緩やかに
「兄さま……」
戦の後始末に追われるなか、声をかけてきたのは随分可愛らしい女の子だった。
「ん?どうした元」
「お忙しい身とは存じますが、母上のご容態が……」
「……分かった。すぐ向かう」
貞ちゃんと違って随分おとなしい性格に育ったもんだ。
遠くに嫁いだ妹を思い出しながら、腰を上げる。
母上の容態は去年の春から徐々に悪くなっている。
意識が薄れるようなこともないが、その体には顕著に症状が出ている。
何かの病かと思いお医者さんに診てもらったが、この時代の医療では何の病気か分からなかったらしい。
いわゆる不治の病である。
父上の時を思い出さないこともない。
しかし今回の母上は病のことを俺に伝えている。
俺がこの家の当主だからだろうか。
なので父上と違い、緩やかに死へと近づくその様を直視し続けなくてはならない。
これまた違う苦しみだ。
現代の俺は人の死を見た事があっただろうか。
「母上、龍興にございます」
襖の前から声をかける。
「……入りなさい」
中から返事が来たと思ったら襖がスッと開いた。
開けてくれたのはお常さん、元ちゃんの乳母さんである。
涙ぐんでいる……どころかもうすでに泣いているこの人が母上のお世話をしてくれている。
「失礼します」
中に入ると母上は辛そうにしながらも上半身を起こしてくれた。
その背中を元が支える。
「お加減はいかがですか」
「……良いとは、言えませんね」
苦笑をその顔に浮かべながら答える母上。
そして俺の方に向かって手招きをする。
その手に釣られて身を寄せた俺の頭を抱え込むようにして引き寄せた。
「貞から手紙は届きましたか?」
「……はい、しかしこちらに来るのは難しそうです」
「そう……仕方ありませんね」
そう言って俺の頭を撫でる。
「血の繋がりがないとは言え、殿の子なら私の子も同然」
「最期に顔を見たかったのですが……」
少し寂しそうにしながら布団のそばに置いてあった文を触る。
貞ちゃんから届いた手紙だろうか。
「……孫八郎殿にお頼みしてみますか?」
その様子を見て、思わずそう提案してしまう。
この時代の里帰りはそんな簡単ではないだろうと思いながら。
それを分かっていたのか、母上はゆっくり首を横に振る。
「それはやめておきましょう。お前も分かっているでしょう」
「……はい、申し訳ありません」
お久しぶりです。




