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2️⃣ 消防学校編

 消防士の採用試験を突破し、消防士になることが決まった。まずは半年間、消防学校っていうところに行く必要があるそうだ。

 『学校』と言っても、普通の学校とは違い消防士になるための知識や技術の研修を行う施設で、もちろん給料も支払われる。

 基本的に寮生活で月曜日から金曜日まで寮で泊まって金曜日の夜に家に帰る‥というスタイルだ。今は違うらしいが、当時は女子の採用が始まって間もなかったので女子寮はなく女子達は通っていた。


 4月1日の入校日、乗り換えの最中に声をかけられた。そういえば面接の時にもチラッと見かけた子だ。『子』と言っても大人だが‥

 彼は中学の時に通っていた塾が同じだったが、特に話をしたことはない。でもお互い顔は覚えていて面接の時にも軽く会釈されたのを覚えている。まあ、消防学校への道も不安なので一緒に登校する。


 消防学校の門をくぐる。教官達に挨拶をして事前に送っていた着替え等の自分の荷物を受け取り、指定された部屋に荷物を運ぶ。部屋には既に人が居て気持ち悪い笑顔で座っていた。

 さすがに初対面で、その上、今日入校って段階で『お前、キモいな』とは言えない。先輩かもしれないし、ひょっとしたら若い教官かもしれない。少し話をしたら同期生ということだった。


 荷物取って置いて全員集められ、教官からこれからの学校生活の説明がある。何人かいる教官の中では『鬼教官』って感じで怒鳴りつけてる人も居るが、悪い人ではなさそうだ。普段は物分かりの良い人の振りをして(ひょっとしたら自分でもそう思っていて)自分の思うように行かないと不機嫌になって当たり散らす奴はタチが悪い。

 説明の時、前の席に体力試験で会った女の子がいた。当たり前だが、前と変わらず素朴で愛くるしい。ずっとこの席の並びだといいなぁ‥と思ったが、説明会の一時的な配置だった、残念。


 説明会を終えて制服に着替え入校式が行われる。教官がガミガミ怒鳴った後に学校長の話がある。校長の話の常として、あまり頭に入ってこない。

 『これからいろいろあると思うけど頑張ってください』的なことを言っていた気がする、覚えてないけど‥


 同期生は60人程いて年齢はまちまち。まだ10代の子達は頼りない子もいる。(まあ、どの年代にもいろいろな人はいるが‥)中には『休め』や『気をつけ』の動作がおかしな子も居て、そういった子が何人か集められて繰り返し練習をさせられていた。恐らく、まだ心が子供でしっかり出来ないのだろう。


 そんな感じで消防学校生活が始まる。主に午前は座学、午後は訓練って感じだ。

 慣れない寮生活で若干、睡眠不足なので座学は眠い‥訓練は想像していたよりは厳しくはない。

 厳しくし過ぎて辞められても困るのだろう。女子も基本的には同じ訓練をするというのもあり、あまりハードには出来ない。

 各組に分かれて訓練をする。組の中でも、いくつかの班に分かれる。

 まず始めに教官が説明を実施し、学生達がその説明のとおり訓練を実施する。俺は26歳で班の中では最年長のため班長になる。多くの訓練が班長から実施することになる。

 これは小学校時代(ひょっとしたら保育園時代)からの問題なのであるが、先生(教官)の話を集中して聞くことができない。昔から、これは大事だから(あるいは聞いてないと叱られるから)集中して聞かねば!とは思うのだが、気がつけばボーッとしてしまうのだ。これは何故だろうか?病気だろうか?まあ、病気か否かは取り合えず置いとこう。

 教官の説明を聞いていないので、最初にやろうと思っても上手く出来ない。それによって教官に叱られたり、班の若い子から『班長、しっかりしてや』と言われることもしばしばだった。

 座学でも授業をあまり聞かず、授業以外でも特に勉強していなかったので点数は悪かった。自分が悪いだけならまだしも、10代で同期の龍平に『俺も勉強せんからお前もすんな!』と強要し、そいつは欠点ばかりを取って問題になったこともある。

 俺はギリギリ欠点を回避していた。学生の頃からそこそこ点数は取れる方だったのである。

 龍平は俺と一緒に居ることが多かったので、学校生活の序盤は教官から『龍平をなんとかしたってくれ』と頼まれていたが、だんだん俺のせいで勉強が出来ないことに気がついたのか『龍平をそっとしといたってくれ』と言われるようになった。

 そんな感じでイメージしていたほど厳しくなく、基本テキトーに過ごし隙あらばフザける、って感じの学校生活を送っていた。夜中の点呼の時にフザけていて反省文を書かされたり、飲み会で脱いでこれまた反省文を書かされたりはしたが、教官はこんな俺を叱りながらも基本的には優しく‥というか好意的に接してくれていたように感じた。


 そんな消防学校生活は学校とは言え社会人だ。お金をもらいながら訓練をしている。でも『学校』という名前のせいか、それとも個人的な問題か(きっと後者だろう)俺なんて26歳なのに(半年間の間に27歳になったのに)日に日にフザけがエスカレートしてきた。

