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白いドラゴンの背には円卓が乗せられてあった。
北の地下で長年ひっくり返されていた物なので、その表面は土の跡で薄汚れている。
一生懸命洗ったのだが、どうしても綺麗にならなかった。
時間を掛けて手入れをすれば元通りになると根拠も無く確信しているので、新大陸に着いたら頑張って洗おう。
『イヤナ。聞こえるか?イヤナ』
円卓の上に乗ってアグラを掻いていた赤髪少女は、仲間からのテレパシーを受け取った。
女神の鎧の胸当て部分と腰の部分、そしてティアラ風の兜を身に纏っており、傍らに立派な剣を置いている。
いつものつぎはぎだらけのドレスの上に着けると見栄えがかなり悪くなる為、下には神学校の制服を着ている。
『セレバーナ?聞こえるよ。どうしたの?』
『不安要素が発生したので、魔法ギルドに避難させておいた遺跡の円卓を利用して通信している。魔物達の統率に問題は無いか?』
『ちょっと待って。ソレイユドールに訊いてみる』
鎧を鳴らして円卓を降りた少女は、白い頭を目指して歩く。
行軍を始めた頃は最果ての遺跡くらいの背丈だったドラゴンは、今ではちょっとした島くらいの大きさになっていた。
このまま魔力を吸い上げながら進めば、本当に大陸規模の大きさになりそうだ。
「ねぇねぇ、ソレイユドール。セレバーナがね、魔物達の統率は取れているかって訊いて来たんだけど、大丈夫?」
「問題は有りません。行軍から外れた魔物が居るとしても、頭の悪い数匹程度です」
身体が大きいと言う事は、頭も大きいと言う事。
つまり声も大きい。
ソレイユドールもその事は承知して小声で喋るが、それでも大音量になる。
耳を両手で塞いでも聞こえる声に礼を言ったイヤナは、円卓に戻ってそれに触れた。
王都を目指しているドラゴンと魔法ギルドの間にはかなりの距離が有る。
馬車で運ばれる郵便物なら一週間くらい掛かる距離。
なので、魔法の道具を利用しなければテレパシーは届かない。
『特に問題は無いみたい。何が有ったの?』
『イヤナも神学校で会っただろう?片目が潰された私の友人に』
『ああ。クレア、だっけ』
『あの後、彼女は自分の両親を殺してしまったそうだ。そして魔王教での地位を上げたらしい』
『ええ!?』
『その一連の事件には魔物を操るアイテムが中心に有ったんだが、魔王教の地位を上げた彼女がそれを奪って逃げたそうだ』
『何でそんな事になってるの?』
『分からんが、何か良からぬ事を企んでいるのは間違いないだろう。そのアイテムの名前は審判の筆と言う』
『審判の筆?』
『女神の戦いを見せられただろう?その映像の中に、審判と呼ばれていた存在が居た事を覚えているだろうか。その審判の持ち物らしい』
『審判?――あー、女神の質問に応えてた、蝶の羽根を生やした妖精みたいな、あの』
『それだ。それについては、女神の遺産の知識の中に一切残っていないので良く分からんのだ。イヤナも知らないよな?』
『えーっと……知らない、かな。記憶を探るのは得意じゃないから自信は無いけど、知らないと思う』
『ソレイユドールは何か知っていないだろうか』
『訊いてみる』
イヤナは再びドラゴンの頭に近付く。
「ソレイユドール。審判の筆って言う魔物を操るアイテムが有って、何か問題が起こりそうなんだって。何か知ってる?」
「審判の筆?それは一体?」
魔法ギルド長に見せられた過去の映像の事を説明するイヤナ。
ソレイユドールもその映像を見た事が有ったので、説明が苦手なイヤナの言葉でもすぐに理解してくれた。
「ドラゴンにならずとも魔物を従える事が出来るアイテムが有ったとは。それがこちらに有れば、行軍がもっと楽になりましたのに」
「やっぱり知らない?」
「知りませんね。その情報を齎したのはセレバーナ?」
「うん。王城じゃなくて、魔法ギルドに居るみたい」
「それが人の手に有り、問題を起こされる可能性が有る訳ですね。下に居るシャーフーチにも伝えてください。情報を知っていれば対処もし易いですから」
「分かった。そのアイテムを持っているクレアって子は、魔物に片目を潰されているんだ。そのせいで色々恨んでいて、両親も殺しちゃったんだって」
「それを先に言ってください。心に闇を持つ者が関わっているとなると話が変わります。行軍を悪用されたら大惨事どころの騒ぎではありません」
「え、どうしよう」
「今の話をシャーフーチと相談してください。今すぐに」
「うん」
イヤナは、テレパシーを使って魔物の群れの中心に居るシャーフーチに審判の筆の事を伝えた。
行軍に挑み掛かって来る勇敢な冒険者を魔王として追い払う役目を担っているシャーフーチも審判の筆を知らなかった。
『そのクレアと言う子が何をするかはまだ分からないんですよね?』
『はい。女神の遺産に残っていた知識の中に審判の記憶が無いから、セレバーナも困っているみたいです』
『取り合えず、行軍を邪魔する様な気配はまだ有りません。恐らくそれは神の力を使う物ですから、近付いて来たら気配で分かるでしょう』
『神の力だとすると、女神の鎧の気配が邪魔になりませんか?』
『鎧の力を使わなければ大丈夫です。魔物を操っているソレイユドールも、神の力を使われたら違和感を覚えると思います。訊いてみてください』
「えっと、ソレイユドール。審判の筆は神の力を使うから、使われたら違和感を覚えるってお師匠様は仰ってるけど、ソレイユドールはどう思う?」
「今は何とも。前例が無いので、その時にならないと分からないと思います。私は女神でも魔法使いでもないので」
今の言葉をシャーフーチに伝えるイヤナ。
『まぁ、そう言うしかないでしょうね。今の段階では、こちらは何も出来ないでしょう。出来る事と言えば、怪しい気配に注意する事くらいですね』
『じゃ、そんな感じでセレバーナに返事をすれば良いでしょうか』
『そうですね。こちらは行軍の維持で手一杯なので、セレバーナに調査して貰うしかないでしょう』




