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黄金の鎧を身に纏っているジアナは、大仰なノックをしてから部屋の中に入って行った。
中からの返事はペルルドールの声だった。
元気そうで何よりだ。
残されたセレバーナは、背の高いプロンヤを見上げた。
「以前お約束していた届け物を直接渡しに来たのです。プロンヤさんを頼る予定でしたのに、勝手に行動を変更して申し訳ございません」
ツインテールの頭を下げるセレバーナに首を横に振るプロンヤ。
「お気になさらず。入室の許可がおりましたらメイドにお茶を届けさせます」
「ありがとうございます」
それ以上話す事が無いので、無言でジアナが出て来るのを待つ。
黄金の女騎士はすぐに部屋から出て来たが、威圧的にセレバーナの前に立ち塞がった。
「セレバーナさん。入室の許可が下りましたが、その前に武器の有無を確認しても宜しいでしょうか。万が一を考えるのも私達の仕事ですので」
客人に対する態度ではないが、一般人は絶対に入れない姫城の心臓部に無断侵入したので、用心するのは当然だ。
「構いませんが、これは……いえ、何でもありません。大丈夫でしょう」
セレバーナが両手両足に纏っている青い鎧は、勇者の家に残されていた女神の鎧のレプリカだ。
普通の人が女神の鎧に触れたら問題が起こる可能背が有るかもと言いかけ、思い直す。
王都のホテル暮らしをしていた少女達では鎧の保管が出来なかったので、冬の間ずっと魔法ギルドに保管を頼んでいた。
問題が有るのなら魔法ギルドの人は勇者の家から鎧を持ち出せなかっただろうから、きっと何も起こらないだろう。
「失礼します」
ジアナは、まず腕と足の鎧に隠し武器が無いかと探った。
金の鎧を着た女騎士に女神の罰が下る事はなかった。
続いて神学校の制服のポケットやスカートを探り、最後に背負っている鞄を探る。
「これは、本ですか?」
鞄の中に入っていた紙の束を取り出すジアナ。
本と言うより、原稿用紙を紐で束ねた物だ。
しかし固い表紙で閉じられているので、形はやはり本だとしか言えない。
「それを届けに来ました」
「本の他には……何も有りませんね。本が目的なら、鞄を預かっても宜しいですか?紐や針が仕込んである可能性が有りますので」
「暗殺の警戒ですね。構いませんよ」
「お預かりします」
鞄を受け取ったジアナは、そこまでしてからようやく扉を開けた。
「では、失礼して――おっと、王族に失礼があってはいけないので、これは言ってはいけない言葉でしたか。改めて、お邪魔します」
部屋に足を踏み入れたセレバーナは、部屋の広さと豪華さに目を奪われた。
絵画などの芸術品は無いが、家具の全てが輝いている。
「これが王女の私室、か」
以前入った応接室もこんな感じだったので、王族が活動する部屋は全てがこんな感じなんだろう。
普通の女子なら憧れる風景なんだろうが、セレバーナは憂鬱そうに溜息を吐いた。
この輝きは目に悪く、落ち着かない。
「セレバーナ?こっちですよ」
「そっちか。また来たよ、ペルルドール」
山水が描かれた巨大な衝立の向こうで声がしたので、衝立から顔を出すセレバーナ。
豪華なドレスを着た王女姉妹が派手なテーブルに着いていて、クリスタルを彫って作られたチェスをしていた。
「はじめまして、トロピカーナ様。セレバーナ・ブルーライトです」
神学校の制服のスカートを抓み上げる真似をしながら礼儀正しく頭を下げるセレバーナに笑みを向ける姉姫。
「はじめまして。妹がお世話になっています。妹と同じく、わたくしも呼び捨てで結構ですよ」
「そうですか。では遠慮無く。トロピカーナは病弱と言う話ですが、起きていても大丈夫なんですか?」
「ええ。温かくなってきましたから」
妹に似て綺麗な金髪を持ったトロピカーナが笑む。
病人らしく顔色が悪いが、体調は良さそうだ。
「そうですか。――ペルルドール。再会を喜びたいが、訳有ってイヤナは来ていない。だから土産は無い」
