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5️⃣ 消防署編 その2(炎上火災)

 配属初日に現実を思い知らされたが、27歳の人間がそんなに急に変わることはない。

 時間が経てば楽しようとしたり、隙を見てサボって友達に連絡したり、トイレで寝たりしていた。

 もちろん、フザけてもいたが、フザけは死ぬまで治らないし治す気もなかった‥‥


 みんなから『お前はホンマにボンクラやなぁ‥‥』

 と言われていたし、みんなの言うとおりだった。

 比較的災害の少ない消防署だった。


 しかし、当たり前だがホンマに何もない訳ではない。

 毎日ではないが、訓練はするし、立入検査や消火栓の確認等々、やるべきことがあるにはある。そりゃ、当たり前だ。

 しかし、一部のやる気のある人を除いては

 『現場がない時はゆっくりしようや』

 と思っている人が主流派だった。

 まあ、『ゆっくり』にも程度というか幅はあるのだが‥


 時は大不景気時代。公務員が厚遇問題で叩かれていた時代だ。

 給与や退職金、各種の手当てもカットされる等もあったが、やはり叩かれるだけの事はあったと思う。

 公務員の給与は一定規模以上の民間企業と同じ程度の額ということになっている。

 だから今も昔も民間との差はないはずだが、肌感覚で言うと昔は民間大手の中堅メーカーに勝っていたように思う。

 しかし、今は明らかに負けている感じがする。

 その事は、採用倍率も下がっているし退職者が多いことからも分かる。


 しかし、逆に今は公務員が叩かれることは少ない。あるにはあるが確実に減っているように思う。公務員人気と公務員叩きは反比例の関係にあるようだ。


 あっ、話が大幅にズレてしまった‥

 何の話だったっけ?


 そうだ、消防士の日常だ。

 時代と共に変わりはするが、

 『指令があれば出場する』

 という基本は、いつの時代も変わりない。

 そんな感じで消防学校時代よりは少しは真面目になりながらも、テキトーに手を抜いたりしつつ、現場がないことを嘆く同期を尻目に

 『市民にとっては現場がないことは良いことや』と市民思いのような、ただ自分が楽したいだけのような事を言いつつ、日々をのんびりと過ごしていた。

 配属されて半年経過したが、行った現場は、ぼやや交通事故による燃料漏れ、火災報知器の鳴動(大半は誤作動)等で、どれも指令段階では市民の生命や財産の損失に繋がる可能性はあるが、幸いにも俺が行ったのは大きな災害ではなかった。


 そんな時に火災指令があった。

 

 『火災指令、○○管内、△△町3丁目‥‥』


 うちの消防署の近くだ。

 急いで防火衣に着替え、空気呼吸器を担ぐ。


 『恐らくウチが最先着です』

 他の車両の動きが確認出来る画面を見て小隊長や他の乗組員に他車両の動向を周知する。


 本部から


 『本件、炎上火災の模様。4階ベランダで要救助者あり』


 の情報が入る。


 逃げ遅れがあるようだ。車内に緊張が走る。


 予想通り、一番に到着し、災害点に近い消火栓付近に停車。

 消防車到着時、5階建の共同住宅から黒煙が噴出しているのを確認。

 建物の1階入口付近にも煙が滞留していたので、小隊長の命で屋外で面体を着装し進入しようとした時に


 『入口はこっちや』


 と後着の救助隊に呼ばれた。

 どうやら入口は2つあり、救助隊側の入口の方が出火室に近いようだ。


 急いでもう1つの入口にホースを延長し転進する。

 面体を外す暇もなかったが、20メートルも離れていなかったので、まあいいか。


 煙の中を隊員同士協力して上階にホースを延長する。

 上階に上がるほど煙が濃くなってくる。

 3階と4階の間の踊り場にたどり着いた時には濃煙で1メートル先も見えない程だった。


 視界がないが手探りでホースを延長し、出火階の4階にたどり着く。

 もの凄い熱気で火傷しそうだ。

 ちょっと下がりたい気持ちだったが、自分だけ下がる訳には行かない。


 ↑これは本来、ダメな発想で自分が苦しければ下がらなければならないのだが‥‥


 視界は効かないが、マンションの内廊下の天井が燃えているようなので、天井に向けて放水。

 廊下の向かって左側部屋から右側の部屋に内廊下の天井を伝って延焼しようとしていたようだ。

 救助隊が右側の部屋の人命検索を実施。

 要救助者を1名発見したようだが、救出に手間取っているようだ。

 

 『三太、お前はパワーがあるやろ。筒先変わって手伝ってこい』


 隊長の指示を受け、もう1人の隊員と筒先を交代し、救出の協力にあたる。

 

 要救助者は100キロ以上はありそうな女性。

 そら手こずるか。

 みんなで協力して搬送する。

 視界は悪いし階段やし重いし、搬送には苦労する。

 でも何とか2階部分まで搬送し、煙が薄くなったところで意識を確認。


 『意識なし!脈なし!』


 ということで心臓マッサージを実施する。


 何回か心臓マッサージを行った後、1階まで搬送、屋外に待機していた救急隊に引き継ぐ。


 あー、重かったし、暑かったー。


 ヘルメットのプラスチック製の防護面は火災の熱で溶けている。ヘルメットも煤だらけだ。


 はー!


 そうや。自分の隊に戻らな!


 ひと息付く間もなく再び4階に向かう。


 あの女の人は助かるんかな?と考えながら階段を登る。

 その頃には他の消火隊も何隊か放水しているようで、階段はホースだらけだ。

 そう言えば救出中も何度かホースにつまずいたっけ?

 


 耐火構造だったとこと、割と早めに放水が始まったことで、再び4階に着く頃には、煙もある程度は収まっており、面体を付けなくても活動出来るようになっていた。

 しばらく放水を続けて鎮圧。他の隊と筒先を交代し、休憩するよう言われる。


 一旦、車に戻った時に小隊長が、


 『集まれ!』

 と大声を出す。

 『もう、こんな時に言わんでエエのに‥‥』

 とは思うが、一応集まる。


 整列した後に

 『異常な有無の報告!』


 『1番員、異常なし!』


 『2番員、異常なし!』


 と機関員(運転手)ともう1人の先輩隊員が言ったので、


 『3番員、異常なし!』


 と大声を張り上げた。


 これは普段、訓練時にやっている異常の確認であるが、もちろん現場でやってもいい。

 やってもいい、というより、やるべきだろう。


 最初は『何を現場で‥‥』と思ったが、『異常なし!』の声出しをして、異常がない今の自分を再確認出来てホッとする。


 生きている。


 当たり前と言えば当たり前だが、当たり前じゃないと言えば当たり前じゃない!


 って、俺は何を言ってるんや。


 消防士は命に関わる危険な仕事だ!


 って事をことさら強調したい訳じゃない。


 警察だって危険だろうし、他の仕事も消防以上に危険な仕事はたくさんあると思う。


 スポーツだってそうだ。

 怪我したり死んだらすることはある。

 日常生活だって病気や事故で死ぬことはある。

 人間、誰でもいつかは死ぬのだ。


 って事は百も承知だが、今までの人生の中でも、まあまあ命の危険があった部類に属していることは確かだ。

 今は自分の、そしてみんなの無事を寿ごう!

 そうしよう。


 つづく


 

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