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『やったー!貴方と結婚できて最高に嬉しい』とあまりに妻が言うのでだんだんその気になって来た男爵  作者: 三輪 有利佳  (旧 美輪 伊織)


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イングリッドの事業計画書


 オーロラはその昔、学園では『一言多い令嬢』として有名だった。

 思ったことが口からポロポロと溢れでてしまうので子供の時は素直で面白いと言われた。

 しかし子供時代は『おしゃまな令嬢』と揶揄われるくらいで終わった出来事も、十五歳では『少し淑女としての素養が足りないんじゃないか?』と親たちも厳しく言うようになった。


 友人たちは賛否両論で彼女の素直さを付き合いやすいと認めてくれる人もいれば、嫌う人もいる。

 実際オーロラのせいでオブラートに包まれた危うい関係性が破綻した人々もいた。


 学園で婚約者がいながら浮気していた男子学生と対立し揉めてしまったことがある。

 オーロラはクラスメイトの女生徒を思うあまり、首を突っ込み、浮気者の男子学生に正面から啖呵を切ったのだ。

 

「え?結婚前だから自由ですって?結婚したらこんなことしない?バカじゃないの?結婚前にこんなことしたら、もう戻れないわよね。だって貴方は食べきれないほどの贅沢なメインディッシュのステーキを前にして、左手にショートケーキ、右手にチョコレートケーキを持っているのよ。そして大声で『お腹がいっぱいだけど、全部味わいたいんだ!これは全部俺のだ!一口齧ったら捨てるからみんな待っててくれ!』と言っているのよ?そうじゃない?」


 オーロラの例え話は独特であったが関係者の生徒たちはこの言葉はハンマーのように彼らの頭に衝撃を与えた。


 浮気相手の女生徒は二人。彼女たちは自分たちがケーキに例えられたことに一瞬目くじらを立てたが言葉の意味を理解すると無言になった。

 当時は男子生徒が婚約を破棄しないと言うことは頭では分かっていたのだが、婚約者の女性も含めて三つ巴の戦いで引くに引けなかった。


 三人の令嬢は、彼の気持ちを繋ぎ止めようと必死に縋り、甘い言葉を吐き続けていた。

 全てを差し出しているのに結果、彼は婚約者を変えない。

 このままでは時期が来たら男は彼女たちを捨てるだろうと……どんなに綺麗な『さようなら』を言おうとも『捨てる』ことには変わりない。


 そしてオーロラの持論に含まれる『一口齧ったら捨てる』これは令嬢として齧られた女(ケーキ)には価値がないと言うことを意味する。

 齧られた女性を貴族の女性として『結婚相手』と望む者は皆無だ。形の崩れたケーキに価値はない。

 浮気相手の二人は蒼白になり一度で目が覚めた。


 そして肝心の婚約者であった女性は我に返る。


 メインディッシュのステーキといくら持ち上げられても、この男は欲深く婚約者(ステーキ)を美味しく食べる努力などしないと気がついた。大切に味わうことより、目の前のケーキに目移りし、口をつける前からあれもこれもと手を出している人に幸せにしてもらうことなど土台無理な話だ。

 男子生徒のことを好きだったから婚約者の女生徒は踏み切れなかったのだが冷静になる。

 

 食べきれないほどの肉(持参金)があっても、違う欲を満たそうとする男が、将来的に同じことを繰り返している姿が易々と目に浮かぶ。そんな夫を持って果たして自分は幸せになれるのか……


 結果その学生たちは離散した。


 男子生徒は怒鳴り散らして婚約を元に戻そうと必死であったが彼女(婚約者)の気持ちは戻らなかったのだ。


 そして原因となったオーロラは良くも悪くも噂の令嬢となってしまった。



 貴族社会から【出しゃばり】と後ろ指を刺されたオーロラだったが、イングリッドはずっと支え、寄り添い続けている。だからだ。


 オーロラは人生の中で一番心に傷を負っていた時、肯定し続けたイングリッドを必ず支えると決めているのだ。




 


「あのね!テイラーに言ったらイングリッドと一緒に仕事をするんならいいよって許可してくれたわ!!」

 オーロラは早朝の朝食に乗り込んできた上に爆弾発言を落とした。

 イングリッドは飲み込みかけたフルーツが喉に詰まり思いきり咽る。


「え!!えぇ!?そんな!!ゴホッ、ホルスティン伯爵が許可を出したというの?そんな……」

 イングリッドは口元をナプキンで拭いながら貴族らしからぬ慌てぶりを晒す。


「テイラー殿がそう言ってくれたのかい?」

 オーランドも驚いたようで読みかけていた新聞から顔を上げる。


 レイコール夫人の家から戻ってイングリッドはすぐにオーランドに相談したがこちらはあっさりと承認を得ることができた。


 オーランドは基本的にイングリッドの言葉を全て前向きに肯定してくれる。


 だがなぜかオーロラも一緒に事業に関わっていくと言って一歩も引かないのだ。

 要するにイングリッドの補佐を考えているらしい。

 

 女性が仕事をすることにまだこの国は後ろ向きであるから、厳しい戦いになるのは目に見えている。イングリッドはいつでも気持ちの良いこの従姉妹をそんな戦いに巻き込みたくなかった。