「あら、そうなんですの?残念ですわ」
「これが約束していた聖書だ。後で内容の解説をしなければならないので、一通り目を通しておいてくれ」
セレバーナは金髪美少女の前に本を置いた。
ついでにチェスの進行状況をチラ見してみる。
接戦だが、ペルルドールが僅かに劣勢か。
「随分と分厚いですね」
「あれからずっとヒマだったからな。そのお陰で満足の行く仕上がりになった」
「それは何よりですわね。――ところで、セレバーナが腕に着けているそれは女神の鎧ではなくて?」
実は、ペルルドールの青い瞳は最初から青い鎧に釘付けになっていた。
「ああ、そうだ。晴れて女神となったのだ。と言いたいが、まだ半分、と言ったところなのだ」
「どう言う事ですの?あ、どうぞ座って」
ペルルドールが片手を上げると、視界の外で控えていたメイドがもう一脚の椅子を運んで来た。
それがテーブルの横に置かれたので、礼を言ったセレバーナがそこに座る。
「例の白いドラゴンが人としての記憶を取り戻し、最果ての遺跡に降り立った。そのお陰で我々もあそこに入る事が出来た」
この椅子も柔らかく、座り心地が良い。
長時間読書をしても尻が痛くなる事は無いだろう。
「そこで、女神になるのは私達だからと、権限の全てが私達に譲られた。彼女は女神になれる権利を完全に放棄した。君、そしてサコと同じ様にな」
「ここに居ないイヤナにもその権限が譲られた、と言う事ですね」
そう言うペルルドールに頷くセレバーナ
「イヤナと鎧を半分こし、二人で女神となる事を可能とした。イヤナは胴と腰と兜を身に着けている」
「半分こなんて出来ますの?」
「問題は無いそうだ。七人の女神も分割して身に着けていたしな」
「ああ、そうでしたわね」
セレバーナは右手を持ち上げ、二人の王女に鎧を見せ付ける。
「見た目は重そうだが、重量はほとんど感じない。しかし、身体のサイズ的に私は胴の部分は着れないので、この割り振りとなった訳だ」
「確かに。女神の体格は、イヤナより少々大きいくらいでしたからね」
クスリと笑むペルルドール。
振る舞いが王女のそれに戻っていて、微妙に違和感が有る。
遺跡で暮らしていた時は一人隠れて未熟なキュウリを齧っていたクセに。
「この鎧には力は残っていないが、世界神の気配が残っている。それは女神より上位の存在なので、この世界の魔法を無効化出来る」
「へぇ。凄いですわね」
「ああ。だから、この姫城にも転移魔法で入り込めた。王城に施された魔法防御を無効化してな」
「本当に?とんでもないですわ」
驚く二人の王女。
所作がいちいち優雅だ。
「女神の奇跡と言う奴だな。私達が晴れて女神になった暁には、この世界は私達が考えた形になるだろう。人はそれに抵抗出来ない」
「その詳細がこの聖書に書かれている、と言う訳ですね」
ペルルドールが本に右手を添えた。
その手からは土臭さが消え、日焼けも取れている。
「そうだ。しかし、イヤナが目指す世界の形は私とは違う。だから彼女は別行動を取り、今はソレイユドールと共に動いている」
「ソレイユドール?それは500年前に魔王に誘拐された、あのソレイユドールですか?」
トロピカーナがわずかに前屈みになる。
「そうです。そのソレイユドールは、トロピカーナに第二のソレイユドールになって欲しいと願っています」
「わたくしに?」
目を丸くするトロピカーナ。
「はい。そのお願いをする為に来た訳ですが、どうも様子がおかしいですね。どうして妹の姫城に姉姫が居るんですか?」
この国では、世継ぎが複数居る場合、別々の城で育てられる。
一ヶ所に纏まっていると暗殺で全滅する可能性が有るからだ。
そんな危機を回避する為に、王城の敷地内に無数の姫城が建っている。
だから、式典でもないのに二人が同じ部屋に居るのはとても不自然なのだ。
「それは、世継ぎ争いが再発しているからですわ」
ペルルドールの表情が暗くなる。
深刻な話の様だ。
セレバーナは、ツインテールを手で払ってから姿勢を正した。




