8️⃣ 消防署編 その5 『九死に一生』
ボンクラなりに年数を重ねて来たが、やっぱりテキトー癖が抜けない。
まあ、大概の時は何とかなるっていうのも一つの真理でもある。
どうにもならんことは、どうなってもええ‥‥
それは悩んだ時に、あまり考えすぎない方が上手く行く場合が多い
という、生きていく上での心構えの一つとしては良い考え方だと思う。
でも悩み過ぎない考え方としても良いのだが、災害現場ではテキトーは命取りとなる事がある。
あれは半年間だけ、はしご小隊に配置された時のこと。
以前にも書いたが、はしご等の特殊車両が活躍する現場は限られている。とは言え、前にも活躍する機会があったし、これからもある可能性はなるだろう。そういう意識はあった。
あれは夜の9時ぐらいだったか、管内で火災指令がかかる。木造2階建の飲食店が出火したとここと。
かなり道は狭いし、はしご車が近づくことは出来ない。はしご車は大通りに停車して現場に向かう。
はしご車を使用しないなら呼吸器は必要ないだろう。情報収集等の手の足りていない所を手伝おう。そう思って現場向かう。
災害点の飲食店は煙は吹き出していたが、どこが燃えているのか分からなかった。
棟続きの隣の飲食店から裏に回ろうとしたが、裏に出口がないらしいので街区を大回りして裏手に回る。
真裏にラブホテルがあり、従業員に了承を得て中に入らせてもらう。
ホテルの飲食店側にある屋外階段から、飲食店の外壁と換気口から黒煙が噴出しているのを確認。
『おっ、ヤバい。背面に延焼したら大変や』
と思い、筒先を誘導しようとするが、現場は混乱しており、多くの隊が正面での消火活動を実施しており、引っ張って来る事が出来ない。
なんとか筒先を配備せねば‥‥
と思い、近くにあった消防車の機関員に依頼し、1人でホースを延長し災害点の裏の屋外階段から筒先を配備した。
その頃には換気口から炎が噴出していたので放水を実施。
『あっ、呼吸器を付けてへんなあー。まあ、屋外階段やから必要ないか?』
その時は軽く考えていた。
しかし、ドンドン燃えていき煙の量も多くなって行った。
その頃には他の隊も応援に駆けつけて来たので、筒先を若い隊員に渡して自分は補助に回った。時より煙が多くなる事がある。自分が筒先を持って放水していた時は、口元を筒先に近づけて、ある程度新鮮な空気を確保していたが、他人が持った筒先ではそれが出来ない。仕方がないので煙が濃くなった時はホテルの室内に避難する。
そんなヒット&アウェーな感じで活動をしていた。
しかしある時、急激に大量の煙が発生した。
いや、『大量』なんてもんじゃない。
一寸先も見えない程の濃煙だった。
『ヤバっ、これは一旦避難やな』
と思ってドアノブを探すが掴めない。
どこどこどこどこどこどこ?
何度も掴もうとするが、探し出せない。
ドンドン息が苦しくなって来る‥‥
低い姿勢で口に手を当てて少しだけ息を吸ってみる。
アカン、煙の濃度が濃すぎる‥‥
こんなんあと二呼吸吸ったら倒れてまうわ。
ヤバい、ホンマに苦しい‥‥
ドアドアドアドア‥‥
何度も空振りして諦めかけた時、右手でドアノブを掴む事が出来た。
あぁ‥‥
思わず声が漏れる‥‥
生きてる‥‥
まだ呼吸は苦しかったが、心底安堵した。
そこはホテルのバックヤード部分で少しは煙があったが、呼吸するには問題ないレベルだった。
地上へは先ほどの屋外階段を使用する必要があったので、少し煙が収まってから階段を降りて車両に呼吸器を取りに戻り、何食わぬ顔で活動に参加した。
外見は平静を装っていたつもりだが、周りから見たらどう見えてたのだろうか?
心の中では『あぁ‥死にかけた‥‥』と思っていたのである。
この『死にかけた』は、よく使われるワードではあるが、ほとんどの場合は比喩表現である。
『めっちゃ苦しかった』や『めっちゃ痛かった』と言うだけの話で実際に『死にかけて』はいない。
でも今回の俺は本当に『死にかけた』のである。
この時の事を上層部に伝えたら、大事になりそうやし、自分としても恥ずかしいし申し訳ない思いがあるので言わなかったが、今後の教訓にはしたいと思う。
あまり大きな声では言えないし、自慢にもならない事だが、俺にはもう一つ『死にかけた』経験がある。
あれは大雨の夜だった。
指令内容は、車の単独事故で閉じ込めも怪我もないが、ガソリン等の危険物が漏洩している可能性があるとのことだった。
消火隊の隊長として出場。指令内容を聞き、閉じ込められてなくて怪我がない事を念のため確認した後に、危険物の引火に備えて消火の準備をしつつ、ガソリン等の吸着作業かな?とイメージする。
しかし、指令場所付近着いても対象の車を発見出来ない。
隊員と共に周囲を探す。
すると後方の歩道に乗り上げる形で一台の車両が停車している。
あぁ、あれかな?と隊員と共に近づく。
真っ暗且つ大雨だったので視界は悪かった。
車まで10m程のところで、本来ならあるべき地面がなく、右足がドンドン沈んでいく‥‥
なんとなくだが、その時は膝ぐらいの深さの穴にハマったのかと思っていた。
しかし、膝を越え腰まで沈んでも足が底に届かなかった‥‥
その時は
『マンホールに落ちてる‥‥』
と思ってしまった。
マンホールなんかに落ちたら、タダではすまない。
『ただではすまない』どころか、死んでも不思議でない程の事故だ。
しかし、腰を超えて沈んで行ったが、両肘が穴の枠に当たって落下を免れることが出来た‥‥
う〜‥‥助かった‥‥
肘と肩に強い衝撃は受けたが、生きてはいる。
正直言って痛いが、骨折等の大怪我もしていない気がする。
でも『助けて‥‥』と思って周囲を見渡すが誰も居ない。
仕方がないので自力で上がろうとする。
うん、何とか力が入る。
うん、上がれる!
と何とか地上に上がる事が出来た。
隊員は落ちた俺を救助するための資機材を取りに行っていたそうだ。
そんなことより手を差し伸べて欲しかったが‥‥
空いていた穴は電線を地中化するためのトランスボックスか何かで、雨で視界が悪かったからか、運転手が車を衝突させてボックスを弾き飛ばし、穴が剥き出しになっていたらしい。
落ちた時はマンホールやと思ってだけど、感電もしなくて良かった。
後から来た別の隊の人間に
『事故概要は?』
と聞かれたが、それどころじゃなかったのだ。
危うく大怪我、下手すりゃ死ぬところやったんやと言いたかった。
今回危機は体調不良や大雨の夜という、環境の悪い中での活動だったが、そんな時だからこそ、より慎重に活動しなければならない、という教訓を得た。
でも取り敢えずは生きている。
大怪我もしていない。恐らく俺以外は痛いとこらもない。だから‥‥
『以上なし!』
とは言いながらも、テキトーにやるのも、大概にせんとアカンなぁ‥‥
つづく




