若君
今回は治兵衛視点です。
それに短いです。
将棋は嫌いだ。
いや、嫌いになったのだ。
手を抜かずに指せることがなくなってから。
「ちょっと待って、あ、でも待てはだめなんだっけ」
私の目の前で小さな頭が右へ左へ動いてる。
喜太郎様。
美濃斎藤家の跡継ぎ、義龍様のご嫡男。
齢は五つ。
私の四つ下である。
この方がおそらく私の主となられる。
「…よく似ていらっしゃる」
「ん?」
お父上と。
吊り気味の双眸、黒々とした髪、一本字の口元。
ただ若殿と違うように見えるのは、その幼さによるものか。
「どうした?」
将棋は久しく指していなかった。
指す相手がいなかったのだ。
子供相手ではつまらん。
弱いうえ、子供は負けるとすぐ癇癪を起こす。
大人相手もダメだ。
最初は付き合ってくれるが、私の方が強いと分かると二度と指してはくれない。
隣で呆けたように見ている彦丸は馬鹿ではないが阿保なので話にならない。
だから
「いいえ、何でも」
「そう?」
だからうれしかったのだ。
確かに若君は将棋がお上手ではない。
しかしこうして私と何回も指してくださる。
「こ、これとか」
「若君!それでは禁じ手です!」
「あ」
所詮私も子供なのだ。
遊び相手が欲しかっただけなのだ。
「治兵衛クン、これは」
「治兵衛」
「え?」
「治兵衛とお呼びください」
貴方様の武士としての器は図りかねますが
「この治兵衛、若君に一生ついていく所存です」
全く時代が進んでませんが大丈夫です。
ここからぼちぼち動きます。




