アフタヌーンティー 1
遊学用に整えた動きやすさを重視したドレスから、黄色いレースを使ったドレスに着替える。
ふわふわしたAラインのドレスを着たセラフィナは、色素の薄さと相まって、春の妖精のような可愛らしさを放っている。
「セリーヌ、どうしましょう」
ドレスに着替えたセラフィナのサイドの髪を編んでいたセリーヌは、どことなく不安が混じった声に、顔を上げる。
鏡越しに目が合ったセラフィナの薄紫色の瞳は、ゆらゆら揺れていた。
「どうされたのですか?オーレリア様とアフタヌーンティーではなかったのですか?」
「そうなのだけど…。ルシアン様もいらっしゃるのよ」
「それは…まあ…」
セラフィナの思いを知るセリーヌはなんとも言えない顔で押し黙る。
セラフィナはこの4年間、セリーヌの前でもルシアンの話題を出すことはなかった。
小さくて純粋なお姫様は、残酷な失恋をしても、姉姫のことが好きだった。
妹の好きな人を奪った姉にしたくないと、無理やり仕舞い込んだ恋心を暴くようなことは、セリーヌとてしたくなかった。
「おまじない、かけておきましょうね」
するするする、まるで魔法のようにサイドを編み込んだ束を、後ろに持って来て、白百合のコサージュで留める。
「セラフィナ様に、神のご加護を」
祈りと共に留められたコサージュ。
セラフィナにとって特別な白百合。
がんばれ、とただ言われるよりも、セラフィナを奮い立たせる。
ーーこんこん。
お茶会への迎えが来たことを知らせるノックが響く。
「今行くわ。…ありがとう、セリーヌ」
「いってらっしゃいませ」
意を決して扉を開け、ルーファスと共に歩くセラフィナは、さながら戦地に赴く騎士のような気分だ。
「そんな怖い顔すんなって」
「え、私、そんな顔に出てたかしら」
「思いっきり。天使とか言われてるのが、嘘みたいだったぞ」
「それは好きで言われてるわけじゃないから」
ルーファスとくだらない会話をしていると、庭園までが一瞬だった。
「ありがとうね、ルーファス」
こうやって、いつも何気なく、励ましてくれる。
ルーファスが片手をあげてお礼に応える。いってこいって言われているみたい。
「お待たせいたしました」
オーレリアとルシアンはすでに席に着いていた。
城の庭園。
周囲には季節の花が咲き、噴水もあるガセポは、3人のお姫様たちのお気に入りだ。
仲睦まじく談笑していた2人が、まるで一枚の絵画のように綺麗で、ずきり、ずきりと心を抉る。
それでも足を止めなかったのは、声をかける前から、セラフィナが来たことに気づいて、こちらに笑顔を向けて歓迎してくれていたから。
「お招きいただいて、ありがとうございます」
キラキラ、太陽を反射する黄金が眩しい。
なぜ今日は快晴なのかと、太陽すら恨めしいくらいに。
「いいえ、こちらこそ来てくれてありがとう」
そこに掛けて、とオーレリアに言われた通り座ると、ぱっちり、右斜め前に座るルシアンと目が合ってしまう。
にっこり、笑いかけられてはもうダメだった。
久しぶりにちゃんと見た。笑んだ時に甘くなる琥珀色。
前よりも、大人びた顔つき。人好きするような優しい眼差し、表情。
すきだ、と、思ってしまった。
ーーそんなのダメなのに。
ふわり、感情に蓋をするように笑う。
セラフィナにとっては、地獄のお茶会が幕を開けた。