 レイコール夫人の言葉を引用して『夫の許可がもらえたらね』とやんわりと牽制した。

 妻に甘いが故に、オーロラを囲い込んでいるテイラーに『彼女を無理させないで』と任せたのだが、何故だか彼もかなり乗り気らしい。


「でも貴女には子供たちもいるのよ?家族の時間は絶対に削られていくわよ?」

 イングリッドが心配するとオーロラはトンと胸を叩く。

「大丈夫!我が家の乳母たちは優秀だし、男の子二人は結構手が離れてしまったもの。学園で寮生活が来年から始まるし、娘は貴女の話していたお店に興味津々だったわ。私もこの話はすごく面白いと思う」


 オーロラは嬉しそうに二人に満面の笑みを向ける。『許可は取ってきたわよ!認めて!』と言っているのだ。

 

 オーランドは少し困ったように微笑んだが

「オーロラが無理がない程度になら俺からは言うことがないよ。テイラーに無理していないかだけは確認させてくれ」

 そう言って新聞を畳み執事にジャケットを羽織らせてもらう。


「二人の活躍が楽しみだよ。俺も協力できるところはさせてもらうから遠慮なく言ってくれ」

 そう言って仕事部屋に戻って行った。


 >>>>>>>>>>>>>>>>>>


 

 事業計画はすでに荒削りだができていた。


 イングリッドが考えた事業。

 それは飲食店である。


 しかも一般庶民でも少し頑張ったら払えるご褒美の金額に設定しているお店。

『菓子専門店喫茶店(食べ放題)』である。


 お菓子を食べ放題できる……それは女性の夢。

 イングリッドは甘いものが夕食のテーブルに並ばなくなってきた時からずっと欲していた。

 たまに帰省した時は実家で食べることも出来たが、ガツガツとお代わりを頼むのも端ない。女性として枠からはみ出ているイングリッドはルヴィーセルから、いつもブリジッドと比較されてしまうのだ。彼女の視線が自分を蔑んでいるのがわかるから、デザートは済ました顔で食していた。


 そんな時、中央にあった庶民の店の看板が目に飛び込んだ。

 大きく書いてある『パンお代わり自由』の文字が。


 体力が必要な労働階級の男性向けの店に書かれていた文字はインパクトがありすぎてイングリッドの心にずっと引っ掛かっていた。


『ああ、甘いものを制限なくおしゃべりしながら食べ続けたい』


 そんな夢のような時間を過ごしたいと思っている女性は必ずいるはず。

 そう思うとオーロラにその妄想を話さずにはいられなかった。

 オーロラに荒削りながら自分のやってみたい仕事の内容を伝える。


 お店のイメージは童話に出てくる『妖精の菓子店』。淡い配色と可愛いカトラリーのお店は女性にウケるのではないのか?


 一時間半という時間制限をつけ、お菓子は食べ放題。紅茶は飲み放題。

 ケーキは毎日十種類用意し、他の焼き菓子やプティング、ゼリーを並べる。サンドイッチやパンも少し食べれるようにすれば昼食と兼ねる人もいるのでは?と考えたりもする。


 原価を考え、計算するとケーキは意外に採算が取れる食材だった。

 生クリームなど乳製品ばかり主体にしてしまうと難しいのだが、木の実やドライフルーツのものを取り入れて、必要な食材に集中して仕入れ、金額設定を間違えなければ可能だと分かった。


 貴族が行くフルコース料理のお店では肉や野菜を多く取り扱い、どうしても多くの業者を通さなければならないので原価が上がる。

 イングリッドの考えた店の場合、ケーキの種類を絞ることでそれを回避できる。そして同じ材料を多く仕入れて安く注文することも可能になりそうだ。


 もちろん単品でお土産用持ち帰りも可能にする。


 このお店は『女性が中心で男性は食べ放題はない』と言うこともポイントだ。


 男性のように山のように食べない女性限定にすることで、夢の時間の提供と、採算が初めてあう。


 オーランドはもちろんだがホーライゾン家の昔からいる経理の男性からの協力も得られたのでこの計算は益々確実なものとなっただろう。


 

 事業計画書を提出する前に、兄のマットに伝えたところ賛成してくれた。

『面白いね、男には思いつかない内容だ』そう言って父たちの口添えも貰えた。


 ホーライゾン家の後ろ盾があれば今後融資を受けるにあたり安心もある。


 残念ながらオーランドに出資してもらうことはまだ難しいが、兄たちの協力は得られそうだ。


 構想が膨らんだ上でだったので、レイコール夫人の話は心に響いた。


 嬉しいことにオーロラも一緒にできるとのこと。二人でする事業としては最高に楽しみなものである。


 

 イングリッドはレイコール夫人に更に詳しく事業内容を見てもらいたいことをオーロラに告げると

「その方がいいと思うわ。彼女は成功している人だからここからどう進めていけば良いのか聞いてみましょう」と賛成してくれたのであった。


 




 


 

 

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― 新着の感想 ―
『一口齧ったら捨てるから』に笑いました。でも浮気って、そういうことですよね。 「オーロラのせいでオブラートに包まれた危うい関係性が破綻した人々」って、オーロラのせいと思っているのは浮気男だけで、令嬢…
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