第1話 外出
「…」
キーボードは、またネットで買えばいい。だがしかし、一つ問題があった。
それは、よりにもよって明日が、ゲームのイベントの開始日なのだ。
───ランキングは走ろうと思ってたのに…
べたべたするキーボードを見ながら考える。
今からネットで新しいキーボードを注文しても、届くのは数日後だろう。
だが、一つだけ、解決策はある。
本当に、心底、やりたくないことだが――買いに行くのだ。外の店へ。
(たしか、バスで少し行った先に、デカいショッピングモールがあったはず…だけど──
「めんどくせぇ!!!」
僕は、椅子にもたれかかりながら天井を眺める。
車がエンジン音が遠くで聞こえた。
「はぁ…」
顔を横に向けると、壊れたキーボードが目に映る。
「....でも、まぁ、たまには、ゴミ出し以外の外出も,,,ありかぁな?…」
そんなこんなで着替えを済ませ、玄関のドアノブを握る。
ゴミ出し以外の外出なんて、いったい何年ぶりだろう。
胸の奥が、まるで古いエンジンのように、ぎこちなく鳴った。
ガチャッ。
扉を開くと、外の光が僕の額を刺した。眩しく、白かった。
寒さに肩をすくめながら、僕は最寄りのバス停へと歩いた。
バス停には、人がいなかった。
バス停のイスに腰を下ろし、ぼんやりとアスファルトを見つめる。
「キーボード買って帰るだけ…キーボード買って帰るだけ…」
僕は念仏のように唱える。やがてバスがやってきた。
整理券を取り、空席へ腰を下ろす。
車内は驚くほど静かで、走行音だけが僕の内側に流れ込んでくる。
外の景色が、外の景色は、どこか異星の風景のように見えた。
バスに揺れて十数分。目的地に着いた。
バスから降りると、目の前には巨大なショッピングモールが堂々とそびえ立っていた。
呼吸を整える。
その時だった。
背後から、「ドサッ」という鈍い音。
反射的に振り向く。
パーカー姿の人が倒れこんでいた。
僕は、急いで駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか!?」
声が自分のものではないように震えていた。
「…………た」
「え?」
聞き取れず、思わず耳を近づける。
「おなかすいた」




