半兵衛との約束
「……皆は一旦下がってもらえないか」
「しかし殿!」
六郎が俺の言葉に反応して、腰を素早く浮かせる。
その肩を抑える常陸介が己が息子に声をかけた。
「殿の命じゃ、下がるぞ」
そう言うと常陸介は俺の方を見て頷いた。
助かるぜ。さすが大人。
六郎はまだ何か言いたそうだったが、俺に頭を下げると部屋を出ていった。
それに続くように続々と大人たちが出ていき、ついに半兵衛と俺との二人きりになった。
「将棋盤を挟まず話すのは久しぶりだな」
「そうにございますね」
ふと半兵衛の顔が緩む。
緩むと言っても口元だけだけど。
「どうした?」
「立派になられたな、と」
―――あの若がご立派になられましたなと、思いまして
思わず顔が顰められるのを感じる。
そう言えばあの人も同じこと言っていた。
俺の顔を見てか半兵衛は途端に真面目な表情になった。
「お気に触られましたか」
「……いや、そういうわけではない」
いけない。
当主たる者しっかりせねば。
顔を軽くたたいて気持ちを切り替え、半兵衛に話しかける。
「自信はあるのか?」
「あります、と言えれば良いですが……」
「ないのか?」
半兵衛は少し首をひねった後、小さな声で答えた。
「分かりませぬ」
「勿論策を考えることに関しては負けませぬ」
「ただ……皆様方がついてきてくれるか」
なるほど。
確かにウチの家臣団はまぁまぁ年上だらけなので二十歳そこそこの半兵衛はやりづらいかもしれない。
そんな半兵衛の心配をよそに俺は思わず笑みがこぼれた。
「……何故笑っておられるのですか」
今度は目線をじとりとさせた半兵衛が文句を言うように呟く。
久しぶりに見たなこの顔。
「半兵衛でも他の者を気にすることがあるのだな」
「……あります」
半兵衛が目線をついに俺からそらした。
完全に拗ねちゃった。
ごめんて。
そんな感じでちょっと、ちょっとだけ半兵衛をからかっていたら
「殿」
と呼ばれた。
何だろうと思って顔を上げるとすぐ近くに半兵衛がいた。
相変わらず肌が病気じゃないか心配するほど白いな~とか思っていたら、ふと半兵衛が口を開いた。
「殿、私は必ずこの戦に勝ち……」
「また殿のもとに帰ってきてみせまする」
さっきの真剣そうな顔はどこへやら。
半兵衛の顔は子供の時と同じ、クールだけどどこか優しい顔だった。
「……帰ってきたらまた三人で将棋しよう」
「六郎もですか?」
「六郎も、だ」
「……はっ」




