消防署編 その4 (現場復帰)
数年ぶりに現場に戻ってくる。
戻るために昇任もしたので階級は消防司令補だ。
数年前まで現場で勤務していた訳だが、その間に現場での戦術等、いろいろと変わっている部分があり、戸惑うことも多かった。
ただでさえ、消防学校時代からフザけていた上に新人の頃は現場でもなんとなくテキトーに活動していたのに、日によっては隊長もしなければならない。
まあ、なんやかんやで何とかなるのだが、経験不足を気にする人は気にするし、気にすると悪いところがいろいろと見えてくるようで現場復帰したての頃はいろいろとやりづらい時もあった。
まあ、そんな環境ではあるが、現場の多い消防署だったので相変わらずテキトーではあるが少しずつ慣れていった。
俺の消防本部は前にも言ったように2交代制だ。
3交代制だと、いつも同じようなメンバーなのだが、2交代だと誰が休みかによって、その日の乗り組みが変わってくる。
若い子なら日によっては消火隊の子でも消火隊だけでなく、救助隊や救急隊に乗ることもある。
俺はと言えば、言わば中堅どころなので隊員に時もあれば、隊長や機関員、時としては、はしご車等の特殊車両の隊長をすることもあった。
その日はたまたま特殊車両の人が休みだったので、小さなはしご車のような車(詳細の説明は割愛)の隊長をすることになった。
はしご車等の特殊車両は消防力の基準で定められているか何かで、必要ではあるのだが、活躍する機会は少ない。
だからダメなことではあるが、『この車が活躍するような現場はなかなかないだろう』と思ってしまっていた。
そんな時に管内の火災指令が入る。
割と近くだが、消火隊と救助隊に続いて3着ぐらいの到着か。
現場まで500mぐらい離れた所からでも黒煙がモクモクと空高くまで舞い上がっているのが確認できる。
明らかに炎上火災。
『爆燃え』と言って良いレベルだ。
ベテランの機関員(運転手)が
『エラい燃えとんぞー!』
と言っているのを聞いて逆に落ち着く。
大通りから少し入った所が災害点だが、高所からの放水や人命救助が出来ないような場合は、車が邪魔になる可能性もあるので大通りで一旦停車し、現場を確認に行く。
発災の木造建物からは大きく火が噴出しており、大炎上火災であることが分かる。
建物前には電線等が張り巡らされており、高所作業は困難と判断。先着隊も若い隊員が顔を引き攣らせて活動をしており、隊長も無線機を落とす等、混乱を極めていたが、無線機を拾って渡した消火隊の隊長から
『背面を見て来て』
と頼まれる。
背面を確認すべく一旦大通りに戻ったら大通りからも発災建物の屋根から炎が噴出しているのを確認出来た。
『この停車位置からの放水が届きそうですね』
ベテラン機関員に声を掛け、近くにいた消火隊の機関員に依頼して送水してもらう。
車両上部のバスケットに登り高所に伸悌した時、発災建物から噴出した炎が隣の共同住宅と事務所ビルの外壁を炙っているのを確認。
いきなり発災建物に放水したら、万が一建物内で活動している隊員が居た場合に危険が生じるので、周囲の建物への延焼阻止を実施。
共同住宅や事務所ビルは耐火構造なので大きく延焼はしなさそうだが手前の木造建物に燃え移ってきた。
手前の木造建物内で活動している人が居ない事を確認したのちに、そちらにも放水を実施する。
そうこうしてる間に、手前の木造建物もドンドン燃え出し、大量の放水を出し続ける事になる。
多くの木造建物火災がそうであるように延焼の恐れのなくなる『鎮圧』や再燃の恐れのなくなる『鎮火』までは、かなりの長時間を要した。
長時間の消火活動やその後の残火処理で昼過ぎに出場して消防署に帰ったのが夜、遅くになった。
遅めの晩御飯を食べながら夜のニュースを見ていたら、今日の火災がニュースで流れていた。
大通り沿いの発災建物とは反対側のマンションから住民が撮影したであろう映像には、消防車で高所からの放水している消防士が映っていた。
あっ、俺や!
映像に映っている消防車が煙で見えなくなる‥‥
あぁ、煙で苦しかった時もあったなぁ‥‥
などと現場を思い出したのと自分がテレビに映った事で少し気分が昂って来た。
俺の活躍がテレビです流れたなぁ‥‥
ちょっと話のネタになってエエなぁ‥‥
と少し浮かれていた部分もあったが。ニュースの最後に
『なお、火災現場から身元不明の遺体が発見されました‥‥』
とアナウンサーが言っていた。
あぁ‥‥
そらそうやなぁ‥‥
あれだけ燃えてたら住民が亡くなってても不思議ではない。
仮に運良く人的被害がなかったとしても、あれだけ燃えていれば財産的被害は甚大だろう。それを少しテレビに映った事で浮かれていた自分が恥ずかしい‥‥というより被害者に申し訳なかった。
こちらは『異常なし!』でも被害を受けた人に取ってそうじゃないんや。そんな事を考えさせられた現場だった。




