6️⃣ 消防署編 その3(予防担当)
消防の社会は警察や自衛隊と同じく階級社会である。
まあまあ、多くの人は出世に興味がないし、警察や自衛隊と比べたらキャリアが居ないし比較的ゆるい階級社会ではあるが‥‥
出世を望まない人が多いのは何故だろうか?
理由は人によって違うだろうが、出世するには忙しいポストに行く必要があり、忙しくてもそんなに給与が変わらない、場合によっては日勤になる分、下がってしまう、
というコストパフォーマンスの問題
隔日勤務の現場と日勤とで名目上の労働時間は変わらないが、非番は朝から自分の時間が使える
という自由時間の問題
最後に、現場に行きたくて消防士になったし、ずっと現場に行ける部所で勤務していたい
という、やりがいの問題
ってな感じで消防士という階級の上に消防士長という階級があり、そこまではみんな試験を受けて昇任するのだが、その上の司令補という階級の昇任を受けない人も多い。
若くして司令補になってしまうと、忙しいポストに行ってしまうリスクがあるのだ。
って長々と説明したが、俺の場合も出世願望はないけど、特に夢を持ってた訳でもないので、現場じゃないとイヤ、とは思っていなかった。
でも自他共に認めるボンクラなので日勤になることはないと思っていた。
でもひょんなことから日勤に異動になってしまった。
その時は消防署対抗の消火技術大会までの間だけ救助隊に乗っといてくれ、言われて乗っている時だった。似合わないオレンジの服を着てたのだ。
でも月末の休みの日に上司から電話がかかって来て
『来月から日勤や』
と言われた。
えっ、うそー!って思ったけど、うそではなく、産休を取る人の補充で行く事になったようだ。
まあ、決まったもんはしゃあないか。
消防の日勤にもいろいろな担当があり、俺が配置されたのは予防担当と言って消防法で決められた設備が設置してあるか、避難施設に避難の障害になるような物が置いてないか?
等を検査や、審査する担当だ。
朝、出勤して夜に帰るという、一般の人と同じような勤務時間になる。
時は不景気で、出来るだけ残業をしないように言われていたので、残業はほぼなしなので、現場に行ってた時に比べて随分と給料が下がった。
でもまあ、届出を受けたり立入検査に行ったりで、時間が過ぎるのが早く、夜も自宅の布団で寝られるので、快適と言えば快適だった。
しかし、災害現場と違い立入検査の多くは望んでいない相手の所に行き、消防設備の設置や改修、避難障害物件の除去等を指導しなければならない。
相手のお金や労力が必要となる訳だ。
『ご指導ありがとうございます』とはならない。
『なんでそんな設備を買わなアカンなん!金ないわ。俺に死ねって言うんか?』
等々の罵詈雑言を浴びせられることもある。
消防の指導はそんなに強くなくて、まずは行政指導をする。場合によっては警告→命令→告発‥‥
となることもあるが、なかなかそこまでは行かない。
なんとか行政指導、言わばお願いみたいなもんなので、言うことを聞いてくれたら良いが、なかなか言う事を聞いてくれないこともある。
言うこと聞かない場合は直ぐに警告や命令に行けば良さそうなもんだが、警告等に行くにも多くの場合、
『度重なる指導にも関わらず‥‥』
という指導の経過が必要な場合が多く、警告等の行政措置に移行するのには多くの労力や時間が費やされる。
そん間はずっと所有者等の指導相手には罵詈雑言を浴びせられ、上司からは『はよ設置させんかい!』とプレッシャーを掛けられる、という板挟みの時も多い。
それでもなんやかんやあるが、相手も安全のためと思ってくれているのか根負けしたのか分からないが、なんとか設置してくれる(文句言わんと素直に設置してくれたらエエのに‥‥)
避難障害物件の除去もなかなか一筋縄では行かないこともある。
平成13年の新宿歌舞伎町の火災を契機に法改正され、全ての消防吏員は避難上危険な物件の除去を命じることが出来るようになった(それ以外もいろいろと改正されたのだが、ここでは割愛)
階段や通路に避難障害物件(特に可燃物)があるのは危険だ。
特に一つしかない階段に可燃物が存置されている状況で、それが燃えてしまったら逃げ道が全くなくなってしまう。普段はエレベーターで行き来していたら来店客からは分からないことも多い。
その除去は基本的には初めから『警告』をするのだが、設備と違ってお金は掛からない場合も多いが、『一時的に置いてるだけや』とか『誰の荷物か知らん』と反論されたり、一時的に撤去するが再び置かれる等のイタチごっこもしばしばだった。
でも多くの犠牲が出ている火災のニュースがたびたび報じられているからか、社会全体でコンプライアンス意識が向上しつつあるからか、最近は少しずつみんなの意識が改善されつつあるように思う。
そんな感じで『消防士』と言えば火災現場等の災害で活動しているイメージが強いだろうが、火災予防という、『火災を未然に防ぐ』という仕事もあるのだ。
個人的には現場活動より自分のペースで仕事が出来て『自分に向いている』と感じたのだが、毎日出勤して毎日帰宅する‥‥という世間で言えば当たり前の毎日を、今後何十年と続けていくのが、何となくイヤに‥‥まではなってないけど、マンネリ化してきたので、現場への異動を上司に希望した。
『現場に戻りたかったら昇任するしかない』と言われ、心ならずも昇任試験を受ける事になった。
その頃は退職者も多く、昇任試験が比較的簡単だったこともあり合格。異動先でもしばらく予防担当だったが、何度か希望した後になんとか現場に戻ることが出来た。
つづく




