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円卓のヴェリタブル  作者: 宗園やや
第四章
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111/333

4

遺跡の住人全員が円卓に座った。

その前には焼き立てのチョコケーキと安物の紅茶が添えられている。


「これからみなさんに教えるのは、光線魔法です」


そう言ったシャーフーチがケーキを一口食べ、心から美味しそうな顔をした。

少女達も小さなフォークを持ち、食べ始める。

本当に美味しかった。


「世の中に有る全ての物には色が有ります。そして、それは太陽の光を受ける事により我々は見る事が出来ます」


食べながら言う師匠に、食べながら頷く弟子達。


「空が青いのは、青い光が多く私達の目に届くから。夕焼けが赤いのは、赤い光が多く私達の目に届くからです」


「ちょっと、良く分かりませんわ」


ペルルドールが小首を傾げる。


「科学的な事はセレバーナに聞きましょう。分かる様に説明してくれませんか?」


シャーフーチに話を振られたセレバーナは、無表情でケーキを飲み込む。


「雨上がり、空に浮かぶ虹。一度は見た事が有るだろう?」


「勿論ですわ」


「太陽は、虹の色の全てを混ぜた物を光として飛ばしていると思って貰いたい。そして、絵の具を思い描いてくれ。それにも様々な色が有るだろう?」


セレバーナはフォークを窓の外に向ける。

外は雨。


「絵の具を全色混ぜると真っ黒になるが、太陽の光は全てを混ぜると透明になる。だから無数の色が降り注いでいる昼間でも、遠くの景色が見える」


少女達全員の頭の上にハテナマークが見える。

科学方面の基礎知識を学んでいないので、欠片も理解出来ていない様だ。

もっと分かり易く、それこそ幼児に説明するくらいに砕いて言わないとダメらしい。

だから例えを変えるセレバーナ。


「このケーキがどうして茶色か分かるか?」


「チョコケーキだからだよ。それはチョコの色です」


応えたのはイヤナ。


「では、この円卓がこの色なのはチョコケーキだからか?」


食卓であり、学びの場でもある円卓は、大きな木を輪切りにした物で出来ている。

色合い的にはチョコケーキと言うよりミルクココアのロールケーキに近い。

年輪が有るし。


「木製だからでは?」


サコが応える。

しかしセレバーナはツインテールの頭を横に振る。


「色と言う物は、物質が光を受けた時に、特定の色だけを反射させた物だ。なので、チョコだから木だからと言う理由ではなく」


紅茶を一口飲んで舌を湿らせてから続けるセレバーナ。


「茶色の光だけを反射させる物質で出来ているから、が正解だ。しかし、色と言う物は物質だけに左右されない」


セレバーナは妙に髪の量が多い自分のツインテールを撫でる。


「私の髪は黒い。サコは茶色。イヤナは赤。ペルルドールは金。みんな同じ人間だから、同じ物質で出来ている。それにも関わらず、だ」


「どうしてなの?」


イヤナは赤い頭に嵌っている黄色のカチェーシャを指で撫でる。

プラスチックなので手触りはツルリとしている。


「色素、と言う物質のせいだ。色素を使えば特定の色を反射させる事も出来る。つまり、赤い色素を使えばチョコケーキを赤くする事も出来る、筈だ」


料理の事は詳しくないので自信は無いが、と断るセレバーナに頷いて見せるシャーフーチ。


「結構です。これでみなさんは色と言う物がどう言う物かイメージ出来たと思います」


「出来た、とは言えませんね。いまいちですわ」


ペルルドールは湿気で萎んでいる自分の金髪を撫でる。


「では、試しにこうしてみましょう」


シャーフーチが指を鳴らす。

すると、茶色だった全員の食べ掛けチョコケーキが真っ青になった。

驚きの表情になる少女達。


「茶色の光を反射させている色素を魔法で無効化し、代わりに青い光を反射させているんです。しかし、これは不味そうだ。元に戻しましょう」


再び指が鳴ると元の茶色に戻る。


「これが光線魔法の基礎です。その名の通り、光を操る魔法です」


「面白そうですわね」


そう言った金髪美少女に向けて指を鳴らすシャーフーチ。

すると、ペルルドールの金髪が紫色になった。


「ああ?なんですのー?」


ペルルドールは、自分の前髪に青い瞳を向けてあんぐりと口を開く。


「昔の魔法使いの若者は、こうしてオシャレを楽しんだ物です。それ、みなさんも」


シャーフーチが連続で指を鳴らして行く。

