表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
14/89

12話 一晩の宿

『巨人族は世界の果てにそびえる最期の山々(ウズガルズ)巨人の国(ヨトゥンヘイム)を作りそこで暮らしている

彼らは原初の力(イクトナル)そのもので、嵐や雪崩、地震、噴火、津波といった自然の力の化身である』


-古のエッダ 神を生み出しもの-



旅の二日目も順調だった。昨晩でスノリとクロボは仲良くなったようだ。解説係クロボがなにかの景色や、遠くに見える山々について知識うんちくを披露すると、少女スノリがそれに対して相づちをうったり、クスクスと笑ったりしている。アキはあいかわらずやることがなかったので、二人の会話に耳を傾けたり、何も考えず空を見上げたりしていた。

空が紅に染まる頃、中継地の村にたどり着いた。畑に囲まれた小さな集落だ。夕暮れの中、生活の灯りがポツポツと見える。


「ようこそおいでくださいました。何もないところですが、ゆっくり休んで行ってください」


アキは村長のところまで行って挨拶し、一晩の宿と馬を預かって欲しい旨を伝えた。代金として金貨2枚を渡す。村長はニッコリと微笑み、村の中で一番大きな建物の一室を快く貸し出した。


「たいしたものはお出しできませんが、夕食を後ほどお持ちします。その他御用がありましたら、下の階におりますのでお申し付けください」

「ありがとうございます」


村長に遣わされた侍女が深々と頭を下げるのを見て、アキはお礼を言った。非常にスムーズにこと(・・)が運んでいる。


「クロボ、明日はどの程度歩きそうだ?」

「ワタリガラスのムニン殿に大まかな位置は聞いていますので、何事もなければ、昼過ぎには住処にたどり着けると思います」


スノリは部屋の端で何やら本を読んでいる。きっと魔法関係のものだろう。順調だ、何も問題は出ていない。アキはなんだか、上手くいきすぎている。そんな予感がした。

夕食を終え、寝床につく、一日ぶりの布団が柔らかい。うとうとしているうちに眠りについた。



「ねえ、はやく起きなよ」


嫌な予感がする。この声と台詞は聞き覚えがある。アキは目を閉じたまま、夢なら覚めろと念じながら自分の頰をつねった。


「何してるの?はやく起きなって」

「うっ」


腹部に衝撃が走る。うっすら目を開けると、やっぱりこいつだ。少年とも少女とも言える中性的な容姿、人をからかうような挑戦的な目。アキはうめきながら身を起こした。どうやら先ほどの衝撃は、ロキに蹴飛ばされたようだ。


「おはよう、元気だった?」

「今度は何の用だよ」


ロキは嬉しそうに笑う。アキの嫌そうな態度を全く気にしていない。


「僕のたった一人の眷属が、何やってるのか気になっただけだよ」

「そうかよ」


アキは吐き捨てるように言った。そして、望みは薄いと感じながら、聞きたかったことを口にする。


「俺に与えた能力ギフトはどんなものなんだ?どんなことができる?」

「そんなの僕が知るわけないでしょ、知ってても教えないけどねー」


アキががっくりと肩を落とすのを見て、ロキは楽しそうに、付け加えるように話しだした。


「はははっ、実はこの前のことをトールに話したらさ、神託はそんなものに使うんじゃないって怒られたわけ。だから今日は、君に面白い助言をあげようと思ってね」


悪戯の神が面白いと思うものが、他の人にとって面白いわけがない。アキは今すぐ、あの小さな村の一室に戻りたいと強く思った。


「こほん、じゃあいくよ?一回しか言わないからよく聞くこと!『君は、一つの仕事をやりとげるだろう。それは同時に、他の人間の命を奪うことになる。仲間を助けたければ、勇気を持って踏み出さなければならない』ってね、じゃあ、がんばれよ、僕の眷属」


アキは呆然としていた。何を言っているのかわからない。そんな様子を見て満足したのか、ロキはクスリと笑って、くるりと回った。立ち尽くすアキ以外の人影は、もうそこにはなかった。



アキが目を覚ますと、空が白んでいた。暁の光が目に入る。ゆっくり身を起こすと、必死に頭を巡らせた。仕事をすると、他の人が死ぬ。誰が死ぬんだ?スノリか?それとも他の人か?『仲間を助けたければ勇気を持って踏み出す』どういうことだ、俺に一体何をしろというのか。


「アキ様?もうお目覚めですか」


机に置いてあるクロボから声をかけられる。アキは急いで今あった夢のことを話した。


「ロキ様が神託をなさるとは、感激です。…失礼しました。内容は単純に考えれば『仕事』は今行ってるトロール退治、『他の人間』は今我々が関わっているのはスノリ様くらいでしょうか、『仲間』にも当てはまるような気もしますね。『勇気を持って踏み出す』は何かの比喩に思えます。今できることは、スノリ様に近づく危険に警戒を行うくらいでしょうかね」


「あまり深読みしても、ロキ様の神託ですから」と話すクロボに、アキは同意するしかなかった。今日はきっと何かが起こる。それは間違いなく、ロキにとって面白いことで、アキにとっては面白くないことだろう。その考えを頭から追い出すことはできなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