悲しいのは
ちゅんちゅんーー。
目覚まし代わりの小鳥の囀りが聞こえる。快晴。まさに出発日和。
再び閉じようとする目を無理やりこじ開けて、ベットに腰掛けたまま大きく伸びをする。
視界に端に、生けた白い百合の花が入って、気持ちが緩む。
ーーこんこん。
まるでセラフィナの起床と呼応したかのように、扉がノックされる。
「どうぞ」
「失礼いたします。おはようございます、セラフィナ様」
「おはよう、セリーヌ」
ふわり、花が舞うかのような笑みに当てられて、セリーヌは笑みを深める。
先日17歳になったばかりのセラフィナは、まごう事なき絶世の美女になっていた。
撫子色の髪は柔らかく背中まで伸び、ふわふわ今にも舞っていきそうな儚さを孕んでいる。
薄紫色の瞳は透き通っており、彼女の純粋さを象徴するようだ。
絹のようなきめの細かい白い肌。
内側からじゅわっと血色感が溢れ出たかのような、とれたての桃のような、果実を思わせる小さな唇。
細く引き締まった手足。
身長は余り伸びなかったが、その華奢さが儚く、庇護欲を駆り立てる。
日に日に美しく成長するセラフィナを、セリーヌでさえも見慣れることはない。
「いよいよ今日ね」
「そうですね。準備してしまいましょう」
セリーヌの一声で、どこに待機していたのか、20名ほどの侍女がセラフィナの私室に入ってくる。
てきぱき、セラフィナを着替えさせ、保湿をし、メイクを施し、髪を結う。
浮腫とりのマッサージも忘れない。
フローリア王国の象徴とも言える赤色をところどころに施しつつも、セラフィナ特有の儚さも損なわない、どこに出しても誇れるお姫様が誕生した。
白い百合のモチーフのコサージュは、長い間セラフィナのお気に入りだ。
いつからか、セラフィナの誕生日には、白い百合の花束が届くようになった。
差出人はわからない。それでも、セラフィナにとって、白百合は特別な花。
そんな百合のコサージュを身につけるほど今日は、セラフィナにとって、とても大切な日。
そのはずだった。
「なぜですの!お父様!」
悲鳴に近いセラフィナの声が、朝の食堂に響く。
立ち上がって、今にも詰め寄らんばかりだ。
普段家族の前であっても、淑女然とした様子を崩さない彼女のとても珍しい姿に、周りの侍女や執事たちも、止めた方がよいのか決めあぐねて狼狽えている。
「落ち着きなさい、セラフィナ」
父である王の言葉に、自分が取り乱していることを知った。
ふぅと息を吐き、少しだけ落ち着きを取り戻たセラフィナは、すとんと席に腰を下ろす。
大人しくなったセラフィナに頷き、王が続ける。
「エシュリオン王国と、我がフローリア王国を結ぶ橋が、今朝、崩落したと知らせを受けた」
エシュリオン王国。
セラフィナの姉であるアラベラ・ウィンターミアが嫁いだ隣国である。
セラフィナは今日から、その隣国に遊学で訪れる予定だった。
「なぜ…今日なんですの…」
「アッシュフォード公爵家総出で修理中だ。また機会がある。そう落ち込むな」
また機会がある。そう言われても、王族の遊学を取り決めるのがそんなに簡単ではないことくらい知っている。
今回だって、何回も掛け合って、やっと手に入れた機会だったのに。
ズーンと効果音がつきそうなほど、落ち込むセラフィナを横目に、オーレリアもまた、悲しい目をしていることに誰も気がつかなった。




