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円卓に戻ったイヤナは、審判の筆についての情報がひとつも無い事と、シャーフーチが警戒してくれる事をテレパシーで伝えた。
『そうか。なら、私がクレア本人を探すしかないな。何かあったら連絡をくれ。審判の筆は、私が責任をもって封印の丘に封印する』
『分かった』
『もしも王城攻略が始まっても私が戻れなかったら、その時はよろしく頼む』
『お師匠様も居るから大丈夫だよ。無理しないでね』
『ああ。そちらもな』
円卓からセレバーナの気配が消えて行く。
被害が出ない様に下準備を万全にしていたのに、こんな問題が起こるとは。
なぜこの世界の住人が被害を呼び込もうとするのか。
元々すぐに消える運命の世界だから、自ら滅び行く道を作り出す様に出来ているのだろうか。
もしそうなら、今後も面倒な問題が起きそうだが……。
「魔物の中心に居る我が同族達は大丈夫でしょうか。魔物に襲われてはいないでしょうか」
子供程度の背丈しかないユゴント族の巫女が話し掛けて来た。
ドラゴンの背ビレに固定していたテントの中に居た彼女は、円卓とドラゴンの頭を行ったり来たりするイヤナを見て不安になった様だ。
彼女は、北の地の地下に隠れ住んでいたドワーフの一族の代表だ。
このまま地下に居たら滅んでしまう彼等を説得し、外に引き摺り出した。
そして魔物と共に外国に連れて行き、そこの国民とする。
女神となったイヤナが彼等を全力でサポートすれば、きっと新大陸は生命溢れる大地になるだろう。
「そっちは絶対大丈夫。お師匠様が護ってくれているから」
「しかし、なにやら問題が起こった様子。私に出来る事が有れば、なんなりとお申し付けください」
それでも不安そうな表情をしている巫女に笑顔を向けるイヤナ。
この世界が自ら滅び行く道を作り出すのなら、人類の未来には数多くの試練が待ち受けている事だろう。
それを取り除くにはどうしようか、と考えたところで思い直す。
人生には数多くの困難が待ち受ける。
死をも範疇に有るそれを乗り越える事で人は成長する、とはセレバーナの考え。
だが、イヤナの考えは違う。
「巫女様に出来る事は何もないよ。私も何も出来ない。実はね、審判の筆ってのが有るみたいなんだ」
イヤナは、今得た情報を包み隠さずにユゴントの巫女に伝えた。
当事者と相談して問題を解決するのがイヤナのやり方だから。
世界が困難による成長を望んでいたとしても、それを隠す意味は無い。
「そのアイテムを持っている子は何をするつもりなんでしょうか」
不安そうに訊く巫女。
「それはセレバーナがこれから調べてくれるみたい。何かあったらちゃんと伝えるから、いざと言う時に動ける様にゆっくりしてて」
「わたくし達は行軍が成功する様に気を張りましょう。失敗したらとんでもない事になりますから」
白いドラゴンが振り向かずに言う。
進みながら周囲の魔力を吸っているので、今も身体が成長している。
出来る限り大きくならないと新大陸が小さくなってしまうから、ドンドン吸って貰いたい。
少なくとも、エルヴィナーサ国が有る大陸くらいにはなって貰いたい。
「魔力が薄くなっているから、ここからの転移魔法は使えない。でも、いざとなったらソレイユドールの成長を邪魔してでも魔法を使うからそのつもりで」
冷静な声でそう言ったイヤナは、円卓の上に戻ってアグラを掻いた。
そして、三つ編みの中に隠れている自身の使い魔を気にした。
魔力不足のせいでピクリとも動かないが、死んではいない。
マギに訊けばヒントくらいは分かるが、今は魔力の回復が困難だから無暗に質問は出来ない。
「行軍はもう終盤です。多少のアクシデント程度なら無視して王都に突入します。中途半端に調整出来る規模ではなくなりましたし」
地面に視線を向けるソレイユドール。
魔物の王となった白いドラゴンの威厳に応え、山や地下に隠されているダンジョンや異次元から数多くの魔物が這い出して来ている。
そして夢遊病の様に行軍に加わって行っている。
これは魔物が女神に反抗しない様に作られているシステムを魔王として再利用しているだけで、この様な使い方では絶対の拘束力は無い。
つまり、この世界のシステムから行軍に加われと命令されているから従っているだけなのだ。
最初に従えた魔物はすでに数日以上行進しているので、時間が経ったせいで我に返る可能性が有る。
人間っぽく例えるなら、『偉い人に行軍しろと言われたから歩いてるけど、そろそろ家に帰りたいなぁ』と考え出すかも知れないのだ。
相手は魔物なので、そう考えたら自制出来ずに本当に帰って行く。
凶悪な魔物が列から離れて行ったら大惨事になる。
計算上はそうなる心配は無いのだが、だからと言って寄り道で時間を浪費する事は出来ないし、行軍を止める事は物理的に不可能だ。
「ですから、イヤナ。審判の筆が行軍の権限を奪ったりとか、そんなレベルの問題が起きない限りは、決して円卓から離れないでください」
「……うん」
遠まわしに転移魔法を使うなと言われたイヤナは、真っ直ぐ正面に顔を向けた。
目的地である王都が、蜃気楼の様にぼんやりと見えて来た。




