何もできないお殿様
「……との、殿」
「……はんべえ?」
どうやら隙間時間にうたた寝してしまったようだ。
お昼過ぎの気持ちいい空気と薄暗い部屋がそうさせるのだろうか。
目の前には膝をついた半兵衛が顔をのぞき込んでいた。
「片付けは終わったのか」
「はい。もう皆様方も戻られました」
ずいぶん長い間寝ていたのか。
座ったままだったためか、首が恐ろしく痛い。
「大事ないですか?」
「大丈夫……寝違えただけ」
「そうですか」
俺が首をなでながら眠気を覚ましていると、半兵衛は後ろから大きめの箱を取り出した。
「殿、約束のものです」
「ん……あぁ」
彼が持ってきたのは将棋だ。
約束というのは戦の前にしたあの約束だろう。
「六郎も呼ぼうか」
「いえ、それには及びません」
「それでは約束と違うぞ」
「……では一局だけ」
そんなに嫌なのか。
そう思い半兵衛の顔を見ると本当にどうした?と言いたくなる顔をしていた。
どうした?
「分かったよ」
「ありがたき幸せ」
そう言うと半兵衛の口元が弧を描く。
すっかりニコニコになった半兵衛が将棋の準備を始める。
駒を一つ一つ並べていく。
ちなみに俺は子供の頃から一度も駒を並べたことがない。
半兵衛に止められているからだ。
私が並べますので若は見ててください、としか言わないのだ。
「はぁ……」
「……やはり六郎を呼んできましょうか?」
ため息をついた俺を見てか、半兵衛は少し眉を下げながら問うてきた。
どうやら半兵衛と二人で将棋をするのが嫌だと捉えられたようだ。
「呼ばなくていいよ」
「しかし、」
「いいから。今のため息はそういうのじゃない」
誤解を解くとひとまず安心したような顔をする半兵衛。
長い付き合いで彼の表情も読み取れるようになってきた。
相変わらずクールではあるけど。
「……将棋にしろ戦にしろ、私は誰かいないと生きていけないのだな」
今回の戦も前回の戦も俺は遠くから見ていただけで何もしていない。
今もこうして将棋の駒を並べることすらできない。
「私は何かお前たちにできることはあるのだろうか」
「殿……」
あぁ不甲斐ない。




