興奮止まぬ戦場
半兵衛視点
「先陣は池田か……」
「如何いたします、半兵衛殿?」
「このままで宜しいかと。お願いできますか」
大きく頷く牧村をよそに戦場に目を向ける。
いつ火蓋が切られるか分からない状態で待ち続けるのは気が滅入る。
私は自分の肌が引き攣るのを感じた。
勿論、気の焦りや恐怖によるものであろう。
しかしそれ以上に私はこの状況に興奮していた。
「六郎殿、半兵衛殿のあの顔は何です?」
「時々半兵衛はあのような顔をする」
後ろでコソコソする二人の声が聞こえる。
それが気にならないほど、私は戦場に目が釘付けだった。
これほどの大仕事は初めてだ。
入道殿と先の殿の戦にて、私は入道殿側についた。
若君だった殿のお側から離れるのは心苦しかったが、当時の私には何もできなかった。
その戦にて、病に倒れていた父上の代わりに指揮をとったが、あれには己の血が沸るのを感じた。
少ない兵で敵方の兵を散らすのは爽快であった。
しかし入道殿は負けてしまった。
終わりか、と思った。
もう斎藤家の家臣ではおられぬ。
殺されはしなくとも、もう若様には会えぬ。
しかしまた会えた。
その時に心に決めた。
もうこの人を裏切るまい、と。
「半兵衛」
小右衛門と話し終えたのか、六郎が近寄ってきた。
こいつとは十五年に渡る付き合いがある。
しかしこいつの考えることは一向に分からん。
「何だ。今私は忙しいのだが」
「見ているだけではないか」
見ているだけではない。
と言いたかったが、それはそうだなと思った。
六郎は横に立ち、一緒になって戦場を見下ろした。
「殿もお可哀想だな。このように戦が多くては」
「そうだな。まだ十七ではないか」
珍しい事例とまではいかないが、苦労の多い道であろう。
「この先一色が生き残るには……お前の助けが必要だろう」
「何だ気色悪い」
「気色悪いとはなんだ!!」
急にこいつがほめてきた。
気色悪い。
「戦に立つ前、殿とお話ししたのだ」
「殿と?」
「その時に思った。殿は相当お前を頼りにしておられる」
六郎は顔をこちらに向けないまま言った。
殿はそういう所がある。
人を頼りにしすぎるのは、あまり良くないかもしれぬ。
「羨ましいの」
六郎が不機嫌そうに言った。
こやつの方が私より殿のお側にいたというのに何なのだ。
私が言うことだぞ、それは。
すると戦場の方から咆哮が聞こえた。
戦が始まったようだ。
「死ぬなよ、殿が悲しむ」
六郎が背を向ける。
「分かっておる、死ぬわけがなかろう」




