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「アウルル、お前を愛することはない」と初夜で白い結婚を告げた公爵アーノルドは、悪役令嬢アウルルにざまあされてしまう。  作者: 山田 バルス


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第四話 アーノルドの白い結婚を告げた理由

第四話 アーノルドの真実



 執務室には、重たい沈黙が落ちていた。


 先ほどまでの騒がしさが嘘のように、空気は張り詰めている。


「……つまり、どういうことだ」


 アーノルドは低く唸るように言った。


 ヘルナンデスの言葉――真実を語るべきという提案。

 それが何を意味するのか、理解はしている。


 だが、口にするのは簡単ではなかった。


「アーノルド様」


 ヘルナンデスが静かに促す。


「ここで誤解を解かないと、事態はさらに悪化します」

「……分かっている」


 深く息を吐く。


 ちらりと視線を向ければ、アウルルは興味津々といった様子でこちらを見つめていた。

 そこに妹のユー二フルムが部屋に戻ってきた。

 涙の跡を残したまま、不安げに部屋の様子を見ている。


(……妹まで来たか、これは逃げられんな)


 覚悟を決めた。


「……アウルル」

「はい」

「お前に白い結婚を提案した理由だが……」


 一瞬、言葉が詰まる。

 だが――続けた。


「お前に、未練があると思ったからだ」

「……え?」


 アウルルの目が、ぱちりと瞬く。


「未練……ですか?」

「ああ」


 アーノルドは頷いた。


「フリーランド第二王子への未練だ」


 その名前が出た瞬間、部屋の空気がわずかに変わる。


「王子は断罪され、廃嫡された」

「……はい」

「だが、お前が彼に夢中だったのは有名な話だ」


 淡々とした口調だったが、アーノルドの内心は穏やかではない。

 もし、アウルルの心が王子への恋心で溢れていたら……。

 この結婚生活を続けるのは、白い結婚のままになる。


「だから、簡単に割り切れるはずがないと思った」

「……」

「もし、まだ想いが残っているのなら」


 アーノルドは視線を落とす。


「俺がお前と中途半端に関わるべきではないと考えたのだ」


 静寂が広がる。


「白い結婚のままなら、いずれ……」


 言葉を選びながら、続ける。


「お前が、もう一度、王子とやり直す道も残せるかと思った」

「……っ」


 アウルルの瞳が揺れた。


「それに……」


 アーノルドは苦笑する。


「公爵位を継いだばかりで、仕事は山積みだ」

「……それは、見ていて分かりますわ」


 アウルルが小さく呟く。


「正直、余裕などない」


 書類の山。

 止まらない報告。

 領地運営、貴族対応、王都の政治――。


「そんな状態で、お前に中途半端に接すれば」


 ゆっくりと顔を上げる。


「俺の方が、お前に迷惑をかけてしまうかもしれない」

「……そうですね」

「だから、距離を置いた」


 はっきりと言い切った。


「お互いのために、な」


 アウルルは顔を伏せた。何かを考えているかのように。

 そして、沈黙が続く。

 数秒間、いや、もっと長く感じた。

 やがて彼女は顔を上げた。


「……わたくしの、ためだったのですか?」


 アウルルの声は、震えていた。


「ああ、二人のためだな」


 短く答える。実際、アウルルのためでもあるが、自分のためでもあるのだ。

 終わらない仕事にすり減っている自分に、彼女を受け入れる余裕はなかったと思えた。

 すると。


「ぷっ」


 不意に、ヘルナンデスが吹き出した。


「……何がおかしい」

「いえ……」


 彼は肩を震わせながら言う。


「アーノルド様は、やはり不器用です」

「なんだと?」

「ここまで遠回りしてどうするのですか」


 苦笑しながら、アウルルに向き直る。


「奥様。アーノルド様は、こういう方なのです」

「……」

「見た目は強く、威厳もありますが」


 ちらりとアーノルドを見る。


「中身は、かなり残念で……」

「おい」

「ですが……」


 ヘルナンデスは、言葉を続ける。


「とても優しい人です」


 その一言に、部屋の空気が少し和らぐ。


「だからこそ、私は騎士団を辞めてここに来ました」

「……そうだったな」


 アーノルドが考え深げに頷く。


「まあ、一番の理由はユー二フルム様を放っておけなかったからですが……」


 ヘルナンデスは、そっとユー二フルムに視線を送り、微笑む。

 ユー二フルもそれに応えるように笑顔を返す。


「それでもアーノルド様を、仕事で支えたいと思ったからです」

「……」


 アーノルドは、婚約者想いのヘルナンデスの言葉に感激した。

 感謝で胸がいっぱいになり、言葉がでなかった。


「ありがとうございます、ヘルナンデス様」

 ユー二フルムが、嬉しそうに小さく笑った。


「お兄さまは、昔からそうでしたものね」

「ユー二フルム?」

「鈍感で、不器用で……」


 だが、その目は優しい。


「でも、誰にでも優しくて」

「……」

「とても素敵な人ですわ」


 まっすぐな言葉だった。

 アーノルドは、思わず視線を逸らす。


(……やめろ。照れるだろうが)


