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意外と知らない北欧神話   作者: アイスの棒
恐ろしい三人の子供達
12/89

10話 兵舎

『トールはあらゆるものの中で最も力が強かった

その領地は雷の平原(スルーズヴァンクル)、館は巨大な邸宅(ビルスキルニル)と呼ばれた

館には五百四十もの扉があり

知られている中で最大のものだった』


-ギュルヴィのたぶらかし トールの館-



翌日、アキはまた人がざわめく街の通りを歩いていた。昨日は暇つぶしだったが、今日はしっかりとした目的がある。


「馬と馬車は手配してある。お前はそれ以外に必要なものを用意しろ。順調に行けば三日ほどで着くだろう。スノリは生身だから、食事が必要だからな。金はこれを使え、人を雇っても構わん。私は今からルーンの続きを教える」


朝起きると老人が押しかけてきて宿から追い出された。そういうわけで、金貨がたっぷり入った巾着を持ち、街をうろついているのだ。


「クロボ、何を買えばいい?」

「まずは、我々は食事を必要としませんが、スノリ様の携帯食料に、食材を現地調達した時の用具一式、それに、夜間のための毛布や、火起こしの道具。飲料水等ですかね」

「どこに売ってるんだよ」

「道具屋などですが…太陽ソラの兵舎に向かってはいかがですか?支部とはいえ、一揃いの道具はそこで買えるでしょう」

「わかった。道案内を頼む」


昨日のことを思い出し、あまり派閥ファンクションと関わり合いにはなりたくなかったが、仕方なく向かうことにした。兵舎と言うくらいだから、冒険者か、傭兵ギルドのようなものだろう。

いくつかの通りを横切ると目的地が見えてきた。建物の前にも多くの人が集まっている。大きな建物だが、教会のような華美な装飾はない。無骨で、実用的な建物だった。

入り口になっているアーチをくぐると、中は活気のある酒場、鎧をつけた戦士や弓を背負った狩人、筋肉を盛り上がらせた剣闘士などがたむろしている。まさに想像通りの場所だった。アキは来る途中で買った、何の変哲も無い黒いマントを灰色鼠のマントの代わりに羽織り、いくつも並んでいるカウンターの一つに足を向けた。


「ようこそ、太陽ソラの兵舎、ユトランド支部へ」

「どうも、ここから三日ほどの場所に旅に出るんだが、その用具一式を揃えたい」

「かしこまりました。道具の購入ですね。おそれいりますが、当宿舎には加入されていますか?」


受付嬢がにこやかにあいさつし対応する。さすがにこういった場所では美人を取り揃えているようだ。


「いや、してない」

「そうですか、加入して頂くと、道具購入の際の割引や、予め決められた日程までに連絡がいただけなければ、捜索隊を派遣するサービスなどを受けることができますが、いかがでしょうか?」


兵舎の業務になるほどと感心したが、現在それは必要ない。将来的にみて、加入も悪くないかもしれないが、今、この国で手配されている身としてはそんなことをしている余裕はなさそうだ。


「今はやめておこう。また考えさせてもらうよ」

「かしこまりました。それではこちらが、道具販売のリストになります」


リストを読みながら、適当に注文する。どうせわからないのだ。後から受付嬢に追加で聞けば良いだろう


「あと他に必要だと思われるものはあるかな?」

「そうですね…概ね大丈夫だと思いますが、服はいかがなさいますか?」

「そうだな、男女一揃いずつ、サイズは君よりふた周りほど小さいもので頼む」

「かしこまりました。あちらに掛けて少々お待ちください」


案内された椅子に座ると、周りを見渡した。様々な服装に包んだ人々を観察するためだ。中央の大きな掲示板クエストボードの前には男女四人の旅隊パーティが次の依頼について相談している。

