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「ウチの弟子が乱暴して申し訳ございませんね、王妃様。でも、我々にも時間が無いんです」


南国の鳥の派手な羽根で飾ったマスクで顔を隠し、漆黒のマントを羽織った男が、妙に可愛い声の大女を庇う位置に現れた。


「確かにここには異次元が有りますね。パワースポットの近くだから当たり前ですが」


「その声は、シャーフーチ?何ですかその怪しい格好は」


セレバーナは警戒を解いて呆れ顔をする。


「魔王として人前に出るのならそれ相応の格好をしろと、イヤナが作ってくれたんですよ。――さて。魔物よ。王に従いなさい」


恐ろしい姿をした魔物が、柔順な大型犬の様に伏せをした。

その背に乗っている王妃が戸惑う。


「な、何じゃと?何奴じゃ?」


「彼こそ我々の師、魔王シャーフーチです。そしてその隣に立っている者は同門のサコ・ヘンソン。サコ、わざわざ駆け付けてくれてありがとう」


「どういたしまして。で、これはどうしたら良いの?」


サコが持っている小さな筆に向けて小さな手を差し出すセレバーナ。


「私が責任を持って封印する。このアイテムの存在は非常に危険なので、世間に情報を残したくない。だからこの事は忘れてくれ」


「分かった」


筆をハンカチに包んで神学校の制服の内ポケットに仕舞ったツインテール少女は、襟を正してから元師匠に向き直った。


「シャーフーチ。私とイヤナとのテレパシーのやり取りを聞いていらっしゃったんですよね?この子がその子です。手伝いをさせてやってください」


セレバーナに背を押されたクレアが一歩前に出る。


「は、始めまして、魔王様!クレア・エスカリーナと申します」


緊張しながら淑女としての礼を取るクレア。

微かに震えているのは信仰の対象を目の前にして畏れているからか。


「貴女が魔物に片目を潰され、両親を殺めた子ですか」


「は、はい」


シャーフーチは、派手な仮面の奥から花のアップリケが施された黄色い眼帯をしている金髪少女を見る。

弟子達から見れば間抜けな格好だが、魔王教の信者からすれば恐ろしい格好になるのだろう。


「私の役に立つのなら、連れて行きましょう。もうこの国には居場所が無いそうですしね」


「ありがとうございます、魔王様!粉骨砕身頑張ります!」


胸の前で指を組んで神学校式の礼を取るクレア。

それは女神に対してやる物だが、今更どうでも良いか。


「王妃様」


金色の全身鎧を身に纏った女騎士がゆっくりと歩いて来た。

エルヴィナーサ国第一王女護衛団団長、ジアナ・カカーリン。


「トロピカーナ様からの伝言が有ります。魔王所縁の方々。しばらくお時間をください」


「どうぞ」


漆黒のマントを羽織った魔王が暢気な調子で返事をした。


「王妃様。魔王に誘拐されるトロピカーナ様は、新大陸で新たな王家を作られます。新王家が形になるまでの間、一時だけトロピカーナ様が王となられます」


「新王家の王、ですって?」


「この国の次の王はペルルドール様。それはもう変えられません。王位継承権争いを再燃させても国民が混乱するだけです。だからもう陰謀は終わりにしましょう」


王妃が反論する前に続きを言うジアナ。


「トロピカーナ様はすでに別の国の王となる覚悟と準備を終えています。王妃様が宜しければ、トロピカーナ様のサポートをして頂けませんか?」


その言葉に頷いて見せるセレバーナ。


「病弱な姉姫一人に王室造りを任せるのも酷ですしね。王妃様ならより深い知識をお持ちでしょうし。トロピカーナの補佐をして頂けませんか?」


王妃は、自分を囲む人々を睨みつつ考え込んだ。

その様子を確認した黄金の女騎士が口を開く。


「トロピカーナ様は、王妃様が悩む様ならこう言えと仰いました。『お母様の陰謀を裏で支えていたのはわたくしだ』と」


「な……何を言い出すのじゃ。そ、そんな事、有る訳が……私が全てを指示したに決まっておろうが!」


大口を開けて驚く王妃。

心当たりが有るのか、目に見えて動揺し、誤魔化そうとした。

しかしジアナは淡々と続ける。


「証拠は残していませんが、王城の外で、国民の前で暴露してしまった以上、この国に残ったら斬首も有り得ます。ですので共に逃げましょう。との事」


サコとクレアに視線を向けた王妃は、そこまで来てやっと頷いた。


「あの子はそこまで覚悟しておるのじゃな」


「はい」


「確かに、このまま騒動を続けてもあの子の毒にしかならぬ。なら、あの子の望むままにしましょう」


王妃が魔物の背から降りたので、セレバーナは魔法の杖を下した。

審判の筆を奪い返そうと王妃がヤケを起こす心配はもう無いだろう。


「決定だ。さ、クレア。王妃と共に行ってくれ」


「はい」


セレバーナに促された眼帯少女が頷くと、黒マントの魔王がうーんと唸った。


「折角ですから、全員で誘拐の現場に行きましょうか」


「おや。なぜですか」


「みんな一緒に移動すれば、一度の転移で済みますし。それに、誘拐劇の目撃者は多い方が良いんでしょう?」


ドラゴンの身体は異常に大きく育った。

なので、クレア達をドラゴンの背に送った場合、誘拐の為に姫城にもう一度転移しなければならない。

魔力が少なくなっている現状では二度手間を避けた方が良い。


「そうですね。居残り組には、誘拐の瞬間を世間に広めなくてはならないですし。――サコも付き合ってくれるか?」


「良いよ。誘拐を見届ければ良いんだね?」


「そうだ。そして、その出来事を魔法ギルドや道場の人達に広めてくれ。500年後に、伝説として残る様に」


「責任重大だね。でも頑張るよ」


「では、みなさん、行きましょうか。シャーフーチ、お願いします」


頷いたシャーフーチは、懐から水晶の首飾りを取り出した。

それは魔力が込められたマジックアイテムで、魔力を消費せずに魔法を使える物だ。

サコの実家である格闘道場では治癒魔法を良く使うので、似たアイテムを常備している。


「では、王女様を誘拐しに行きますよ。時間の流れが戻ったらすぐにソレイユドールが城壁を壊します。破片で怪我をしない様に注意してくださいね」

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