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朝食とその後片付けが終わり、セレバーナとシャーフーチは揃って廊下に出た。
セレバーナの自室は遺跡一階の最奥に有るふたつの部屋。
その手前側に入る。
石造りの狭い部屋にはベッドと机と謎の木箱しかない。
しかし木箱から窓の外に向けて沢山のコードが伸びていて、部屋の隅には紙ゴミの山が有るので、パッと見は雑多に散らかっている。
机の上には本が山積みになっているが、大きい本は下に、小さい本は上にと、それなりに整理されている。
その本の頂上にあの小箱がご神体の様に置かれてあった。
「では、月織玉を見せてください。他人は触れませんので、貴女の手で見せてください」
「はい」
小箱を手に取ったセレバーナは、恭しく蓋を開ける。
月織玉は真鍮色のままで、形も球体のまま。
だが夏の雷雲の様に稲光を発している。
「これは何を願ったんですか?」
「魔法も大切ですが、機械の研究も私の人生を懸けるべき大切な命題なんです。ですので、無限のエネルギーを願いました」
「無限のエネルギーですか。機械は電気で動く物が多いので、こうなった訳ですね」
「はい。願い通りの物になったのなら、電気仕掛けの自動車に組み込めば補給無しで王国一周旅行が出来るはずです。汎用性が皆無なので作りませんが」
「これは魔法使いギルドに行かなくてはいけませんね。外出の用意を。月織玉を忘れずに。勿論、小箱に入れて。もう満タンですが、念の為に無心で運びましょう」
「分かりました。ちなみに、何の為にギルドまで行くのでしょうか」
「魔法使いの杖を作るんですよ。その為の儀式が有ります。それを『枝取りの儀式』と言います」
「杖、ですか。魔法使いが持っている木の杖ですね」
「そうです」
「いよいよ私もそこまで来ましたか。感慨深いです」
そう言ったセレバーナは外出の用意を始めた。
と言っても、貧乏生活のせいで私物が衣類と買い込んだ本しかない。
本なんか持ってもしょうがないので、財布をポケットに入れて準備完了。
「その格好で良いんですか?」
シャーフーチは黒髪少女の身体に視線を落とす。
背の低いセレバーナは変わらず神学校の制服を着ている。
デザインに違いは無いが、夏服なので生地が薄い。
「何か問題が?あ、この制服では目立ちますでしょうか」
「そうではなく、魔法ギルドの有る地方は少々寒いかも知れないんです。高地で天候が読めないので。貴女の体調次第では、上着を持って行った方が良いかと」
「なるほど。数時間程度の滞在と言う事でしたので、これを持って行きます」
セレバーナは机の引き出しから白い手袋を取り出した。
「実験用であって防寒用ではありませんが、ちょっと寒いくらいならこれで十分でしょう」
「結構。それでは、私の転移魔法で行くので手を繋ぎましょう。目を瞑ってください」
「はい」
シャーフーチと手を繋ぎ、目を瞑るセレバーナ。
次の瞬間、転移魔法特有の浮遊感が全身を包む。
自分の魔法だと平気なのだが、他人主導の浮遊感は結構怖い。
数秒後、固い地面に足が付く。
「到着です。付いて来てください」
目を開けると、そこは狭くて暗い部屋の中だった。
手の平に光の玉を浮かべているシャーフーチの後に続いて歩く。
数歩歩くと、ここは岩で出来た洞窟である事が分かった。
修行の場である遺跡が石造りなので、セレバーナはつい部屋と錯覚してしまった様だ。
「随分と薄暗い場所ですね、ここは。魔法使いギルドは、こんな場所に有るんですか?」
「ここは私専用の転移魔法発着所、みたいな所です。封印されている魔王ですから、正面からは入れないんですよ」
徒歩一分程度の短い洞窟から出ると、高級そうな絨毯が敷かれた部屋に出た。
神学校の校長室みたいな雰囲気で、ガラス戸の棚やら月の紋章が入った額縁やらが目に付く。
「おはようございます、ティセさん」
「あら。おはようございます、シャーフーチ様。今日は何の御用でしょうか」
シャーフーチが暢気な調子で挨拶すると、大きな机で書き物をしていた女性が立ち上がった。
金髪で、たいそうな美人だ。
見事なプロポーションを自慢しているかの様なスーツを着ている。
「こちらの方は、魔法使いギルド長第一秘書のティセさんです。そして、この子は私の弟子のセレバーナです」
紹介され、頭を下げ合う金髪美女と黒髪少女。
「貴女が噂のセレバーナ・ブルーライトさんですか。と言う事は、枝取りですか?」
「はい、そうです。私はあそこまで行けませんので、ティセさんが案内してくれませんか?」
「分かりました。いつも通り、お留守番していてください。では、セレバーナさん。こちらへどうぞ」
「はい。宜しくお願いします。行って来ます、シャーフーチ」
「行ってらっしゃい。上手くやるんですよ」
小さく手を振るシャーフーチを残し、セレバーナは美女の後に続いて広い秘書室から出た。




