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心地良い青空の下でテーブルに着いているセレバーナの口数が減ってしまった。
ソレイユドールの不用意な言葉で少し不機嫌になってしまった様だ。
「わたくしは、この身を世界の基礎とするためにドラゴンに転生しました」
なので、巨大な白いドラゴンが一人語りの様に言う。
「貴女達は穂波恵吾の記憶を受け継ぎましたよね?なら、この世界の形が普通ではない事も知っていますよね?」
「はい。遺跡内に有る円卓が世界の形だと知っています。平たい皿の上に国が有り、我々が立っているイメージです」
無表情で言う黒髪少女に赤髪少女が続く。
「転移魔法で物凄い上空に行って、そこから下を見下ろした事も有りました。でも、良く分かりませんでした」
とんでもない事をサラリと言ったイヤナに苦笑を向けるシャーフーチ。
「そんな事をしたんですか」
「はい。だって、知識だけじゃ良く分からないんですもん。私はセレバーナみたいに頭の中だけで納得する事は出来ませんから、この目で確かめたんです」
「では、他の世界は惑星と呼ばれる球体である事も知っていますね?」
ソレイユドールは穏やかな声で話を続ける。
頷くのは気を取り直したセレバーナ。
一時の感情でいつまでも不貞腐れるほど子供ではない。
「はい。貴女の身体で足りない部分を補うのでは?と考えていました。この大陸をそのまま球体にすると、真ん中の部分が空洞になってしまいますから」
腕を組むセレバーナ。
「しかし、いくら大きくても、ドラゴンの身体では世界の補完には足りない。こうして目の当たりにしても思います。全然足りないと」
「そこまで理解しているなら話は早いですね。――わたくしはこれから国中を飛び回り、全ての地域から女神の力を吸い取ります」
鎌首を持ち上げた白いドラゴンは、丘の下に有る最果ての村を見た。
蟻の様に小さな人間達が、将来の実りを期待して野良仕事をしている。
「そして、魔法力が無くなった世界に貴女達の魔法力を満たせば、貴女達はこの世界の女神となります。多少強引でも『辻褄合わせ』で何とかなります」
「私達の魔力を……どうやって?」
「また質問ですか?」
呆れ声を出すソレイユドール。
それを受けたセレバーナは、口を真一文字にして顎を引いた。
「それは貴女達が考えなさい。その為に貴女達には一般人よりも優れた才能と個性を与えられているのだから」
「女神候補だから、それが出来る資質を初めから与えられていると」
「そうです。――わたくしのアイデアで行うと、わたくしも女神になってしまう。それは不都合が有ります」
「ソレイユドールさんも女神になれるんですか?」
珍しくイヤナが早口で割り込んで来た。
「まだなれる可能性は残っている、と思います。確証は有りませんが、異世界の伝説ではドラゴンも神の一員なので。――それが何か?」
「えっと、ごめんなさい。まだ考えが纏まってないので、後で言います。続けてください」
「続けますよ。――国中の魔法力を吸い上げたわたくしの身体は際限無く大きくなるでしょう。それこそ、もうひとつの大陸が産まれるくらいに」
ソレイユドールは頭を下げ、少女達と視線の高さをなるべく合わせる。
「大きくなったわたくしの身体は、お皿の裏で新しい大陸になるでしょう」
「なるほど。エルヴィナーサ国の裏側にもうひとつの陸地を作るんですね。海の向こうに、新大陸を」
「そうです。この大地には名前が無いので仮に地球としますが、地球の裏側を作るんです」
「そして世界を球体にすると」
腕を組むセレバーナ。
予想通りの流れだが、会話を円滑に進めるために関心した風を装う。
「それでこの世界は他の異世界同様、世界としての寿命を全う出来る様になると思います」
「当然ソレイユドールは命を落としますが、それでも構わないと」
「はい。わたくしは500年前の存在ですから、本来はここに居るべきではありませんからね」
「では……シャーフーチどうされますか」
セレバーナの金色の瞳が師匠へと向けられる。
ついでにイヤナもそちらを見た。
「私は死ぬまで生きますよ。新大陸でね」
「お師匠様は、その新大陸ってところに行くんですか?」
前のめりになって訊くイヤナに頷いて見せるシャーフーチ
「こちらの国に居続けると、ずっと魔王の封印に縛られますからね」
「すると、ひとりぼっちになっちゃいませんか?あ、『辻褄合わせ』で人が初めから居る事になるのかな?」
「問題はそこです」
ソレイユドールは、爬虫類っぽく薄皮の瞼で瞬きした。
「『辻褄合わせ』で新大陸に未知の国を作って国民を創造しても良いのですが、それではわたくしの心配事が解消されません」
「魔物――ですか?」
神妙に言うセレバーナに瞳を向ける白いドラゴン。
「勘は良いのね。その通りです。現代では、魔物の害はどの様な状況にありますか?」
「新聞に載る様な大事件は数か月に一度程度です。しかし冒険者が不景気に悩んでいると言う話は聞かないので、小さな事件は各地で起こっているでしょう」
「やはりそうですか。魔王の封印だけでは魔物の害を抑える事は出来ませんか」
ソレイユドールは残念そうに溜息を吐いた。
身体が大きいので、顔の前に有る雑草が鼻息で大きく揺れる。
「わたくしはエルヴィナーサ家の存続も願っています。その為に、魔物の害を完全に無くしたいと願っています」
「何か考えがお有りなんでしょうか」
不味い茶を飲み干すセレバーナ。
すると、ソレイユドールがシャーフーチと視線を合わせて頷き合った。
「わたくしとシャーフーチは、500年前の王女誘拐事件を再現します。それを成功させる為に、貴女達にも協力して貰いたいんです」
「伝説の再現、ですか?私とイヤナがそれを手伝うと魔物の害が無くなるんですか?」
「全てが上手く行けば。さぁ、打ち合わせをしましょう。――シャーフーチ。お茶のお代わりを。今度は美味しいお茶をね」




