アフタヌーンティー 2
今日のアフタヌーンティーは、春らしくいちごがふんだんに使われたスイーツやセイボリーが揃っていた。
いつものセラフィナなら、目を輝かせて、一つ残さずいただくところだが、今日に限ってはそれどころではない。
ーーちゅんちゅん。
セラフィナの心のうちを知らない鳥たちは、朝と変わらず呑気に鳴いている。
生いちごが添えられた、いちごの紅茶を一口含む。
甘い。甘すぎて、おかしくなりそう。
「美味しいでしょう。セラフィナが好きそうだと思って用意したの」
姉オーレリアは、純粋にセラフィナとの久しぶりの時間を大切にしてくれようとしているのが伝わる。
いちごは、セラフィナの大好物だ。
だからこそ、心が痛い。
この時間が早く終われと願ってしまう、心の汚い自分が嫌になる。
「ええ、とても美味しいですわ。お姉様方は、違うリーフですの?」
「そう、私とルシアンはもう少し苦味のあるものよ」
「では私も次はそちらをいだこうかしら」
姉が告げた彼の名前にすら反応してしまいそうで、ぐっと堪える。
もう2人は、呼び捨てをするような仲なんだ。
4年も婚約をしていれば、当たり前なはずなのに。
何故今更そんなことが悲しいのか。
セラフィナには分からない。
紛らわすようにこくり、一口紅茶を含んだ。
やっぱり甘い。
今は少しでも苦味のあるものを摂取したかった。
「そう言えば、セラフィナにずっと聞きたかったことがあるの」
「どうされましたの」
「あなた、将来、どのように考えていて?」
将来、そう言われて、思わず意識して見ないようにしていた右斜め前を見てしまいそうになる。
"ルーシー様のお嫁さんになる"
手放しにそう思えていた頃が懐かしくて、あまりにも、遠かった。
あの日々は今のセラフィナにとって、宝物だ。
あの日々があるから、今のセラフィナがある。頑張る活力になる。
でも、この気持ちはバレてはいけない。絶対に。
「将来、ですか」
「そう。あなたの婚約者がいつまでも決まらないから、皆不思議に思っているの」
セラフィナも、もう17歳。
婚約者がいてもおかしくない、というよりは、王族としてはいない方が不思議な年齢に差し掛かっていることは、本人も承知だ。
実際に婚約の打診は断っても断りきれないほど多いそうだが、セラフィナの婚約者の座は今も空席のまま。
急かされないのをいいことに、この状態に甘えていた。
ただ、いつまでも世間を知らない甘ちゃんではないつもりだ。
「もちろん、王家の利益になるような結婚をすることが努めだと分かっております」
「そんなことありませんよ」
今まで無言を貫いていたルシアンが、急に会話に入って来たことに驚いたセラフィナは目を向ける。
ぱっちり、さっきぶりに目が合ってしまう。
風が彼の黄金の髪の毛をさらさら撫でるのが幻想的で、現実味がない。
「あなたは末姫です。多少自由に生きることも許されると思います」
言葉を紡ぐルシアンの表情があまりにも真剣で、目が逸らせない。
「それこそ、結婚など無理にしなくても良いのではないですか?」
優しかった琥珀色が、少し咎めるような色を孕む。
セラフィナには、ルシアンがどこか怒っているように感じられた。
そんなはずはないのに。彼が怒る理由なんて、何一つないはずなのに。
2人の目は合ったまま。
短く、それでいて、永かった。
「ならば私は幸せ者ね」
しばしの沈黙を破ったのは、オーレリアの声だった。
「好きな殿方と、結婚できるのだから」
するする、オーレリアはルシアンの腕に自身の腕を絡め、見つめる。
比喩でなく、自分のものだと主張している。
そんなオーレリアを咎めることなく、ルシアンもまた、見つめ返す。
完璧に2人の空間。
一寸の付け入る隙もない。愛し合うもの同士の空間。
ずきりずきりと容赦なく心臓が切り刻まれる。
初恋は、時に残酷だと、あの絵本は教えてくれていたのに。
性懲りも無く、今もまだ、彼に焦がれている。




