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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
13/89

11話 旅

『死者は大きく二つに分けられる

一方は自然のままに寿命を全うしたもの、病死したもので、彼らは冥府の女王ヘルのもとに赴く

もう一方は戦死したもので、その中の半分はフレイヤの屋敷へ、もう半分はオーディンの宮殿ヴァルハラに導かれる

宮殿は六百四十の戸口があり、梁は槍、瓦は楯でできている』


-ギュルヴィのたぶらかし 死者の行く道-



朝早く、三人は聖都の門の前まで来ていた。オーディンが馬車に積んである荷物をチェックしている。スノリは無言のままだ。アキは欠伸を噛み殺した。隣の少女を見て、やっぱり無理だろうという思いを抱く。


「これならまぁ、最低限大丈夫だろう」


点検を終えたオーディンが二人に声をかける。スノリが荷馬車に乗り込もうとした時、アキは老人に腕を掴まれた。


「行者はどこだ?」

「は?」


オーディンは表情を変えずに強く迫る。


「行者は雇ってないのか?お前は馬を扱えるのか?」

「いや、その…」

「私、できます」


小さな声でスノリが手を挙げた。オーディンはアキを睨みつけながら言った。


「いいか、人間よ。あの娘に傷一つつけてみろ。お前を殺した後、死者のヘルヘイムに言ってもう一度殺してやる」

「この身に代えてもお守りします」


アキは緊張で足をガクガクさせながら答えた。すごい迫力だ。この二日で何があったというのだ。いい生徒なのは間違いなさそうだが、この老人は明らかにあの少女に甘い。荷物のチェックなど、アキ一人だったら確実にやってくれないだろう。


「ふん、スノリよ。お前には期待している。我が望みに応えよ」

「はい…がんばります、おじ様」


なんて呼ばせ方をしてるんだよとアキは思ったが、当然口には出さない。スノリが手綱を握り、アキはその隣に腰掛けた。オーディンから鋭い視線が飛んできたが、精一杯の笑顔で答える。


「それでは行ってまいります」

「行ってきます」

「うむ、気をつけてな。そなたらに神の加護を」


荷馬車は街道を走り始めた。アキは最後の言葉はスノリだけに向けたものだと確信していた。


「こほん、それではここからは、私めが道案内をさせていただきます」


クロボが腰からキーキー声を出す。スノリはギクリとして、身をかがめ、周りを見渡した。


「え?だ、誰ですか?」

「ここだよ、ここ」


アキは笑いながら自分の腰を指差し、黒いボール、クロボを取り出した。


「初めましてスノリ様。私はロキ様に作られた使い魔クロボと申します。今は主人の命によって、アキ様への案内役ガイドをしています。どうかお見知り置きを」

「あっ、初めまして、スノリです。あの、私に様付けなんてしなくていいです…」


スノリは礼儀正しく挨拶を返す。この変な生き物にも礼節を持って対応するなんて驚きだ。


「私は敬意を持って敬称をつけさせていただいています。なのでご勘弁を…。

それでは旅程を今一度確認いたします。今から我々は聖都から北上して街道を進み、レイムスの森に向かいます。森までは約二日。森の中にトロールの住処の洞窟があるようなので、一日ほど歩いて探します。」

「馬車はどうするんだ?森に連れて行くのか?」

「いえ、森の入り口にレイムスの村があります。そこに預けるのが良いかと」


ふーんと、アキは相づちをうった。解説係クロボに任せておけば問題なさそうだ。だが、二日も馬車に揺られるだけとは、スノリは手綱を握っているが、アキはやることがない。


「クロボさんはとても賢い方なんですね」

「…!そんなことは、光栄ですスノリ様」


クロボがプルプル震えている。こいつは今まで、褒められることなんてなかったんじゃないか?ロキと生活してればな…。アキは黒い友人を少しだけ哀れんだ。


昼頃になって、一行は一度休憩を入れた。もちろん、クロボの提案だ。スノリは馬を休め、水を与えている。アキは何もやらないのはマズイと思い昼食の準備をした。準備と言っても、携帯食料と飲料水を荷物から出しただけだ。


「アキ様は食べないんですか?」


スノリが馬の世話を終え、腰掛けてアキに話しかける。


「ああ、俺はロキの眷属だから、食欲がないんだ。何も食べなくても問題はない。あと、俺のことは別に呼び捨てでいいよ」

「そんな…私を鎖から解き放ってくれた方を呼び捨てになんてできません!」


スノリが顔を紅潮させ、珍しく感情を出している。彼女にとっては大切なことなんだろう。アキは小さく微笑んでから言った。


「なら、さんとか、君付けで呼んでくれればいいよ。俺は大した人間じゃない。様付けなんてされたらむずがゆい」

「はい…わかりました、アキさん…」


まだ顔を赤らめながらスノリは呟いた。アキはくすりと笑い、こんなところをあの老人に見られたら、間違いなく睨まれるだろうと思った。

食事を終え少し休むと、一行は再び出発した。「今夜は野宿になると思います」とクロボが言ったので、早めに良さそうな場所を見つけるためだ。

昼からはほとんど話はなかった。時たま現れる街道の分岐路をクロボが指示するだけ、スノリは無言だし、アキは元奴隷の少女にどんな言葉をかければいいか思いつかなかった。

夕暮れ、クロボが指定した場所にキャンプを張った。焚き木を集め、周りに座れそうな石を置いただけだが。スノリが馬の世話をしている間、アキは保存食を使って、簡単なスープをこしらえた。道具を使った火起こしは上手くいかなかったが、少女がルーンを唱えると簡単に火が上がった。


「すごいな」

「いえ、私など…」


アキは率直に感想を述べたが、少女は恥ずかしそうにするだけだった。


「これはすごいことですよ。スノリ様は人間の中で初めての本物の魔女ウィッチになられたのですから」


二人が食事をしていると、クロボが話し出した。魔術師は大勢見てきたが、こんなに鮮やかに、簡単に火をつけられるものなんていないだとか、その若さで才能を開花したのは素晴らしいとか。ベタ褒めだ。アキはこの少女にはこの世界の人外を引きつける何かがあるのかと訝しげに思ったものだ。

当のスノリは褒められれば褒められるほど、顔を真っ赤にしてうつむくだけだ。時おり、『そんなこと』、だとか『私なんて』とか、『クロボさんも』とか聞こえるが、クロボは話し上手だ。被せるように褒め続けている。元奴隷の少女(スノリ)使い魔(クロボ)も褒められ慣れていないんだろう。お互いに親近感を抱いているようだ。


アキはなんだかおかしくなってニヤつきながらごろりと寝転がった。見張りはクロボがしてくれる。いざとなったら、クロボとスノリを掴んで、例のくるっと回って消えるのをやればいい。なんだか旅が、面白くなってきていた。

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