プロローグ
窓の隙間から射し込む陽の光で目を覚ました。光はあまりにも強烈で、目蓋の裏に焼けつくように沁みわたり、頭痛を誘った。
視線を持ち上げると、宙に舞った微かな塵が、金粉のように浮遊していた。
枕元の携帯を手に取る。
3月10日 12時34分。
そう表示された。
僕、田中初(27歳)は、引きニートである。
今日も日課のゲームのデイリーミッションをやっていく。どんな不安もゲームやれば払拭できる。それがヒキニートを何年もやって学んだ事である。
いつものようにゲームと、ログインするとある事に気づく。
───あれ、今日もRATがいない…。
ネット友達のPATがゲームにログインをしていなかったのだ。
RATは、このゲームがサービス開始した時からの知り合いだ。
声も顔も知らない。だが、確かに、心の近しい存在だった。
アニメの感想、くだらない攻略情報、下ネタを含んだ雑談。ボイスチャットを嫌い、決して素顔を晒さなかったが、それでも僕は親しみを抱いていた。
──いつもは、この時間にログインしてるのに…。
ログイン履歴をみるとかれこれ1週間は、ログインしていないようだった。
デイリーミッションを終え、冷蔵庫に向かう。
冷蔵庫からコーラを取り出し一口。喉を突き刺す炭酸が、痛みに似た爽快を与えた。
机に戻り、飲みかけのコーラの缶を置く。
流れる手つきで絵、PCの電源をいれ、ブラウザを開いた。
ぼーとしながらネットサーフィンをする。
すると、ふと、あるネット記事が目に入ってきた。
【大山組惨殺事件 組員全員死亡】
記事を読んでみると、どうやら大山組と言われる暴力団が襲撃されて組員全員が死亡したらしい。
警察は、大山組と敵対関係にあった暴力団を調べていると記事にはある。
───うわ…これ地元じゃないか…。
どうやら、この事件が起きたのは、僕の住む場所の近くらしい。
───でも外でないし、関係ないか!
外に出ない僕にとって、そのニュースは、全く関係のないものだった。
───よし、別のゲームでもするかな。確か、今日は特別イベントがあったはず!
マウスに手を伸ばす。次の瞬間、違和感が走った。
───あ…。
太腿を濡らす感覚。ペットボトルのコーラが横倒しになり、暗い液体がじわじわと広がっていた。その黒い奔流は、よりにもよってキーボードを直撃した。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」
急いでティッシュで拭いたが、そんな抵抗も虚しく。キーボードは、息を引き取った。