 後半は寮を脱走するヤツ、寮内でお酒を飲むヤツも出てきた。そんな時にある事件が起こった。


 消防学校には『呼集』と言って教官がベルを鳴らし、学生達は何をしている時であろうと作業着に着替えて所定の場所に集まる、という決まりがある。これも消防署に配属され、出場指令が掛かった時にどんな状況でも出場準備ができるようになるための訓練だ。

 『いつなんどき呼集をするか分からんからな』と言われていたが、超過勤務や深夜勤務手当が発生する等の問題があるので、基本的には夕方に実施されていた。俺はといえば、そんなにやる気がないのと手足が太いため素早く作業着を着れないという理由(つまりやる気と実力の問題)でだいたいビリだった。

 卒業が間近に迫ったある日のこと、何人かの同期と寮で飲んでいた。もう卒業も近いので教官も怒らないだろうと、当直の教官に『一緒に飲みましょうよ』と教官室に誘いに行った。

 『俺は教官やぞ。お前らと飲めるか!』と断られはしたが酒を飲んでること自体のお咎めはなかった。卒業も近いし許容してくれていたんだろう。

 その教官室に入って左手の壁に何やら鍵が刺さっていた。誰かが

 『これ、呼集を鳴らすヤツですか?どうやって鳴らしますん?』と教官に聞いた。

 『アホか、お前らいらんことすんなよ』と言ってその場は終わった。

 その翌日の夜、また同期で宴会をしていた。ほろ酔いでいい気分になり、誰かが

 『ちょっと呼集を鳴らしてみようや』と言った。

 みんな酔ってるので『おもろいなぁ』と同意し、誰も止めようとする人間は居なかった。

 『呼集鳴らしたら、誰がやったんや?って問い詰められるやろうけど、腕立て何回やらされても校舎周り何周走らされても、俺らがやったって言わんとこうぜ』

 と謎の誓いを立てた。


 こっそり教官室に忍び込む。時間は深夜の1時を過ぎている。もう当直教官も寝ているだろう。入って左手の鍵に鍵が刺さっている。

 『これはどうやって鳴らすんやろ?』

 誰かが鍵を触る。

 『右に捻るんちゃうんか?』

 他の誰かが鍵を右に捻ると

 『ジリリリリリリー‥‥‥』

 と、けたたましい警報音が鳴り響いた。

 その瞬間、今まで経験したことないほど心臓がバクバクした。

 それまでの人生でも部活での大事な試合や高校や大学入試、好きな子への告白等で緊張したことはあるが、こと心臓のバクバクという意味では段違いだった。本当は右に捻って戻す、を何度か繰り返して止めるべきだったのだが、鳴った瞬間にみんなで逃げ出したので、ずっとなり続けていた。

 さらに悪いことに、その日の当直教官は呼集なんて鳴らす気はさらさらなかったので呼集ベルの止め方も知らなかった。だからしばらく成り続けていた。教官室から逃げて、そのまま集合場所まで直行したらブッちぎりで一番になってしまう。今までビリだった人間が一番になるのは変だと思い、トイレに一時避難する。避難しようとする時、早くに集合してきたヤツとすれ違ってしまう。

 『三太、どこ行くねん?』

 犯人丸出しだが、しばらくトイレに待機して集合場所に行く。それでも集合したのは早い方だった。

 『誰や、呼集鳴らしたのは?白状しろ!』

 当直教官は言うが、誰も白状しない。

 まあ、そういう約束やったもんなぁ。

 夜中にいつまでも学生に問い詰め続ける訳にもいかないからか

 『取り合えず、もう寝ろ!』

 と言い、その場は解散になった。


 解散にはなったが、集まった同期達の中には夜中の呼集にカンカンに怒っているヤツもいる。その中の多くは、きっと俺が犯人だということは想像ついている。正確に言えば犯人ではなく、犯行を目撃しただけなのだが‥(これでも共犯にはなるのかな?)いつもの俺なら取り合えず何かしらのボケをかましていたのだが、あまりの心臓のバクバクの余韻で、いつものようにフザけることが出来なかった。普段の俺なら『俺がやってん』というボケをかますだろう。今言うとボケではなくなってしまう。


 翌日にはいつもの余裕も戻っていた。教官達も俺が怪しいと思っていただろうが、教官室に用事があって入室した時に話し掛けられても疑われる前に『○○教官いますか?』と先に用件を言って誤魔化す。その後に問い詰められてもシラばっくれる。もう時間が経っているので心臓もバクバクしない。その日は全体集合でも犯人探しが行われたが約束どおり誰も白状しなかった。


 それから何日か経った卒業式前日の夜。その日は多くの学生が脱走していた。恐らくはそんなにフザけでもない人間も、俺たちフザけに悪い意味で感化されて変な方に向かっていたような気がする。その日は学校長が残っており、よせばいいのに呼集を鳴らしたのだ。

 3分の1ぐらいは脱走していた。点呼の時、いつもより幅を開けて整列し、番号も本来は数えない後列の人間も数えて誤魔化そうとしたそうだが無理だったようだ。って当たり前だ。俺も脱走していたが、その事に関してはお咎めがなかった。

 激怒した校長が近くの盛り場で飲んでいた教官数名を呼び出し、みんなを集めて大説教大会が始まった。脱走がバレたヤツが何人かしばかれた。(まだそんな時代だった)

 返す刀で、『この間の呼集鳴らしたん、誰やねん?』

 と激怒した。


 つづく



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