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『やったー!貴方と結婚できて最高に嬉しい』とあまりに妻が言うのでだんだんその気になって来た男爵  作者: 三輪 有利佳  (旧 美輪 伊織)


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9/11

第二章 お金が無いのは結構辛い

第二章スタート致します


ゆっくり更新となりますがイングリッドとオーランドペアをよろしくお願い致します^_^


 イングリッドは結婚する前、どんなに貧乏な生活であっても今よりマシ!とずっと思っていた。

 義理の姉ルヴィーセルは兄の居ない場所では

『どうして結婚相手が見つからないのかしら?』と嫌味にもならない感じでため息を吐くし、

 ブリジッドは母に

『イングリッドが家に居ると気軽に子供を連れて帰れないわ。里帰りがこんなに難しくなるなんて思っても見なかった。イングリッドがもしかして……そんなことはないと思うんだけど子供やエリオットを恨んで何かしでかすんじゃないかと思うとちょっと怖いのよ』

 と言ってきたそうだ。


 母は怒り、厳しく叱りつけたそうだがこれは二つの意味が含まれていると思う。

『そんな馬鹿げたこと貴女ならしないわよね?イングリッド』と言う牽制。

『貴女がしたことは恨みを買うようなことだとやっと理解したのね?ブリジッド』という確認。

 母の考えはイングリッドには手に取るように理解できた。家族の顔色を無意識に伺いながら生きてきた証拠だろう。

 


(義姉も実妹も二人は自分たちの思い描いた生活に私がいることで不都合が起きるとずっと思っているのね)


 あの当時、婚約が解消されて、自宅に居たイングリッドは針の筵であった。

 ブリジッドの結婚式も参加はしたものの笑顔なんて引き攣っていただろうし、友人も離れていった。時間が経てば経つほどにイングリッドは病みそうになる自分を自制するのに必死だった。

 修道院に入った方がずっとマシ!そう声を上げたかった。(実際母にそう伝えたが、泣きながら却下された)


 イングリッドは自分の役割をずっと誠実に果たしてきたと思っている。

 病気の人間がいる家は暗くて、ちょっとしたことに神経質で、そして病人以外の家族は後回しにされる。


 家族は同じ女性ということでイングリッドをブリジッドより『ちょっと元気で丈夫だからなんとかなる子』で扱ってきた。


 それは子供時代から理解していたことだ。

 風邪を引いた時や、誕生日。デビュタントパーティーの参加の時など両親が無意識にイングリッドを『我慢』させた。


 学園に通うようになってそれが『違う』ことなんだと兄のマットとイングリッドは気がついた。


 幸いにして両親はマットからの進言をきちんと聞いてくれて改善をしてくれたのは有り難かった。

 ブリジッドの体が回復に向かったことも良かったのだろう。意識がイングリッドにもきちんと向いての結果だ。


 だが、結婚については本当にヤバかった……

 イングリッドは平民として生きていく方法を何度も考えていた。だが、それは叶わず、結局ローマン王子の持ってきたお見合いに喰らいつき今現在に至る。


 オーランドと結婚できたことはとても嬉しい。

 王宮で見かけたガッシュ男爵のことを逞しくて素敵な人だと思っていたからだ。実際に少しずつ仲良くなっていくと彼は気遣いもある程度できるし、人間の魅力もある人だと思う。


 だが……正直に言おう。

 それだけで生きていくのは厳しいのだと実感する。イングリッドは貧乏を知らなかった。


 食事の貧しさや、使用人の少なさが当初はキツくてベッドで泣いたこともある。

 ホーライゾン伯爵家は裕福であったのだと改めて理解した。


 例えば外出時のちょっとの距離をイングリッドは全て馬車を頼んでいた。

 短距離を貴族が徒歩で歩くなんて、ウインドーショッピング以外あり得ないと思っている。だが、オーランドから渡されたお小遣いがあまりに少なくて辻馬車に乗ることも憚られた。


 短距離を往復して、女性に必要なちょっとした買い物をして、メイドに手間賃を握らせたらその月はもう買い物に行けないくらいお金がない。


 イングリッドがホーライゾン伯爵家で値段も見ずに買い物をしていた金額を、ガッシュ男爵家では物凄く意識しなければあっという間に溶かしてしまう。

 

 オーランドは庶民の生活が長かったから予算の掛け方は吟味していたようだし男爵としての予算もかなり律しているようだった。お金に関しては『今は家が傾きかけている。迷惑を掛けてすまない』と言われたということはそう言うことなのだとイングリッドは理解した。

 初夜から二人の関係はちょっとだけ微妙だったから嫌でも彼の話すことを多く察する必要があった。


 家のお金に関してそれ切り夫婦で会話をしたことはない。


 イングリッドはお見合い自体、彼が望んでいなかったことだと知っていたし、彼はホーライゾンの持参金と領地の通行料の値下げが目的であったからイングリッドはオマケの子である。


