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石造りの廊下に出たイヤナは、上りと下りが隣り合わせになっている階段の前まで移動した。
「おししょーさまー!ちょっとよろしいでしょうかぁ!うかがいたいことがあるんですけどー!」
イヤナの大声は、リビングに居る少女達にもハッキリと聞こえた。
外に居ても届いていただろう。
「何ですか?」
灰色のローブを着た長髪の男が階段を降りて来た。
「セレバーナとペルルドールが、お師匠様に質問が有るそうで。私はちょっと手を洗いに」
イヤナは、白い粉で汚れている両手を見せてから下りの階段の先に有る水場の方に歩いて行った。
「どうしました?」
ローブの男は、一心不乱に筋肉トレーニングをしている男みたいな体格を持つ少女の脇を通ってリビングに行く。
天候のせいで薄暗いそこでは、ひとつの籐椅子に二人の少女が座っていた。
「……何をしているんですか?」
「いえ。意外に頑丈なので、二人分の体重にも耐えられるかな?と。――そうだ。シャーフーチが一番体重が有りそうだ」
セレバーナの言葉に驚いたペルルドールが青い目を剥く。
「まさか、シャーフーチに座れと?やめてください、気持ち悪い。もう座れなくなります」
「酷い言われ様ですねぇ……用事はそれですか?」
長い黒髪を肩に垂らしているシャーフーチがしょんぼりとする。
「いいえ。質問がふたつ有ります。宜しいでしょうか」
椅子の肘置きと金髪美少女の間にすっぽりと嵌っていたお尻を抜いたセレバーナは、神学校の制服のスカートを手で直しながら立ち上がる。
「答えられる事なら。どうぞ」
「まず、ひとつ目。この修行はいつ終わるのでしょうか?」
「おや?その質問はどう言った意図で?この生活に飽きましたか?」
「その様な事は有りません。単純な興味からです。修了時期が分かれば将来設計も容易になりますし。――私達が成人する前には終わるのでしょうか」
「魔法は技術と才能の世界です。自分で限界を決めなければ修行が終わる事は有りません。ですので、その質問の答えは有りません」
シャーフーチは円卓の上座に腰を下す。
「職人の世界ですね」
知った風な事を言ったセレバーナが腕を組む。
そんな十四歳の少女に向けて大きく頷いて見せるシャーフーチ。
「まぁ、貴女達が訊きたいのはそう言う事ではないのは承知しています。ええと、現在の成人は何歳ですか?」
「この国の法律では十八歳です」
「一番年上のイヤナとサコが十五歳ですから、後三年ですか。それだけ有れば私の許から巣立つ事は出来るでしょうね」
「三年」
組んでいた腕を解いたセレバーナが確認する様に繰り返す。
「他の弟子を取った事が無いので分かりませんが、どんなに手間取っても、貴女達が行き遅れるほどの時間は掛らないと思いますよ」
「行き遅れ、とは何ですの?」
ペルルドールが小首を傾げる。
「婚期を逃す、と言う品の無い冗談だ。そうなったら私はシャーフーチに責任を取って貰おうかな。どうだ?イヤナ」
セレバーナは、リビングの入り口に金色の瞳を向ける。
そこには腕捲りしたままのイヤナが居た。
両手に付いていた白い粉は洗い落とされている。
「あはは。良いね。いざと言う時は私もそうしよう。でも、お嫁さんが二人ってのはどうなのかな?」
「重婚は犯罪だが、彼は魔王だから平気だろう」
「ああ、分かりましたよ。品の無い冗談を言って済みませんでした。謝りますよ」
シャーフーチは、額を指で押さえながら項垂れた。
そうして溜息を吐いたら、良い匂いが漂っている事に気付いた。
深く呼吸しなければ気付かないくらい、淡い匂い。
「おや、心踊る香りがしますね。これは何を焼いているんでしょう?」
「半生チョコのスティックケーキです。雨でヒマでしたから」
イヤナは腕捲りを下しながらニッコリと笑む。
「ヒマ、ですか。やる事が無いのでしたら、次の課題に進んでみましょうか」
師匠の言葉に反応し、ペルルドールの形の良い眉が上がった。
「やっとですか。もっとサクサクと先に進みたいですわ」
「貴女達は飲み込みが早いので、急ぎ過ぎるのは良くないんですよ。それはともかく、ケーキが焼き上がったら始めましょう。良いですね?」
「はい」
頷く少女達。
「サコも準備を」
「分かりました」
廊下でスクワットをしていた短髪のサコは、汗を拭きに自室に戻った。
そしてペルルドールは籐椅子に座り。
イヤナはキッチンに戻り。
セレバーナは円卓に置きっ放しの本を閉じた。
早くケーキが焼き上がらないかな、と思いながら。




