8
エルヴィナーサ国の第二王女が居られる部屋の前で姿勢良く立っている女騎士は、赤い全身鎧で身を固めていた。
いかつい格好に似合った厳しい目付きでそこを警護している。
と言っても、ここは王城の敷地内に有る姫城の中なので、怪しい者は入る事すら出来ない。
あえて警戒するとすれば、飲食物に混入される可能性が有る毒くらいか。
もっとも、信頼出来ない者がここに勤めるのは不可能だが。
「こんにちは、プロンヤさん。お久しぶりです」
そう思って油断していた女騎士は、無表情で右手を上げているツインテール少女に声を掛けられて飛び上るほど驚いた。
「セ、セレバーナさん!?どこから入ったんですか?」
「ペルルドールから貰った通行手形で入ろうとしたんですが、無下に断られまして。妙に厳重になっていますね。雰囲気も良くない」
「何奴!」
黄金の鎧を着たもう一人の女騎士が現れ、腰の剣に手を掛ける。
「ジアナ殿、お待ちください。この方はペルルドール様のご友人です」
セレバーナを庇う位置に移動するプロンヤ。
エルヴィナーサ国第二王女護衛団団長であるプロンヤにそう言われては、エルヴィナーサ国第一王女護衛団団長であるジアナは手出し出来ない。
仕方なく剣の柄から手を離し、神学校の制服を着ている黒髪少女の顔を睨み付ける。
「失礼しました。しかし、どちらから入ったのですか?今、姫城は警備の者と数人のメイド以外は立ち入り禁止なのですが」
「私達は警備が仕事なので、セレバーナさんがここに入った手段を訊かなければなりません。お答えください」
ジアナに続き、プロンヤも背が低い少女に詰め寄る。
女騎士は二人共体格が良いので、子供を叱る大人達みたいな構図になっている。
「どうしてもペルルドールに直接会わなければならなくなったので、転移魔法で入って来ました」
無表情を崩さずに応えるセレバーナ。
しかしジアナはその言葉を信用しない。
「まさか。王城全てに魔法封じが施されているので、魔法では入れないはずです」
「それはこの武具のお陰です。これについて詳しく語れるのはペルルドールだけになります。私の方にも事情が有りますから」
セレバーナは、両腕と両足に着けている青い鎧を示す。
魔法に詳しくない二人の女騎士でも、その美しさに計り知れない力を感じる。
「で。こんなにも張り詰めた雰囲気になっている理由は何ですか?」
プロンヤは一瞬だけ躊躇った後、背筋を伸ばして応える。
「私共にはそれを語る資格が有りません。セレバーナさんならお通ししても大丈夫でしょう。姫も退屈しておられるでしょうから――」
ドアを開けようとしたプロンヤの手を押さえるジアナ。
「待ってください。中にはトロピカーナ様もいらっしゃいます。気軽に入られては困ります」
「何?姉姫様もここにいらっしゃるのか。なるほど良く出来ている。好都合だ」
腕を組もうとしたセレバーナは、鎧に邪魔されて腕を下げた。
このクセも直さないとな。
「姉姫様にも関係の有る話なのでこのままお会いしたいのですが、いかがでしょうか。無理ならペルルドールだけでも構いませんが」
「少々お待ち下さい。プロンヤ殿、こちらへ」
二人の女騎士はセレバーナから数歩離れ、小声で何かを話し始めた。
その内容が気になったので、空気魔法を使って聞き耳を立てる。
声は空気の振動で伝わる物なので、その震動を増幅させてやれば聞こえる。
ジアナが『あの少女は何者だ』と質問し、プロンヤが『ペルルドールの同門だ』と応えている。
妹姫が魔法の修行に出ていた事は承知しているので、それで納得するジアナ。
半年間苦楽を共にした仲間を独断で追い返したら妹姫のお叱りを受けるだろう。
「分かりました。しばらくお待ちください。姫様達の許可を頂いて参りますので」
「ええ。突然来たこちらに非が有りますので、いつまでも待ちますよ」
ジアナに向けて会釈をした背の低いツインテール少女は、ドアから離れて姿勢良く気を付けをした。




