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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第六章
190/333

18

「お部屋の中は近代的なのに、廊下は洞窟みたいなんですね。魔法ギルドを紹介していた雑誌での写真では、神学校と大差無い風景と言う印象でしたが」


金髪美女を追い掛ける様に歩いているセレバーナは、周囲を見渡しながら言う。

巨大な岩をくりぬいた洞窟の様な狭い廊下。

一定間隔でランプが下がっているので暗くはないが、その灯火は青白い。

電気やロウソクの明かりではないので、恐らくは魔法のランプなんだろう。


「魔法使いギルドは、ベテランが集う本部と、若い弟子達が修行する場がひとつの建物に入っているのです。アレは修行する場の写真で、若い人向けの広告です」


秘書さんは石造りの階段を上がり、巨大な扉を開ける。

その向こうは博物館の様な空間だった。

ホウキ、ローブ、宝石等がガラスケースに入って展示されている。

伝説級の魔法道具の様だ。

貴重そうな展示品の周囲は無人なのに、セレバーナ達が通ったドアは警備員が守っていた。


「お疲れ様です」


警備員を労った秘書さんは、その前を横切って行く。

ハイヒールの尖った足音が展示室の高い天井に響く。

セレバーナは無言で会釈し、脚の長い秘書さんに置いて行かれない様に早足になる。

ツインテール少女は神学生には定番であるメーカーの革靴を履いているので、大理石の床で滑って転ばない様に気を付けなければならない。

展示室を出ると、青い空の下に出た。

芝生が敷き詰められ、中央に巨大な噴水が有る。

四方が建物の壁なので、中庭か。

秋の日差しは温かいので、念の為に持って来た防寒具を使う事は無いだろう。

噴水の周りには数多くのベンチが有り、十人ほどの若者が談笑している。

紺や黒と言った魔法使いっぽい色のローブを着ているので、全員が一人前の様だ。

そんな魔法使い達が神学校の制服に気付いた。

遠慮がちにセレバーナを気にしている。

目立つのは分かっていたが、まともな服はこれしかないので仕方が無い。

中庭を横切り、再び建物の中に入る。

そこは、王都病院の広い待合ロビーを神学校風にアレンジした、と言った感じの空間だった。

窓口がいくつも有り、老若男女の魔法使い達があちこちで手続きを行っている。

雰囲気的には大きな街の役所に近い。

こうしてギルドに来てみると、絶滅寸前と言われる魔法使いもそれなりの人数が居る事が分かる。

そして、赤やら虹色やら、かなり派手なローブを着ている者が少数ながら居る。

ローブは落ち着いた暗い色でなければならないと勝手に思い込んでたが、そうではないらしい。

魔法使いとしての仕事に支障が出なければ、もしくは仕事に必要ならば、自由に個性を出しても良いんだろう。


「セレバーナさん。ここが枝取りの申込窓口です。儀式が終わりそうな時間になったら迎えに来ますので、早目に終わった場合はこのロビー内でお待ちください」


「はい。ありがとうございました」


来た道を戻って行く秘書さんに頭を下げて礼を言ったセレバーナは、『枝取りの儀式』と書かれた看板を掲げている窓口の前に立った。

小さな穴が無数に開いたガラスの向こうでメガネの女性が書き物をしていた。

物凄いクセっ毛な人だった。


「すみません。枝取りの儀式に伺ったのですが、どうすれば良いのでしょうか」


「あ、はーい。この書類に必要事項をご記入ください」


ガラスの仕切りの下に空いている長方形の隙間から一枚の紙とペンが出て来た。

自分の名前と年齢、持病の有無や刺青の有無、そして師匠の名前を書けば良い様だ。

必要事項を書き込み、受け付けのお姉さんに返す。


「ありがとうございまーす。えーと。……え?」


メガネを中指で押し上げたお姉さんは、改めてツインテール少女を見た。

セレバーナの背は低いので、鼻から下はカウンターに隠れていて見えない。


「貴女が噂の魔王のお弟子さんですか?」


自分の名前より先に師の名前で驚かれたのは初めてだ。

さすが魔法ギルド。


「はい」


「って事は、もうそろそろ第二王女様もお見えになるかも知れないんですね?」


「まぁ、そうですね。彼女も頑張っていますから、近い内にここに来るかも知れません」


その言葉を聞いたクセっ毛のお姉さんは輝く様な笑顔になった。


「私、第二王女様のファンなんですよ!ホラ、あのお方ってアリス装備が似合いそうじゃありませんか?」


「すみません。勉強不足で良く分からないのですが、アリス装備とは何でしょうか」


「冒険者が北方のダンジョンで見付けるレア装備ですよ。性能はそれほどでもないんですが、とても可愛いので高値で取引されています」


装備品を手に入れる事もダンジョンに挑む事も自分には無縁だろうから興味は無いが、付き合いとして適当に頷くセレバーナ。


「なるほど。ところで、枝取りの儀式の方はどうしたら良いのでしょう」


「あ、すみません。私は枝取り案内人を務めさせて頂く、ブランナー・バウントです。宜しく。――今開けますので、少々お待ち下さい」


窓口の真横の壁が岩を引き摺る様な音を立てて開く。

機械っぽい音ではないので、魔法で動いている様だ。


「そこからお入りください」


そう案内したブランナーさんは、『しばらくお待ちください』と書かれている木札を窓口に立てた。

この儀式は一人ずつしか出来ないらしい。


「失礼します」


中に足を踏み入れると、ブランナーさんは溜息を吐きながら「当分は休みを取れないわね」と呟いていた。

休みの日にペルルドールが来たら会えないからか。

件のアリス装備とやらを買っておいてプレゼントしそうな勢いだが、そうなったらそうなったで面白そうなので口は出さないでおこう。

そう思いながら、セレバーナは部屋の中を見渡した。

椅子と書類とお菓子入れの棚しかない、殺風景な小部屋だった。

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