19話 宴会の席
『ここはギムレー帝国にある鉱山地帯の一角、忘れられた廃坑と呼ばれている場所だ
学者たちはこの地下坑道に小鬼の大規模な巣があるとみている
陽の光はなく、あるのは彼が持つ松明の灯りだけ、できるだけ近寄りたいが、それは難しい
彼が羽織るマントには蒸留酒がたっぷり入っている
松明の火と引火すればタダでは済まないだろう
我々はいつ爆発するかもわからない彼とともに、坑道の奥には何があるか探しに行くのだ』
-モールモルドの奇行 松明と酒-
図書館で時間を潰していると、三角帽子の男が現れ、アキ達に声をかけた。宴会の準備ができているようだ。スノリが本棚の森に迷い込んでいるところを探し出してから、一行は食堂へ向かった。
食堂では一番奥の高く段になっている場所のテーブルに案内される。スノリの姿を見ると学長が中央で嬉しそうな顔をした。当然のように、隣の席に少女は座らされる。アキはその横に腰を下ろした。
ここからは食堂全体が一望できる。無数のテーブルには多くの魔術師たちが座り、ぺちゃくちゃと話に興じている。星空の天井には美しい花火が上がっていた。
「おほん、諸君!」
学長が立ち上がり、スプーンでコップを鳴らして注意を促す。たちまち静寂が訪れた。
「うむ、本日は我々が現在取り組んでいる魔法《ルーン文字》開発の功労者に来ていただいた。『祝福の子』にして、の『ルーンの母』である。スノリ様だ。失礼のないようにな」
わっと拍手が上がる。学長はスノリに目で合図して立ち上がらせるように会釈する。少女はこんなこと聞いてない。どうすればいいのという恐怖の表情をアキに見せた。アキにはどうしようもない。諦めるように肩をすくめる。
スノリはのろのろと立ち上がって前を見た。顔が真っ赤だ。この少女の得意の感情表現を見せている。
「えっと…私はそんなに大したことはしていませんけど、オーディン様と一緒にルーン文字が最も安定して効果を出せる方法を考えました。まだ、発展途上のものだと思うので、皆さんでより良いものにして言ってもらいたいです」
スノリが頭をぺこりと下げると、先ほどよりも大きい拍手が上がった。魔術師たちはガヤガヤと話し出した。『大したことないだって?主神と魔法の開発なんて夢のようだろ』『既にあの理論は完成されていると思うが…あれで発展途上なのか』『自身を謙虚に見せるとは、実力だけでなく頭も切れるな』『天使だ!かわいい!』などの会話が聞こえてくる。
恥ずかしそうに少女が座ると、学長が再びコップを鳴らした。また静かになる。
「それでは、スノリ様のお言葉を胸に刻み、これからも本院の名に恥じぬよう魔術師として研鑽を続けていくよう期待する」
再びの拍手の後に食事が始まった。魔術師たちは興奮気に話をしている。当然、アキたちのテーブルにも、高名な魔術師であろう人物が腰掛けており、次から次へとスノリに質問していた。アキは魔法のことがわからないので、少女が困った時にだけ適当にでっち上げて助けようと思い、目の前の皿にとりかかった。
宴会が終わると、三人はそれぞれの個室に案内された。ギュルヴィはスノリを連れて来た功績が認められたらしく、退学取り消しになったらしい。学長が宴会の席で少しの間でいいから本院に滞在して欲しい、と懇願されたため、何日か此処にいることになりそうだ。まぁ、求められているのはスノリであって、アキではない。図書館で借りた本を読みながら、調べ物をしよう。そんな考えのもと、アキは眠りについた。
「おっきっろっよー」
嫌な感じだ。ため息をついてからアキは起き上がった。真っ白な何もない空間。目の前には少女とも少年とも言える中性的な顔立ちの子供が、悪戯っぽい笑みを浮かべてこっちを見ている。
「ロキ、前回は死にかけたぞ。お前の子供のせいでな」
「フェンリルはお茶目だからね。まぁ許してやってよ。同じ眷属だし」
「楽しくお喋りでも出来たら良かったけどな」
交渉の余地なく殺されかけた身としてアキはお茶目なフェンリルを許す気は無かった。
「でもこれで三人の子供のうちの一人は終わったね。あと二人じゃん。いいペースだよ」
ロキは感心するようにうんうんと頷く。
「次もヒントをあげるよ。今回はわかりやすいやつね。トールを探せば、次の子供と会えると思うよ」
ロキは楽しそうに言った。今回は予言じみたことはやらないらしい。アキはこれ以上話すことはない。
「じゃあもう帰れよ」
「冷たいなぁ、いつもは必死に引き止めるのに。まぁいいや、今はオーディンが活発に動いてるからね。もしかしたら戦争になるかも」
「おい、それはどういう-----」
ロキは嬉しそうに笑ってから、アキの言葉の途中でくるりと回り、姿を消した。




