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「ああ、もうひとつの質問を忘れていました、シャーフーチ。封印の丘に施されている結界の事ですが」
椅子に座り、分厚い本の表紙を眺めていたツインテール少女が顔を上げた。
「結界がどうしましたか?」
この遺跡は特殊な結界で守られている。
それは『この遺跡が有る封印の丘に敵意を持って足を踏み入れるとモンスターがはびこる魔王の城に飛ばされる』と言う物だ。
魔王の城はこの遺跡と同じ場所に有るらしいのだが、現在は別世界に有ると言う良く分からない状態らしい。
「私達がここに来た時は結界は有りませんでしたよね?我々は勿論、ペルルドールの護衛達もこの遺跡に入れた訳ですし」
「弟子を募集しておいて誰も入れないじゃ話になりませんでしょう?」
「意図的に結界を無くしたんでしょうか」
「いえ、弱まっただけです。意図的でもありません」
「と、仰いますと?」
「太陽と月と星の位置とか、世界各地の力場の関係とか、色々な理由で結界が弱まる時を狙って貴女達を呼んだんですよ」
「すると、自由自在に結界の強弱を操る事は出来ないんですか?」
「無理ですね。この結界を張った者はもう居ませんし。あえて出来ない様にする事で結界の能力を高めている、と言う部分も有ります」
「なるほど。では、結界が弱まる時を狙わなければ職人を呼ぶ事が出来ないので、椅子や壁が壊れたら自分で直すしかない、と言う訳ですか」
セレバーナは金髪美少女が座っている籐椅子を見る。
アレの修理には専門の知識や道具が必要だと思われるので、現時点では直せる見込みは無い。
「遺跡が壊れたら私が直しますけどね。貴女達の物は貴女達で直してください」
キッチンの方を気にしながら言うシャーフーチ。
焼けたチョコの香りが強くなって来たので、湿気とカビの臭いが掻き消されている。
「ふむ。その籐椅子を下の村まで運ぶと言う手も有るが、リビングの入り口を通す事が出来ない大きさだから、それも不可能か」
セレバーナは円卓の木目を指でなぞりながら言う。
少女達が力を合せても動かす事が出来ないこの巨大な円卓も入り口を通らないな。
多分、遺跡の壁を作り始める前に入れたんだろう。
いや待て。
何らかの魔法を使って運び入れた可能性が有る。
円卓を小さくするとか、テレポートでリビングに入れたとか。
その魔法を学べれば、村に椅子を持って行く事も可能になるのだろうか。