 その様子を見て――

 アウルルが、ゆっくりと息を吐いた。


「……誤解、していました」


 そして、頭を下げる。


「申し訳ありません、アーノルド様」

「いや……こちらこそ、説明不足だった」


 ぎこちないやり取り。

 だが――確かに、空気は変わる。

 執務室は和やかな雰囲気に包まれていた。


「ですが」


 アウルルは顔を上げる。


「わたくしも、お話ししなければならないことがあります」

「……なんだ?」

「フリーランド王子のことです」


 一瞬、アーノルドの表情が強張る。


 どんな答えでも受け入れるつもりである。


「わたくしに、あの方への未練はありません」

「……本当か?」

「はい」


 はっきりと断言した。


「断罪されたとき……わたくしは絶望して、倒れました」

「……」

「そのとき、奇妙な夢を見たのです」


 アウルルは遠くを見るように語る。


「神の国にいる、自分の姿を」

「神の国……?」

「ええ」


 ゆっくりと頷く。


「そこではわたくしは」


 一呼吸置いてから続ける。


「筋肉のぶつかり合いが大好きな、腐の者でした」

「…………腐の者?」


 アーノルドの思考が止まった。

 腐の者とは、なんなのだろうか? 

 わからないが、そのまま聞き流す。

 再び彼女の声に耳を傾ける。


「推し活動に明け暮れ、推しに貢ぐために仕事をしすぎて、過労死した記憶があります」

「情報量が多すぎる!!」


 思わず叫ぶ。

 だが、アウルルは真剣だ。


「その記憶を思い出してから」


 静かに語る。


「フリーランド王子への恋心は、綺麗さっぱり消えました」

「……消えたのか」

「はい」


 にこりと微笑む。

 その笑顔は美しかった。


「今は――」


 一歩、アーノルドに近づいた。


「筋肉質な男性に、ときめきます」

「……」

「つまり」


 さらに一歩。

 アーノルドの腹に人差し指を当て、堅い腹筋をながら続ける。


「アーノルド様は、わたくしの好みなのです」

「……なっ」


 顔が熱くなる。

 完全に予想外だった。


「な、何を言っている……!」

「事実ですわ」


 照れるアーノルドに対して、堂々とした宣言だった。


 ユー二フルムが目がぱっと輝きに満ちる。


「まあ! お兄さま、よかったですわね!」

「よ、良いのか、いや、よくないだろう!!」


 即座に否定するが、声が裏返る。

 ヘルナンデスは、そんな三人を見て肩をすくめた。


「……どうやら、誤解は完全に解けたようですね」

「解けすぎている気がするが!?」

「細かいことは気にしないことです」


 さらりと言い放つ。

 そして、アウルルは静かに告げた。


「アーノルド様」

「……なんだ」

「わたくしのためを思ってくださり、感謝の気持ちでいっぱいです」


 まっすぐに見つめる。

 二人の視線が重なり、見つめあう。


「わたくしも公爵家を手伝いますわ」

「……」

「神の国の記憶も、知識も、すべて使って」


 強い意志だった。


「お役に立たせてください」


 その言葉にアーノルドは、しばらく何も言えなかった。

 だが、彼女の言葉がとても嬉しかった。


「……分かった。ありがとう」


 ゆっくりと頷く。


「よろしく、頼む」

「はい!」


 ぱっと笑顔が咲く。

 その眩しさに、思わずアーノルドは、わずかに目を細めた。


(……まさか)


 心の中で呟く。


(こんな形で、関係が変わるとはな)


 そして、

 ほんの少しだけ

 頬を染めるのだった。


 この時、アーノルドは、まさか、これからアウルルの神の知識が公爵家を大きく変えるとは、

 予想だにしていなかった。

 またそれが、王国を巻き込む大事件に繋がるとは。

 その時のアーノルドには、まだわからなかった。


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