決意の夜
父上視点です。
弘治元年(1555)年、十一月。
「孫四郎殿を、討つべきです」
違う腹から出てきた兄はそう言った。
もはや父も違うのであろうが。
そう考えていると悩んでいると思ったのか、道利は声を強めた。
「喜平次殿も討つべきです、殿」
城の奥の奥。
光も届かぬような場所で、血のつがらない兄弟にそう提言されている。
「そのようなことをして、どうするのだ」
分かっている身でぬけぬけとそう言う。
嫌な気分だ。酒がまずい。
道利は顔を変えぬまま私の酒をついだ。
もともと読めぬ男と思っていたが、今宵は特に読めぬ。
「…殿」
「そのようなことをしたら、大殿が何と言うか」
近かった距離をさらに縮めた道利がこちらをのぞき込む。
「このままでは殿が自らの手で政を行う日は来ぬかと」
「…分かっておる」
黒々とした目がこちらを捉える。
やはり似ている。
この男は間違いなく蝮の子だろう。
しばらく静寂が続いた後、道利は呟くように言った。
「…大殿は孫四郎殿か喜平次殿、どちらかに家督を譲らせる気です」
自分の頭がカッと熱くなるのを感じる。
目が重くなり、喉が一息に乾く気配がした。
酒を一気に煽り、そのまま頭を抱える私に道利は続けた。
「殿もご察しのはず」
分かってはいた。
このまま大殿が死ぬなどあるはずもない。
家督の件も想定内ではあった。
もともと大殿が退いたのは家臣たちからの不満が高まったからで、大殿自ら望んだものではない。
「…豊太丸様」
昔の名で呼んできた。
まだ私も道利も幼子だったころ。
まだ己は父上の子だと信じて疑わなかったころ。
「このままでは若が斎藤の家を継ぐことはありませぬ」
「そのためには、殿…」
酒はもう乾いていた。