『これなんてどうだ?沈黙の怪鳥(サイレントガルーダ)の卵回収。討伐もできて一石二鳥だろ』

『私パス、禿げた岩山(デザートピーク)なんて遠すぎ!』

横のテーブルでは壮年の男性が二人、眉をひそめて話し合っている。

『例の秘薬だが…奴は製造方法を話したか?…やはりそうか、そろそろ多少強引な手段を取るべきかもしれんな』

アキの隣を歩いていった青年は愚痴をこぼしている。

『ユトランドは護衛依頼ばっかでつまらん!誰が楽しくて!バカな貴族のお守りなんてもうたくさんだ!』


「お客さま、お荷物の準備ができました。こちらになりますが、ここへは馬車でお越しに?」


アキが周りの人の話に耳を傾けていると、先ほどの受付嬢が声をかけてきた。


「いや、歩いてきた」

「それでしたら宿か馬車に直接届けましょうか?」

「そうしてくれると助かる」

「はい、それではこちらに記入をお願いします」


出された紙に宿泊している宿屋の名前をサラサラと書き込んだ。


「ありがとうございます。それでは清算ですが、移送費も合わせて共通硬貨にて銀14枚と銅18枚いただきます」


アキは金貨一枚取り出して渡した。よく考えたらこの世界の硬貨の交換単位レートを知らなかった。黒いマントを買うときは金貨一枚を釣りはいらないといって渡したのだ。


「こちらは等倍金貨ですね。含有量の確認とお釣りを準備しますので少々お待ちください」


受付嬢は恭しく金貨を受け取ると、奥に下がっていった。等倍金貨という名前は聞きなれなかったが、含有量ということは金の重さでも調べるのだろう。そうしているうちに、受付嬢が小走りに戻ってきた。


「お客さま、十倍金貨でお間違えないですね?こちらがお釣りになります」

先ほどの金貨より小さな金貨が何枚かと、銀貨、銅貨が入った器を差し出す。まごついていては怪しまれると思い。素早く硬貨を巾着に入れた。


「ありがとう」


受付嬢が頭を深く下げるのをみて、建物を後にした。


「クロボ、ここの世界の硬貨の価値はどうなってるんだ?」


マントを灰色鼠のマントに取り替えながら、解説係クロボに質問する。


「金貨1枚が大体馬一頭と同じくらいです。銀貨20枚で金貨1枚分、銅貨30枚で銀貨1枚分です。先ほどの等倍金貨は含まれている金の量によって金貨の何倍かになります」

「うげっ、じゃあ俺今すごいお金持ちじゃん」


「まぁそうかもしれませんね」とクロボは相づちを打つ。神々にとっては人間の硬貨の価値などどうでもいいものなのだ。欲しければ奪う、盗む、献上させるのが常。金に困る神など存在しない。


「買い物は終わった。後は武器でも買いに行くか?俺丸腰だし」

「ロキ様は短剣の達人でもあります。投げたナイフは百発百中。気配を消して後ろから必殺サイレントキル。アキ様にもその技能があるかもしれませんね」


アキは武器を見に行くことに決めた。使えなくても、あのセリフが聞けるかもしれないという期待もあった。幸運なことに、太陽ソラの兵舎の隣に武器屋らしき建物がある。


「いらっしゃい」


奥から店主の声がする。武器屋の内部は所狭しと様々な武器が並んでいる。剣は長剣ロングソードから分厚い両刃剣バスターソードまで、多様な長さや装飾がついた槍、重そうな斧、よりどりみどりだ。

眺めているだけでワクワクするが、アキは奥に入り、目当てのものを手にするために店主に声をかける。


「短剣を探している。予算はいくらでいい。一番いいやつを出してくれ」


巾着には大量に十倍金貨があるのだ。身を守るものに使ってもいいだろう。店主はわずかに顔をしかめたが、すぐに奥に引っ込み、いくつかの箱を持ってきた。そのうちの一つを開けると一本の小刀が姿を現した。銀色に鈍く光る刃、柄には細やかな装飾が施されている。


「これはドワーフの名工ヴェルンドの作だ。美しかろう?一本で金貨20枚だ」

「値段は問題ないが、装飾とかはあまりいらない、もっと実用的なものがいい。魔法の武器とかはないの?」

「あんた何いってんだ?魔法の武器なんて、派閥ファンクションの上の方のやつしか持ってねぇよ」


店主は呆れ顔で答えるが、もう一つの注文には真摯に答えてくれたようだ。次の箱からは刀身から柄まで真っ黒な、飾り気のない一本の短剣が現れた。


「これもヴェルンドの作だ。限界まで切れ味と耐久性を追求した逸品。 一本で金貨30枚、どうだ?」

「悪くなさそうだね。同じようなものを後二本見繕ってくれる?」


シリーズ物らしく、同じヴェルンドの黒い短剣をアキは三本購入した。十倍金貨で払った時の店主の顔は唖然としており、アキは笑ってしまったほどだ。巾着は少し軽くなったが、満足する買い物ができた。

そうこうしているあいだに夕暮れ、アキは『ぶきやぼうぐはそうびしないといみがないぜ』のセリフが聞けなくて少し残念だったが、足取り軽く宿へ向かった。

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