本院にいらっしゃいました。すぐに迎えることができず真に申し訳ありません。どうか我が身を罰してください」

「ひっ…あの…別にいいです。大丈夫です」

「なんと!赦していただけるとは!大いなる慈悲に感謝します」


学長はこれ以上ないくらいに頭を地面にめり込ませている。アキは何がなんやらわからなかった。どうしてこうなった。ギュルヴィの方を見ると完全に()いている。


「こんな汚い場所では休まれないでしょう。すぐに客間にご案内します」


学長はすくっと立ち上がると優雅に扉を開けて一行を招いた。三人は男の変わり身の早さに顔を引きつらせながら、ついていくことにした。


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