愛しき我が子
道三サイドです
「探せ!この辺りにいるはずだ!」
「はっ!」
自分を探す声を聞いた道三は音も立てずその場を立ち去った。
戦は終盤、日も落ちてきた。
空は嫌になるくらい澄み渡っていて、道三は思わず舌打ちをした。
このように晴れ渡った空、自分には似合わぬ。
もっと厚い雲で覆われ、雨が降っているくらいで丁度良い。
「大殿、いかがしますか」
隣から低い声で林駿河守通政が聞いてきた。
なんだかんだ周りにいた者共とも散りぢりになってしまい、残るは彼だけだった。
「ここから勝つことはできぬ」
「弱気な…何を仰せですか」
いちいち叱責してくれる彼とは長い付き合いである。
一回り年下ではあるものの、真面目な彼を随分振り回してしまった。
今もこうして道三の問題に付き合わせている。
彼に対して申し訳ないと思ったこともある。
だからどうというわけでもないが。
「…お主、子はおるのか」
ふとこの戦の原因を思い出し、隣の男に聞いてみた。
「おります。この前元服したばかりのが」
「そうか…」
そう言うと道三は黙ってしまった。
うんともすんとも言わない主に対し、好奇心が止まなかったのか
「やはり気になりますか、殿のこと」
と聞いた。
それに対し、顔を変えずに道三は答えた。
「当たり前じゃ。あやつのせいでこうなっておるのだぞ」
それに軽く笑いながら通政は道三の方を振り返った。
「大殿は心当たりはないのですか?」
「ん?」
「殿がこのような戦を起こした訳です」
そう言われた道三はふんっと笑みをこぼし
「おおかた、儂が悪いのであろう」
と言った。
通政は思わず意外という顔をした。
「大殿がご自覚なさっていたとは…」
「今ここで首を掻っ切っても良いのだぞ」
小競り合った後、道三は無表情に戻った。
「あやつが何かしらため込んでおるのは儂も勘付いておったわ。まさかここまでだったとは思わなかったがの」
「さようでございましたか」
「あぁ、我が子なのでな」
そう言う主の顔は怖いほどいつも通りだった。
この親子はいつから間違えていたのだろう、と通政は考える。
少なくとも利尚が豊太丸と呼ばれていた頃は普通の親子であった。
元服した後も共に鷹狩りなどに行っていた。
通政の記憶が正しければ、仲がこじれ始めたのは義龍が二十歳を超える間際だったか。
噂が流れ始めた。
義龍は道三の息子ではないという噂である。
この時代において、息子か息子ではないかは大きな意味を持つ。
義龍が猜疑心を持つのも無理はない。
それに対し、父親である道三は何もしなかった。
何かしていたら変わっただろうか。
「通政」
「はっ」
ふと道三が声をかけてきた。
「変なことを考えるでないぞ」
「変なこと?」
「あれと儂は何回やり直そうが、同じ道を辿るであろう」
道三はゆるゆると笑みを深める。
「そのような定めであったのだ」
「いたぞ、道三だ!」
そう言い残すと道三は己が息子の待つ方へ消えていった。




