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「分かりました。重大な情報を感謝します。約束通り、お父さんは私が魔法ギルドに送り、保護して貰える様にお願いしてみます」


安心の笑みを零した父は、すぐに表情を引き締めた。


「クレアはその秘宝をどう扱うか予想も出来ない。くれぐれも注意してくれ」


「分かっています。――ところで、トハサさん」


「何でしょう」


村の長老と共に事態を見守っていたヘンソン道場の師範代が一歩前に出た。


「貴方も通信機を貰っていますよね?」


この中で一番背が高いトハサの耳を見上げるセレバーナ。

その耳には小さなアンモナイトみたいな貝が付いている。


「緊急事態ですからね。この通信機は、協力してくれる団体全てに配られています」


「随分小さいですが、それは受信専用ですか?私の通信機は、魔力を込めれば声を乗せられますが」


セレバーナは、妙に量が多いツインテールを手で払って耳を出した。

それには大きめのアンモナイトがテープで貼ってある。


「これは魔法が使えない者にも扱える通信用の貝です。こちらを使えば魔法ギルド本部に声を送る事が出来ます」


道着の懐から大き目の巻貝を取り出すトハサ。

それには布で蓋をされていて、それを取れば音が魔法ギルドに音が届く仕組みになっている様だ。


「ふむ。普通の人はふたつに分かれている物を使っている訳ですか。――お父さんは、魔王教がどこで傍受しているかの情報をお持ちですか?」


「持っていたら、人前に出ないで逃げている」


「ですよね。さて、どうしたものか」


甲冑のせいで腕を組めないので、腰に手を当てるセレバーナ。


「何が気になるの?」


可愛らしい声で訊くサコ。

その声には癒しの潜在能力が籠っているので、場の緊張感が少しだけ和らぐ。


「魔法具の通信を使うと全体に声が届く。私も通信によってここに来た事でも分かる様に、父が捕まった事はすでに知られているだろう」


「なら今すぐ移動しないと」


「ギルドに直接移動すると、待ち伏せに合う可能性が有る。ヘンソン道場が関わっている事もすでに知られているだろうから、君達に任せる事も出来ない」


「なるほど。セレバーナのお父さんを探している魔王教の人達に情報が行かない様に動かなければならないんだね」


「プロの暗殺者が動いていたら、誰が警戒しても殺されてしまうだろうしな」


考え込む一行。

この村の長老も同席しているが、口を挟むつもりは無い様だ。

余計な事を言うと面倒事に巻き込まれそうだ、と思っているんだろう。

魔物の行軍はすでに通り過ぎているので、協力者もこのまま消えてくれる事を期待している。


「ここで考えてても時間の無駄ですね。ギルドに行くと見せかけて動かないと言う作戦も有りですが、上策ではないでしょう」


「ど、どうするんだ?」


不安そうな父を見ずに考えるセレバーナ。


「……海辺の空き家に数日隠れて貰いましょうか。魔王軍騒ぎが収まれば、魔王教は影に隠れ、魔法ギルドにも余裕が出来るでしょう」


黒髪少女の言葉に頷くサコとトハサ。

道場側としても、他に良い案は無い。


「と言う訳で、済みませんが、数日分の食料を分けて頂けませんか?」


「了解です。今回の為に集められた物資を分けましょう。村長さん、構いませんね?」


トハサにそう言われた老人は、頷いてからお手伝いさんを呼んだ。

数分後、そこそこの量のイモや干し肉が麻袋に詰められた。

それは、万が一家が壊された場合、被害者に配られる予定の物だった。

村は無傷で済んだ為、もう必要無い物資なので分けても問題は無い。


「さ、転移魔法で逃げますので、私の手を取ってください」


「ああ」


差し出された娘の小さな手を取る父。

セレバーナは、そのぬくもりに動きを止めた。


「そう言えば、お父さんと手を繋いだのは久しぶりですね。前に繋いだのは、お母さんが生きていた時でしたか」


「そう……だったかな」


微かに笑んだセレバーナは、サコに向けて手を振った。


「迷惑を掛けたな。また顔を見れて嬉しかった」


「私も嬉しかったよ。この村の前をドラゴンが通り過ぎた時もイヤナとテレパシーで話をしたし、意外と再会の機会は多いのかも知れないね」


「フフ、そうかもな。では、またな」


そう言い残し、父と共に姿を消すセレバーナ。

残されたサコは、微かな寂しさを飲み込んでからトハサに顔を向ける。


「これからどうします?」


「門下生の半分ははすでに早馬に乗って次の村の救援に向かっています。私もすぐに追います」


「分かりました。ですが、この村では怪我人が出ませんでしたし、次の村でも同じでしょう。私は次の村に行っても役立たずかも知れません」


「被害が無いのは、セレバーナさんが頑張っておられるお陰なんですよね?」


詳しい事は言えないので、無言で頷くサコ。

その後、表情を引き締めて師範代の目を見る。


「私は周囲に注意しながら王都に向かいます。何やら怪しい事態が起きている様ですから、何か有ればセレバーナを助けたいので」


「分かりました。では、お先に失礼します。お気を付けて」


頭を下げたトハサが退室して行く。

サコは、彼の大きな背中を眺めながら拳を握り締める。


「何が有ったかは知らないけど、セレバーナもお父さんとの確執が有ったんだね。だからあの時、あんなに怒っていたのか」


だから出来ればセレバーナの役に立ちたい。

あんなになった父と話が出来た恩返しをしたい。

自分には何が出来るのか、よく考えてみるか。

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