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4️⃣ 消防署編 その1

 消防署に配属される。

 

 消防署は自治体にもよるが概ね2交代か3交代制だ。

 朝、出勤して翌朝まで24時間勤務する。そして明けは非番といい24時間後にまた勤務するのが2部制。48時間後に出勤するのが3部制だ。

 それだったら明らかに3部制の方が良さそうだが、2部制の場合は

 出勤 非番 出勤 非番 出勤 非番 休み 休み‥‥

 みたいな感じで休みも挟まれてくる。細かい説明までは省略するが4週8休にはなっているらしい。


 配属されてすぐは、それこそ右も左も分からない。

 今の多少は残っているが、この時代は体育会のノリが色濃く残っており、新人への風当たりも強い。しかも、俺は消防学校時代はめちゃくちゃフザけまくっていたので、その評判もあり、強く警戒されていた。世の常として良い噂は広がらないが、悪い噂は瞬く間に広まってしまうものだ。

 しかも、俺は消防学校時代の‥‥というか生来のフザけ体質がある。仕事を頑張ろう、という本来持つべき意識も希薄であったように思う。


 勤務初日は前日に同期達と夜中までドンチャン騒ぎをしていたので寝不足だった。隙を見て寝たろう‥‥と不届なことを考えていると、一通りの説明が終わり、

 『自分の荷物の整理をしておいで』と言われ待機室に行く。


 チャーーーンス!!

 

 そこは個人の待機室だったので、こっそり寝る事にする。

 しかし、

 『自分、なに寝てんねん!』

 と先輩の声。

 

 『いえ、資料を見てました』

 と嘘の言い訳をしたが、叱られた。

 そら、叱られて当たり前だ。


 夜は消防署対抗の消火技術の大会に向けての会議があり、俺は大会には出ないが会議には参加‥‥というか話を聞いていた。しかし、自分に関係のない話を聞いていると抗い難い眠気が襲ってくる‥‥

 配属初日やし、なんとか寝まいと思ったが、うつらうつら寝てしまった。その度に横の人に起こされる。

 しまった、とは思うがその後も何度も寝てしまい起こされる事になる。


 その時は誰にも叱られなかったが、みんなはエラい新人が来たなぁと思ったことだろう。もちろん、悪い意味でだ。

 配属初日から勤務時間中に待機室で寝る。さらに会議中にも寝る。起こしても起こしても繰り返し寝る。

 こんなヤツ、なんで採用したんや?

 と思った事だろう。俺が逆の立場でもそう思った事だろう。


 その後に救助隊長に呼び出されて、居眠りについて強く指導された。

 もちろん、謝って『少し体調を崩しています』と言った。極度の寝不足ではあったのであながち嘘とは言えないと思って‥‥


 そんな感じで事前の評判も悪く、来てからの態度も悪かったので署の人達は困ったことだろう。とはいえ、消防署は今と比べてザッとした感じで、特に俺が配属された消防署は現場も事務も少なかったので、ほとんどの人はのんびり過ごしていたが‥‥


 その頃、流行っていた‥‥のかどうかまでは知らないが、消防士の漫画があり、特に興味があった訳ではない消防に対するモチベーションを上げるために読んだのだが、主人公が出場する現場では死者が出ないというジンクスがあった。

 ジンクスと言うか主人公が助けているのだ。


 みんなは消防士に対してどんな印象があるだろうか?

 人によって違うとは思うがベタなイメージとしては火災現場で燃えている家に取り残された人を救出する‥‥というイメージを持っているのではないだろうか?

 もちろん、そういう時もある。

 しかし、多くの場合は燃え盛る建物に取り残されている人の命は、悲しい話だが助けることが出来ないことが多い。

 火災が発生して逃げることが出来ないと言うことは、火や煙の影響がある場所、もしくは就寝中等で火災に気付いていない場合だ。前者の場合なら燃え始めから通報まで恐らく1分、後者の場合だと通報までもっと時間が掛かるはずだ。通報から指令まで1分として指令から出場までも最低1分は掛かるだろう。

 そこから現場までの時間、放水準備の時間を考えると危機的状況からある程度時間が経過してしまうのだ。

 これは火災現場以外でも水難の現場でも、泳いでる場合や何かに捕まっている人なら助けることも出来るが、海や川に沈んでいきました‥‥という人の命を救うのは難しい。

 交通事故等で車から出ることが出来ない‥‥とかなら、怪我の程度や挟まれ状況によっては救出出来ることもある。救急事案も、今倒れました‥‥なら助かる可能性はあるが、見た時には息をしてませんでした‥‥では、命を救えないことも多い。時間との勝負なのだ。

 

 可能性が低くてもとはいえ、消防隊は最善を尽くす。

 仕事だから当たり前だ。

 

 消防学校時代はそんなことは分かっていなかった‥‥というか深く考えていなかった。でも配属初日に水難事故があり、検索の結果、もう亡くなったご遺体が引揚げられる現場があった。

 当たり前だが漫画みたいにヒーローになれない。なれるとも思っていなかったが、これが自分の仕事なんだと改めて思い知らされた。

 みんなで協力して引き揚げる。俺も自分がすべきことがよく分かっていなかったが、ロープを引っ張ったり担架で運んだりの作業をする。

 現場が少ないと言われていたが、初日から現場があった。

 そりゃそうだ。現場が全くない消防署なんてない。

 

 これからも火事や事故で出場することがあるだろう。生まれ持った生粋のフザけ気質は治らないとしても、災害現場ではフザけることなく(当たり前だ)、やるべきことをやる消防士にならなければ。

 別にヒーローになりたいという願望もない。でも普通の活動は出来る消防士でありたいと思う。そのためには、もうちょっとやる気を出す必要があるが、このフザけの俺にそんなことが出来るのか?

 そんなことを考えた消防署での初勤務であった。


つづく

 

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