 だから……だから役に立つところを見せなくちゃいけないと意気込んでいた。

 食事のことも、義父から気を遣われても明るく答えた。

「ダイエットの必要があるんですからお気になさらず!」

 そう言って微笑んで見せた。


 食後のデザートが当たり前だったイングリッドからすればそれは本当に痩せ我慢であった。

 しかし同時に思ってもいた。元々伯爵であった義理両親からしたら、食事の品数が少ないことは自分よりもっと辛く感じているだろうと。

 そう思うとイングリッドは笑顔でその場を明るくできた。


 ドレスを作るのも義母はずっと病床にいるのだからと思えば辛抱できた。


 お見舞いに柔らかいパンを差し入れれば義母は優しく微笑んでくれてオーランドの子供時代の話をしてくれた。

『なんて優しい人……彼女が義母で本当に良かった』心から思えたから、だから辛抱できるのだ。


 イングリッドはお金がない辛さには何度か涙したが、義理の両親や使用人たちがイングリッドの行い一つ一つに感謝の言葉をくれたから頑張れた。

「奥様……お部屋ひとつきちんと整えることが出来なくて申し訳ございませんでした」

 ある日侍女長のエルザが頭を下げてくれた。

 嫁入り道具に持参したドレッサーの前に座っている時だった。


 母が選んでくれた白磁の天板が美しいドレッサーはイングリッドの部屋で輝いてはいるが浮いている。


 カーペットやカーテン。他の調度品が古くて燻んでいるから調和が取れていないのだ。

 イングリッドは苦笑した。

 持参金をオーランドは当たり前のように妻の支度を整えることに使わずに他のことに充てていたから、使用人たちは気遣ったのだ。

「私はこのお家の立て直しに嫁いで来たんですもの。気にしないで」

「ですが……私は伯爵様の時代からこの家で働いております。奥様の状況が不憫でなりません」侍女長が恥じているように俯いた。


 多額の持参金を持って嫁いだ人間に対してこの扱いは良くない。今は男爵家であるが伯爵家であった彼らからすればとても礼儀がなっていないと感じられるのだろう。

 

 (ああ、こう言うところだ)

 イングリッドは胸を熱くする。


 実家ではイングリッドの我慢に対して『ありがとう』も『ごめんなさい』も言われなかった。

 その言葉だけでイングリッドは救われる。

「私はこの家に嫁げて本当に嬉しいのですよ。貴族の女として失格の烙印を押されてしまった私にガッシュ家の皆様はよくしてくれています。これが感謝せずにはいられないの。みんな本当に頑張ってくれているわ。私も力になれるように努力するからもう少し堪えてね」

 そう言うと年嵩のメイドが涙をポロリと溢した。


「奥様は優しすぎます。前の若奥様たちなんて……」

「これ!」侍女長が声を尖らせメイドを叱りつけた。


 (なるほど。お兄様たちの奥様たちは彼女たちに厳しく文句を言っていたのね)


 侍女やメイドのほとんどが退職し、他で雇って貰いにくい古参の人間しか今この屋敷にはいない。

 伯爵時代の時からいるからこそ、彼女たちも屋敷を取り仕切っていた若奥様二人のことなどが記憶にあってイングリッドと彼女たちを比較していたのだ。


『それにしてもお金がないって本当にきついのね』

 イングリッドは実家を頼りたかった。事業だけではなく生活費用を借りたかったのだ。

 宝石やドレスは持たせてもらっているがそれ以外の生活のお金をどうにかしたかった。宝石などの大きな資金源は夫の事業などのことで必要なときに使うべきものだからまだ持っていたい。考えたくないが自分が離縁されてしまう時など……


 ドレッサーに座って化粧や髪を結っているが、化粧品ももうすぐ底を尽くし、髪を整える洗髪料の在庫もあと僅かだ。


 母が先日気を利かせて白粉などはプレゼントしてくれた。

 『いつもの商会が来たから序でに多めに購入したから』そう言って我が家に遊びに来た。


 先月の訪問でイングリッドが目を輝かせて土産の焼き菓子を頬張ってしまったから経済状態がバレたのかもしれない。


 母には頭が下がるが彼女が融通してくれるのはこういった物に限られるのだろうと思っている。

 家族に甘えすぎることは貴族と言えど御法度だ。


 じゃあと気軽にお願いできる兄に助けを求めたくなったがプライドがそれを許さない。


 兄の動向はルヴィーセルに常に見られているだろう。

 そして仲の良い妹になんでも話しているに違いない。


 ブリジッドは悪意なくイングリッドの元婚約者を奪い取った。なのに実家に遊びに行けないとそんな小さなことで不満を漏らすような娘だ。イングリッドが『お小遣いを融通してもらっている』など耳に入ったら自分のことを棚にあげて何を言い出すかわかったモノではない。

 それなりの生活ができているエリオットとの結婚生活では想像もつかないだろうが、イングリッドの日常の消耗品を現在買うことも大変だ。あちこち節約はするが、もうすぐ色々な日用品が底をつきそうだった。


「ランクを下げても、必要な生活の品物ってあるのにオーランド様にはとてもじゃないけど頼めないわよね〜」

 メイドたちが下がった後クローゼットに向かって愚痴をこぼした。

 破れかけのクッションを使っているほど貧しいのだ。美容品などを買うお金なんてお願いしにくい。


 イングリッドは夢ばかり見る乙女ではない。

『平民になる!』『修道院へ行く!』は現実難しかったのだと改めて思うがこれは別問題だ。


「でも負けてられない。私は絶対にここで幸せを掴むわ!!とりあえずお金ってどうやったら稼げるのかしら?」


 イングリッドは小首を傾げて思い悩むのであった。


 

 

 

イングリッドに貧乏耐性がないことが明るみに。


彼女の創意工夫が始まる???

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