セレバーナのツインテールが真っ白に、イヤナのおさげが緑に、サコの短髪が虹色になった。


「何で私だけこんな派手に」


頭を抱えるサコ。


「ははは。面白いでしょう?光を操ればこんな事も出来ると言うお手本です。更に」


シャーフーチが指を鳴らすと、全員の髪の色が元に戻った。

同時に別の物が円卓の上座に現れる。


「シャーフーチがわたくしに変身しましたわ!」


驚いたペルルドールが立ち上がる。


「この魔法を応用すれば、目の前に居る物の姿を借りる事が出来ます。人間だけではなく、木や石でも。ただし」


ニセペルルドールは手を伸ばし、紅茶のカップを持った。

しかし、カップは手の数センチ前で浮かんでいる。


「この魔法を使ったまま物を持つと、こうなります」


「なんと不自然な。なぜこの様な事が?」


セレバーナの顔が興味津々になる。

彼女の琴線に触れたらしい。


「この姿は鏡に映っている像の様な物だからです。実際の私は見えていないだけで、姿は変わっていません。触ってみれば分かります」


イヤナが立ち上がり、上座に座っているニセペルルドールの身体を触った。

ニセペルルドールから数センチ離れた中空で身体を触るパントマイムをしている風に見えるが、イヤナの手には確かに成人男性の身体を撫でている感触が有る。


「あ、本当だ。お師匠様だ」


「でしょう?見えない私がカップを持っているから空中に浮いて見えるんです。悪ふざけをすれば、分身の術も出来ます。えい」


質素な椅子に座っているニセペルルドールが二人に増えた。

更に三人に増えた。

もっともっと増え、大勢のペルルドールがリビング内を占拠する。


「これは面白いですが……。見た目の良いペルルドールでも、同じ顔がこうも並ぶと、さすがに薄気味悪いな」


セレバーナが眉間に皺を寄せた。

全てのペルルドールが同じ表情同じ姿勢なので、未知の現象に対する生理的な嫌悪感が発生している。


「いい加減にしてください、シャーフーチ。怒りますよ!」


ペルルドールは頬を膨らませて不機嫌顔になる。

それには構わず、虚像の少女の群れの中を歩くイヤナ。

金髪美少女の身体には触る事が出来ず、すり抜けられる。


「おお。居るのに居ないよ。不思議。面白い」


「消しますよ」


師匠の指が鳴ると、ニセペルルドールが全て消え、いつも通りのリビングに戻った。


「あっという間にテレパシーが使えるようになったみなさんの事です。光の方向と色素のイメージをしっかりすれば、すぐに基礎を習得するでしょう」


灰色のローブ姿に戻ったシャーフーチが続ける。


「最初の内は自分の髪の色を変える程度にしてくださいね。光線魔法は攻撃にも使えるので、細心の注意が必要です」


「ふむ。レーザー、ですか」


「レーザー?それは何ですか?」


「最新の科学ですので、シャーフーチが知らないのも仕方有りませんね。テレパシーでイメージ映像を送りましょう」


セレバーナはシャーフーチのみに思念を送る。

それは電気を使った卓上電灯の光。

その光が縫い糸の様に細くなり、真横に直線を描く。

遺跡の石壁に当たった光は、その部分を熱して赤く変色させる。

結果、溶岩の様にとろけて燃え上がる石壁。


「これがレーザーです。どうですか?」


セレバーナが確認すると、シャーフーチは頷いた。


「そんな感じですね。科学はこんな物にまで及んでいるんですねぇ。魔法使いが職を失う訳だ」


「何ですの?私にも見せてください」


ペルルドールの言葉にイヤナとサコも同意する。

しかしシャーフーチは少女達に厳しい表情を向けた。


「攻撃魔法は危険なので、知らないなら知らなくて良いです。知っていると無意識の内についうっかり使ってしまう事も有りますしね」


先日、イヤナが無意識の内にテレパシーで他人の頭の中を覗いてしまう事件が有った。

下手をすれば両者の人格が破壊され、廃人になるところだった。

その時に受けた罰のひとつである銀の指輪はもう外している。


「慌てなくても大丈夫ですよ。後日、改めて教える事になりますからね。それまで忘れていてください」


「むー……。不満ですが、危ないのなら仕方有りませんわね」


ペルルドールは渋々従う。


「セレバーナも、そのイメージを忘れて色素のみに集中してください」


「分かりました」


「では、みなさん。髪を好きな色に変えてみてください」


「はい」


頷いた少女達は、色をイメージする事に集中した。

だが、その日は光線魔法を使う事は出来ず、雨が上がる事も無かった。

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