5回目の失敗
「まあまあ、元気だしなって」
「ルーファス、他人事だからって呑気なこと言わないでちょうだい。これで5回目よ?」
朝が満ちる頃、お城の庭園。
セラフィナは暇を持て余していた。
遊学の予定だったため、今日は何も予定がない。
だからといってごろごろするのは性に合わず、医学書を片手に庭園までやって来た。
5回目。そう5回目なのだ。
セラフィナの遊学が、見送りになるのは。
1回目は、遊学予定だったサモエド王国の治安の悪化。
2回目は、遊学予定だったレトリーブ王国と、その隣国との国同士の対立。
3回目は、遊学予定だったダルメシ王国の流行病。
4回目は、自国であるフローリア王国の貴族間の覇権争い。
そして5回目は、橋の崩落。
「誰かの策略なんじゃないか?」
「まさか、そんなはずないわ。私の運が悪いのよ」
言いながら、しょぼくれた顔をするセラフィナの隣に、ルーファスがどすんと腰を下ろす。
ルーファスは、オーレリアとルシアンの婚約が決まってからも、ずっとセラフィナの専属護衛騎士として隣にいた。
あの日からなぜかルーファスにだけは砕けた態度で話せるようになり、今のように愚痴をこぼすこともしばしばある。
そして彼もまた、そんなセラフィナに心を許し、まるで友人のような関係に落ち着いた。
「でもさ、なんでそんな遊学に拘るの?」
ルーファスの疑問はもっともだ。
普通、王族は遊学なんてせず、自国のことだけ学んで大人になる。
それが女性ならば尚更、自国で降嫁するか、他国に嫁ぐか。
他国に嫁ぐにしても、2、3年猶予があり、その間にその国について学ぶのがフローリア王国では一般的だった。
自身の生き方が一般的じゃないのは、セラフィナも自覚している。
「嫁いだら、どこにも行けないでしょう?」
セラフィナの目が遠くを見つめる。
賢いからこそ、自分の結婚に自由がないこと、自分の将来が制限されていることを、理解していた。
好きな人と結婚することは叶わない。
ならせめて、ルシアンと語り合って育てたこの知識たちは大切にしたいと。
「その前に、自分の知識を試したい。たくさんのことを知りたい」
ただ少しだけ、自分以外の人と恋仲であるルシアンを見ていたくないという気持ちも混じっていた。
初恋は、未だセラフィナの中で燻っている。
姉であるオーレリアにも、初恋のルシアンにも、幸せになってほしい。
でも手放しに応援できるほど、過去にできてはいない。
2人を見るたびに、ちくり、ちくりと心を針で刺されるような痛みが、まだ好きだと実感させてくる。
こんな状態で、二人のそばにはいたくない。
ぎゅうっと、膝の上で重ねた両手を握りしめる。
「よし!じゃあ今日は気分転換に、散歩でもするか」
その場に似つかわしくない明るい声が響く。
それだけで、場の空気ががらりと変わった。
元気づけようとしてくれてるのが分かりやすい。
そんなわかりやすい護衛騎士が、セラフィナはけっこう好きだ。
もちろん、友人として。
「うん!」
ふわり、自然に、花が綻ぶように、セラフィナが笑う。
つられて、ルーファスも笑った。
そのまま小一時間ほど、庭園をああでもない、こうでもないと言い合いながら2人は行く宛もなく、ふらふら歩いた。




